何も食べられなかった野沢雅子、大福を食べたさとうけいいち監督「アシュラ」先行プレミア上映会レポ
1963年、「狼少年ケン」「鉄腕アトム」から、テレビアニメに出演し、代表作は「銀河鉄道999」の星野鉄郎、「ゲゲゲの鬼太郎」の鬼太郎、「ドラゴンボール」の孫悟空など。声を聞いたことがない人はいないんじゃないか、という程の大ベテラン声優、野沢雅子。そのひとがアシュラを演じてそう思ったと言った。
9月6日、新宿バルト9で映画「アシュラ」の先行プレミア上映会が行われた。
野沢雅子、林原めぐみ、平田広明、島田敏の声優陣と、主題歌を担当した小南泰葉、さとうけいいち監督が登壇。
客席を見渡すと、若い女性が多い。ツイッターで「アシュラ」で検索してみる。
「アシュラ試写会観に来た！」「これからアシュラ〜」というツイートを発見。そのいくつかのアイコンは、「TIGER＆BUNNY」だった。
「アシュラ」のポスターには、「『TIGER＆BUNNY』のさとうけいいち監督が放つ新たな衝撃作」とある。
野沢雅子の熱いことばが続く。
「いままで私が会ってきた少年たち（鉄郎や鬼太郎）とはまったく違います。アシュラは、産み落とされたときから親の顔も知らず、育ててくれる人もいない。でも、アシュラは生きるということを自然に身につけていきます」
「アシュラ」の舞台は15世紀中期（室町時代）。災害により荒野と化した京都で、飢饉のため、獣のように生きていくしかない世界。食べるものなど、ほとんどない。アシュラは生きるために、人の肉を食う。
「単純に観てしまうと、恐ろしいことだと思うかもしれない。でも、私たちだって、生きるために、他の生命を食べているわけです。人間って、生きるって、素晴らしいということが、きっとわかると思います」
しゃべっていて、泣きそうになるのを、ぐっとこらえている。
「父さんが泣いてしまう」
島田の目に、涙がじわっと溜まっているのに、隣に座っていた林原めぐみが気付く。
「儀助と若狭は、娘想いの父親、父親思いの娘。親子が戦や天災、貧困で究極の状況に追い込まれていく。……胸がかきむしられるくらいつらかった。どう、演じればいいのか悩みました……。この作品は、私なりの答えを、すぐ出すことはできない。悩み、考えて、人としてずっと関わっていくんだろうなという思いがあります」
ことばに詰まりながら、ひとことひとこと噛み締めながら語っていく島田。
『アシュラ』は連載当時、神奈川県で有害図書指定され、未成年への販売を禁止。社会問題にまで発展した、問題作だ。
声優にオファーする段階では、発禁ということは伏せられ、「ハードな作品」とだけ知らされていた。野沢は、子どもが人を食べるということは、単純な話ではない。ぜひやらせて、とアシュラ役を引き受けようと決意。
若狭の恋人役、洋七を演じる平田が、会場を笑いの雰囲気に持っていく。
「僕がお話をいただいたときは、『17歳の役だけど大丈夫？』としか言われてない。もっと、ハードな作品だとか、内容に関わることを考えてみたかったです（笑）。昔の17歳はもっと大人だからって言われたけど、（アフレコ時）僕48歳ですよ」
さとうけいいち監督とのコンビネーションも、すごい。
アシュラを演じているとき、現場に置いてあるお菓子を一口も食べなかったと野沢が話しているときに、さとうが平田に耳打ちをしていた。
平田が大声で言う。
「監督はむしゃむしゃ食べていたらしいですよ、大福！ 大福食べながら『アシュラ』つくったのかよ、がっかりですよ！」
「がっかりって言うなよ！」笑い合うさとうと平田。
平田は「TIGER＆BUNNY」で主人公の鏑木・T・虎徹を演じている。さとうとの息はぴったりだ。
「ことばで表すより、観て、感じていただくのが一番。いつも映画の宣伝のときは、ひとりでも多くの人をお誘いくださいと言うんですけど、『アシュラ』は、赤ちゃんも含めて、世界中の人全員に観て欲しいとおもいます。人間の生き方について、すべてを物語っていると思います」
締めくくる野沢。
イベント終了後、「アシュラ」音楽プロデューサーの小西岳夫さんとばったり。
「音楽、気合入れてつくりましたよ！」
音も、聴き逃せない。
会場には、ジョージ秋山による『アシュラ』の原画が数点展示されていた。……が、あれー、おれが知っている内容とは違っている。なぜだー、と考えていたら、ページ脇に「週刊少年ジャンプ」のハンコが押してある。あ、なるほど。
『アシュラ』は1970年から1971年まで「週刊少年マガジン」で連載。1981年に「ジャンプ」で読み切りが載り、その後のアシュラを描いている。映画「アシュラ」にも、少し反映されている……かも……？
エキレビ！では「アシュラ」公開に合わせて、野沢雅子さんのインタビューを掲載予定。乞うご期待！
（加藤レイズナ）
