「本当は起用したい」けど…秋ドラマに「STARTO」アイドルが主演ではなく、2番手出演する「テレビ業界の本音」
『Nスペ』に対する業界内の声
20日に放送された『NHKスペシャル ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像』(NHK総合)がネット上で反響を集めた。
「NHKにしてはよく踏み込んだ」「新規出演の解禁と矛盾しているのでは」「紅白に出すためのみそぎなのか」などと賛否の声があがり、ネットメディアもそれらの反応を一斉に記事化。急いで民放テレビマンたちに話を聞くと、「NHKの現役局員が出演しなかったのはずるい」「NHK内部で意見が分かれているのだろう」などの内情に関わる疑問の声が多かった。
さらに共通していたのは、「出演解禁のタイミングに合わせた放送日が白々しい」という指摘。NHKはわずか4日前の16日にSTARTO ENTERTAINMENT所属タレントの新規起用再開を発表したばかりだけに、そう言われるのも無理はないだろう。
ではSTARTO所属タレントに対する民放各局の起用スタンスはどうだったのか。
毎クール主演ドラマ2〜3作を放送
基本的に民放各局は旧ジャニーズ事務所からSTARTO ENTERTAINMENTへの移行期間も含め、所属タレントの起用を続けてきた。
バラエティや情報番組への出演に加えて、顕著だったのがドラマ。今年のゴールデン・プライム帯(19〜23時)を振り返ると、まず1月期の冬ドラマでは、『マルス-ゼロの革命-』(テレビ朝日系、火曜21時)でなにわ男子・道枝駿佑、『新空港占拠』(日本テレビ系、土曜22時)で嵐・櫻井翔が主演を務めた。
4月期の春ドラマでは、『特捜9』(テレビ朝日系、水曜21時)でTOKIO・井ノ原快彦、『Believe-君にかける橋-』(テレビ朝日系、木曜21時)で木村拓哉、『街並み照らすヤツら』(日本テレビ系、土曜22時)でSixTONES・森本慎太郎が主演。
続く7月期の夏ドラマでは、『海のはじまり』(フジテレビ系、月曜21時)でSnow Man・目黒蓮、『しょせん他人事ですから』(テレビ東京系、金曜20時)で中島健人、『ビリオン×スクール』(フジテレビ系、金曜21時)でHey!Say!JUMP・山田涼介が主演。
各クール全18作中、冬ドラマは2作、春ドラマは3作、夏ドラマは3作の主演ドラマがあった。つまり常に2〜3本程度の主演ドラマが放送されているだけに、「これまで通り起用を続けてきた」と言っていいだろう。
しかし今秋、STARTO所属タレントの主演ドラマは18作中0作。その代わりに『モンスター』(カンテレ・フジテレビ系、月曜22時)にSixTONES・ジェシー、『民王R』(テレビ朝日系、火曜21時)になにわ男子・大橋和也、『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系、火曜22時)にKis-My-Ft2・玉森裕太、『わたしの宝物』(フジテレビ系、木曜22時)にSnow Man・深澤辰哉が事実上の2番手ポジションで出演している。
なぜここに来て主演ではなく2番手ポジションでの起用なのか。また、昨年9月に行われた「旧ジャニーズ事務所の謝罪会見から1年」というタイミングとの関連はあるのか。さらにマネジメント会社が変わった今なお忖度は存在するのか。それとも、なりふり構わぬシビアな制作姿勢なのか。
業界内の事情と思惑、ドラマの評価基準、彼らに期待されていることなどの多方面から現状を紐解いていく。
謝罪会見から1年後の主演オファー
やはり「謝罪会見から1年」というタイミングの関連は少なからずあるだろう。
ドラマのキャスティングはプロデューサーにとって重要な仕事であるとともに、その難しさが増している。2020年代に入ったころから配信再生の稼ぎ頭としてドラマ枠が増え、動画配信サービスでもオリジナル作品が増える一方。さらにコロナ禍の撮影中断などを経たことでキャスティング時期の前倒しが進んだ。
特に視聴率や配信再生が獲得できそうな俳優は競争率が高く、もちろん企画内容やスタッフの顔ぶれは重要だが、「キャスティングは早いもの勝ちになった」と言うプロデューサーもいる。そんな背景の中、昨年9月に旧ジャニーズ事務所の謝罪会見が行われ、スポンサーの起用見送りなどもあって「しばらくはオファーしづらい」という現場の声を何度か聞いた。
少なくともあの段階では「1年後の主演に起用するのは相当な理由がない限り難しい」というムードがあった。そのため春ドラマ以降あたりから助演も含め、「他事務所の若手俳優を積極的に起用しよう」という動きが目立っている。
事実、今秋を見ても、『嘘解きレトリック』(フジテレビ系、月曜21時)でフォスターの鈴鹿央士(24歳)、『オクラ〜迷宮入り事件捜査〜』(フジテレビ系、火曜21時)でトップコートの杉野遥亮(29歳)、『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』(日本テレビ系、土曜22時)で研音の竜星涼(31歳)が主演を務めている。
さらに前期の夏ドラマでも、『マウンテンドクター』(カンテレ・フジテレビ系、月曜22時)で杉野遥亮、『降り積もれ孤独な死よ』(日本テレビ系、日曜22時30分)でソニー・ミュージックアーティスツの成田凌(30歳)、また、『南くんが恋人!?』(テレビ朝日、火曜21時)のLDH・八木勇征(27歳)も事実上のダブル主演と言っていいだろう。
いずれにしても「今回の騒動をきっかけに、ジャニーズ優先だったキャスティングを変えていこう」というムードがあったことは確かだ。その背景に「事務所の力やアイドルとしての人気優先ではなく、実力とのバランスで選びたい」というクリエイターの矜持を取り戻したかのようなムードがあったことも付け加えておきたい。
業界で評価されるファンへの影響力
謝罪会見が行われた1年前、すでにキャスティング済みの2024年冬・春・夏ドラマはさておき、「秋ドラマにSTARTOの所属タレントを新規起用しない」という判断もできたはずだが、民放各局はそれをしなかった。
選ばれたのは、SixTONES、なにわ男子、Kis-My-Ft2、Snow Manという各グループから、ジェシー(28歳)、大橋和也(27歳)、玉森裕太(34歳)、深澤辰哉(32歳)というアラサーの若手。しかも「本人と制作サイドの両方が批判を受けやすい主演ではなく、出演シーンが多い割に矢面に立たなくて済む2番手ポジションで彼らのファンを引きつけたい」という一致した狙いが見て取れる。
各局のテレビマンがほぼ一致しているのが、「ファンへの影響力」に対する評価の高さ。多くのスポンサーが重視するコア層(主に13〜49歳)の個人視聴率を上げるだけでなく、配信でのリピート再生、XなどSNSの動きなどは他事務所のタレントを大きくしのぐとみられている。
特にSnow Manのファンへの影響力に対する評価は高く、「メンバーをどの作品のどの役柄でキャスティングしていくか」は課題の1つ。この点はSTARTOへの忖度ではなく、「純粋に数字を狙っている」と言っていいだろう。そんな姿勢は今秋のドラマにも表れている。
『わたしの宝物』のメインは松本若菜(40歳)、田中圭(40歳)、Snow Man・深澤辰哉(32歳)の3人だが、8歳の年齢差に加えて、俳優としてのキャリアの差は大きい。松本と田中はドラマ出演だけで優に100作を超えているが、深澤はまだ10作に満たない段階。深澤に非がなく懸命に挑んでいることはわかっていても、2人と三角関係で渡り合うことに違和感を訴えたくなるのは仕方がないだろう。
民放が起用したい若手4グループ
ただ、深澤には「数字で貢献できる」という武器があり、それは放送収入減に悩まされる現在のテレビ業界にとって極めて重要なものと言える。たとえ深澤やSnow Manのファン以外には不評だったとしても、一定の数字を得られたらビジネスとしては「OK」であり、次の番組制作につなげられるからだ。
同様に『モンスター』のSixTONES・ジェシーも“弁護士ドラマ”というジャンルの堅さを和らげ、ファンへの影響力で数字を獲ることが期待されている。たとえば、主演の趣里とコンビを組むのが若手の専業俳優だったら、もう少し作品全体のイメージが堅く、SNSでの話題性も低かったのではないか。
現在テレビマンが起用したいSTARTOのグループは、主にSnow Man、SixTONES、なにわ男子、さらに今秋はドラマ出演こそないがKing & Princeあたりの若手とみられている。しかし、「ゴールデン・プライムタイムで主演を担えるメンバーはまだほとんどいない」「現段階では目黒蓮くらいで、永瀬廉と道枝駿介は少し早かった」というのが現実的な評価だ。
現時点で主演に起用されるケースが多いのは、木村拓哉、井ノ原快彦、亀梨和也、山田涼介、中島健人、菊池風磨あたりに留まっている。それでも若手グループの影響力は年々増しているだけに、「2〜3番手のポジションで数字に貢献してもらいながら、認知度と経験を積み上げてもらえたら」というのが本音だろう。
現在はSMAPや嵐のメンバーが主演を務め続けた時期からの過渡期。さらに昨年の騒動を受けて抜てきがしづらい状況下にあるだけに、しばらくは主演というより若手グループからの2番手起用が続いていくのかもしれない。
「非はない」「恩恵を受けた」の両論
最後にもう1つあげておきたいのは、STARTO所属タレント個人に対するテレビマンたちの本音。彼らは旧ジャニーズ事務所時代に所属タレントと接してきたため、「そもそも本人たちに非はない」という見方のスタッフが少なくない。もちろん個人差はあるが、礼儀正しさや地道な努力を称える声も多く、「また一緒に仕事がしたい」「力になってあげたい」という人もいる。
ただその一方で旧ジャニーズ事務所に「形に残さない圧力で忖度を余儀なくされた」ことをはっきり覚えていて、「これからは実力優先でオファーしていきたい」と言うテレビマンも少なくない。実際、一年前の謝罪会見以降、「これまで実力以上の恩恵を受けていたから、これからは本当の実力が問われる」というシビアな声を何度も聞いていた。本当に彼らの人気に頼らず実力優先を貫けるのなら、来年のキャスティングに表れるだろう。
それでも放送時間が深夜帯となれば話は別で、「主演をやってもらいたい」というのがテレビマンたちの本音。今秋もtimelesz・菊池風磨が『私たちが恋する理由』(テレビ朝日系、土曜23時)、NEWS・小山慶一郎が『高杉さん家のおべんとう』(日本テレビ系、水曜24時29分)、Aぇ!group・佐野晶哉が『離婚後夜』(テレビ朝日系、土曜26時30分)で主演を務めている。
その理由は、深夜帯でも一定の視聴率を稼ぎ、安定した配信再生数が期待できるから。やはりSTARTOの所属タレントはファンたちの“推す力”が強いため、実績の面で大失敗に終わるリスクが低い。「だからSTARTOとは他の事務所以上に円満な関係性を保っていきたい」と考えるのは、どの業界でも商習慣上、当然のことだろう。
2番手ポジションや深夜帯での起用を見る限り、現時点における各局とSTARTOの関係性は正常なものに見える。