『メアリー&マックス』 (C)2008 Screen Australia, SBS, Melodrama Pictures Pty Limited, and Film Victoria
 MOVIE ENTERの新人編集部員であるマサキが、ビビビ! ときた映画を紹介していきたいと思います。

 みなさんは、最近、手紙を書くことはありますか。私の学生時代にはよく授業中に手紙を回したりしていました。今は、携帯電話の普及により連絡手段がメールや電話になったり、FacebookやtwitterなどのSNSツールの登場によって、手紙を書く機会はなかなかありません。それが当たり前になってきている私たちに、忘れかけているものを教えてくれる作品『メアリー&マックス』はご存知ですか?

 本作は、2004年にアカデミー賞短編アニメーション部門に輝いたアダム・エリオット監督による初の長編作品。全て粘土で造られたクレイアニメーションなので、一見すると子供向けかと思いきや、見た目とは裏腹にブラックユーモア満載の“大人”のための映画に仕上がっています。

『メアリー&マックス』

 メルボルン在住の夢見がちで8歳の少女メアリーは、米国の誰かさんと文通をしようと思い立つ。電話帳から選び出した相手は、NYに住む、人づきあいの苦手な44歳の肥満男マックス。孤独だった日々を送っていたふたりは、メアリーが送った一通の手紙から、年齢、性別、大陸を越え、本当の“友達”となっていく。

 “知らない人へ手紙を書く”というのは、どこか夢のある話のようですが、監督が実際に20年間文通をした経験が基になっています。どこまでが実話か分かりませんが、こういう経験をしたことがある人がいるのかと思うと尚更グッときます。

クレイアニメだからこそ表現出来る独特の世界観

 濁った水たまりのような目をして、おでこにうんち色のあざがあるメアリー。肥満で友達のいないアスペルガー症候群のマックス。ヘビースモーカーでアルコール中毒、万引き常習犯のメアリーのお母さん、鳥の剥製を作るのが趣味のお父さん。個性的なキャラクターは細かく別れたパーツを少しずつ動かしながら撮影され、1日に撮れるのはたったの4秒、総製作時間約5年! なんとも気が遠くなる作業です。全て手作業で作られているせいか、作品自体にどこか暖かみを感じます。また、物語が展開していくにつれ各キャラクターの本質が見えてくるとだんだんと愛着が湧いてきます。

 人形やセット、小物はもちろんですが、色にもこだわっています。オーストラリアのシーンはセピア、ニューヨークのシーンはモノクロで描かれ、赤色だけはどちらのシーンでもポイントとして表現されているのです。

「欠点は選べないけど友達は選べる」

 マックスは、セミナーに参加していますが病気を治そうとは思っていません。むしろ治したくないのです。なぜなら、彼にとって“アスペルガー症候群である自分”が“自分”なのです。外見にコンプレックスがあり、いじめられ、友達がいなくてずっと孤独だったメアリーに「欠点は選べないけど友達は選べる、親は選べないけど友達は選べる」と言います。よく「親は選べない」とは言いますが、その後に続く言葉があったんですね。
 
 手紙のやりとりを中心に展開していくので、途中長いと感じてしまいますが、最後にガツンとやられます。4月23日より順次公開していて、まだ劇場で観るチャンスがあります。ビビビ! ときた方はチェックしてみて下さいね。

映画はビビビ! のマサキの所見評価

グッとくる度:★★★★

友達と楽しめる度:★★

ブラックユーモア度:★★★★

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編集部的映画批評
『メアリー&マックス』 - 公式サイト
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