趣里

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個人視聴率の平均値

 秋ドラマがほぼ出揃った。民放のプライム帯(午後7〜同11時)には16作品ある。どの作品がスタートダッシュに成功したのか? 序盤の個人視聴率の平均値をランキング化した。今後、人気が高まりそうな作品も挙げたい。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 秋ドラマの特色をざっくり書くと、日本テレビは相変わらずコア層(13〜49歳)に狙いを絞った作品が目立ち、テレビ朝日はいつもながら中高年を意識したシリーズ作品と続編を並べた。

 TBSは野心作が目を引き、フジテレビは謎解き系が多い。テレビ東京はプライム帯では1本しかない連ドラの放送枠を金曜午後8時台から同9時台に移した。

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 戦略が成功したのはどの局か? 序盤の個人視聴率の平均値をベストテン化した。個人視聴率は2020年4月からNHKを含めた全局と広告代理店が採用している標準値である。

 個人視聴率は視聴者人数が分かる。関東地区で1%なら、観ていた人は39万9000人。旧標準値の世帯視聴率は家を数えるだけなので、視聴者人数が分からない。無論、視聴者の性別や世代も不明だ。

 個人視聴率の死守ラインは、テレビを観る人が減る午後10時台と同9時台ではやや異なるが、目安は2%以上。3%以上がおおよその合格点で、5%を超えるとヒットの認定を受ける。

 大ヒットは8%以上。ハードルが高いようだが、届かない数字ではない。TBSの昨年の夏ドラマ「日曜劇場 VIVANT」は第3回から最終回(通算10回目)まで8回分が8%超えを達成した。

 今年の秋ドラマで8%超えはまだないものの、可能性を秘めている作品はある。

(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区。9月30日〜10月20日放送分を集計。このため、放送開始前だったテレ朝「民王 R」、同局系「マイダイアリー」は集計外)

1位:テレ朝「相棒23」(水曜午後9時)
平均値7.0%/初回(10月16日放送分)

2位:TBS「日曜劇場 海に眠るダイヤモンド」(日曜午後9時)
平均値6.9%/初回(同20日放送分)

3位:テレ朝「ザ・トラベルナース」(木曜午後9時)
平均値6.3%/初回(同17日放送分)

完成度が高い「相棒23」

「相棒23」はいつもと変わらず完成度が高い。世界をマーケットにしている米国刑事ドラマと見比べても引けを取らない。

 第1回、2回では元国家公安委員長の代議士が刺し殺される事件が発生する。続けて総理の爆破暗殺未遂事件も起こる。捜査1課は連続テロと見立てるが、特命係の杉下右京(水谷豊)は両事件が全く違うものだと推理。相棒の亀山薫(寺脇康文)と真相を追う。

 元国家公安委員長殺害の犯人は同僚への冷遇を恨んだ地域課警官だった。一方、総理暗殺未遂事件の黒幕は与党幹事長という筋書き。意外な展開だったが、矛盾は感じられず、よく練られた脚本だった。

 幹事長の利根川役でゲスト出演したでんでん(74)の怪演も良かった。ゲストを含め、出演者にブレーキとなる人がいないのもこの作品の強み。シーズン23はコア視聴率も悪くない。

「海に眠るダイヤモンド」の脚本は野木亜紀子氏。過去の作品は日テレ「獣になれない私たち」(2018年)などエンターテインメント色が強かった。

 しかし、昨年はWOWOW「連続ドラマW フェンス」で沖縄の基地問題や米兵による性的暴行問題などを描き、社会派色が濃くなってきた。硬軟どちらの作品も秀作ばかりで、「フェンス」は権威あるドラマ賞を総ナメにした。

「海に眠るダイヤモンド」も社会派色が強い。舞台は石炭景気に沸く1955年の長崎県端島(通称・軍艦島)と現代の東京である。

 野木氏は「フェンス」では沖縄を通じて日本の構造的問題点をえぐり出した が、今度は高度成長期の端島と現代の東京を使い、日本という国の正体を表そうとしているのではないか。

 主人公は2人。まず端島編は炭鉱を運営する鉱業会社の事務職員・荒木鉄平。炭鉱員の家で生まれ、長崎大卒業後に自分も石炭に関わる道を選んだ。

 現代編は非情になれぬ売れないホスト・玲央が主人公。どちらも神木隆之介(31)が演じている。野木氏は日本の繁栄を築き上げた名もなき人々とその栄華を浪費する現代の若者を対比させようとしているのだろう。

 野木氏の主張はそれだけではない。今も続く日本社会の悪しき矛盾も糾弾している。鉄平が初回で言った通り、炭鉱員がいなかったら、高度成長期はなかったのだが、不当に軽視された。大抵は学歴がなく、真っ黒になって働いていたからである。 職業に関するいわれなき差別や偏見は今も続く。

 過去の端島と現代の東京のどちらにも存在するのが、謎の老婦人・いづみ。 宮本信子(79)が演じている。いづみは過去、端島で暮らしていた。現代編で、鉄平に瓜二つの玲央に接近してくる。

 若き日のいづみが誰なのかはまだ分からない。鉄平と同じ大学に通った百合子(土屋太鳳)か、食堂の看板娘・朝子(杉咲花)か、端島に渡ってきたジャズ歌手・草笛リナ(池田エライザ)か。3人とも鉄平と近い。

 初回で鉄平は厭世的になっていたリナに対し、「人生変えてみないか」と言った。一方、現代編で自堕落な日々を送る玲央に向かい、いづみが同じことを言った。シンプルに考えると、いづみはリナだが、まだハッキリしない。そもそも考察を楽しむ類の作品ではないだろう。

 10月第3週(14〜20日)のコア視聴率はトップ。野木作品は途中から迷走することがないので、今後は個人視聴率の8%超えも十分あり得る。

「ザ・トラベルナース」は2022年にヒットした作品のシーズン2。主演は岡田将生(35)と中井貴一(63)で、役柄はともにフリーのナース。岡田が演じる那須田歩はプライドが高く、中井が扮する九鬼静は嘘吐きという欠点があるが、ともに技量と熱意が高い。

 2人は西東京総合病院に赴任した。そこには労働問題などが山積していた。脚本はテレビ朝日「Doctor-X 外科医・大門未知子」(2012年)などの中園ミホ氏なので、安心して観られる。

「嘘解きレトリック」は実力派の2人

4位:フジ「嘘解きレトリック」(月曜午後9時)
平均値3.9%/初回4.1%(同7日放送分)と第2回3.7%(同14日放送分)

5位:フジ「オクラ〜迷宮入り事件捜査〜」(火曜午後9時)
平均値3.65%/初回4.3%(同8日放送分)と第2回3.0%(同15日放送分)

6位:フジ系「モンスター」(月曜午後10時)
平均値3.6% 初回(同14日放送分)

「嘘解きレトリック」の主演は2人。ともに若いが実力派の鈴鹿央士(24)と松本穂香(27)である。松本の確かな力は主演映画「みをつくし料理帖」(2020年)などで証明されている。

 鈴鹿の役柄は心優しき名探偵・祝左右馬。松本はその助手役で、相手の嘘が見抜けてしまうという特技を持つ。作風は全体的に落ち着いている。

 時代設定はまだ戦争が遠く、自由な空気が漂っていた昭和初期。約100年前の街の雰囲気や人々の暮らしも楽しめる。

「オクラ」の主演は反町隆史(50)と杉野遥亮(29)。役柄は警視庁捜査1課特命捜査情報管理室の刑事。2人がお蔵入りした未解決事件を追う。

「モンスター」は趣里(34)にとってプライム帯の連ドラ初主演作。仕上がりが良いので、人気が高まっていきそう。

 役柄は高卒の弁護士・神波亮子。やたら態度が大きく、嫌味な人間だ。法廷で証人らに対し「嘘つき」などと言い放つこともある。

 ただし、頭脳明晰で法廷戦術にも長けている。腕利きだ。裁判はゲームであり、ゲームには絶対勝つことを信条としている。

 同局系「僕の生きる道」(2003年)などを書いてきた橋部敦子氏の脚本が光る。趣里の演技も出色だ。

 NHK連続テレビ小説「ブギウギ」(2023年度下期)で演じたヒロインの福来スズ子役は天真爛漫だったが、今回の亮子は一転してブラックな雰囲気。それを無理なく演じ、演技の幅の広さを見せつけている。

7位:日テレ「放課後カルテ」(土曜午後9時)
平均値3.4%/初回3.0%(同12日放送分)と第2回3.8%(同19日放送分)

8位:TBS「あのクズを殴ってやりたいんだ」(火曜午後10時)
平均値3.4%/初回3.6%(同8日放送分)と第2回3.2%(同15日放送分)

9位:「D&D 〜医者と刑事の捜査線〜」(金曜午後9時)
平均値3.3%/初回(18日放送分)

10位:TBS「ライオンの隠れ家」(金曜午後10時)
平均値3.05 %/初回2.8%(同11日放送分)と第2回3.3%(同18日放送分)

「放課後カルテ」は主演の松下洸平(37)が小学校の学校医・牧野峻に扮している。構成に安定感がある。

「あのクズを殴ってやりたいんだ」はこの放送枠の十八番であるラブコメ。主演の奈緒(29)がボクシングを習う市役所職員・佐藤ほこ美に扮している。ボクシングを習う目的は、一度は惚れたクズ男・葛谷海里(玉森裕太)を殴るためだ。

「D&D」の主演は外科医・紙木良役の藤木直人(52)と刑事・弓削文平役の寺島進(60)。放送時間帯を午後8時台から同9時台に繰り上げたのが功を奏し、個人視聴率が大幅にアップした。しかし、コア視聴率が極端なまでに低い。若い人があまり観ないのは主演2人のファンの年齢と関わっているだろう。

「ライオンの隠れ家」の主演は柳楽優弥(34)。役柄は市役所職員・小森洸人で、自閉スペクトラム症の弟・美路人(坂東龍汰)と暮らしている。

 そこへライオンを自称する謎の少年(佐藤大空)が現れ、兄弟を大混乱に陥れる。それでも警察等に届けなかったのはライオンが兄弟の異母姉・愛生(尾野真千子)の子供かも知れないから。

 ライオンには体に痣がある。虐待されていたらしい。兄弟と生き別れた愛生の身に何があったのか。ミステリー仕立てで肉親愛を問う物語。個人視聴率が上向いている。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部