1958年に発表された大藪春彦の同名小説を、監督・村川透、主演・松田優作で1980年に劇場公開された「野獣死すべし」がWOWOWプラスにて放送される。

■ロボットのような無感情で不気味な主人公を演じる松田優作

無表情が印象的な松田優作

(C)KADOKAWA 1980

大藪春彦の「野獣死すべし」は、発表翌年に監督・須川栄三、主演・仲代達矢にて映画化されており、その後、1974年に「野獣死すべし 復讐のメカニック」として藤岡弘、主演で再度映画化。本作が3度目の劇場版となった。

松田演じた伊達邦彦は、東大卒で大手通信社に勤務。世界各地の戦地を取材し、その凄惨さを目の当たりにした後に帰国し、翻訳の仕事をしているという男だ。伊達は一見高身長でインテリ、クラシックをたしなむなど、絵にかいたようなエリートだが、まったくと言っていいほど感情を表に出さないロボットのような佇まいだ。

松田と言えば、原作・大藪、監督・村川というタッグで前年に「蘇える金狼」という映画が公開されているが、本作で松田が見せる表現はまったく違う。

一言でいうと、伊達は何を考えているのかがまったく分からない非常に不気味な男だ。いきなり刑事を襲い拳銃を奪う。その足で秘密賭博場の暴力団3人を殺害したかと思えば、何食わぬ顔で日常を無機質に過ごす。いまの表現で言えばサイコパスということなのだろうが、物語の序盤、行動の動機がまったく透けてみえてこないのだ。

■10キロ減量、奥歯4本を抜いての役作り

(C)KADOKAWA 1980

話が進むにつれて、伊達のバックボーンが少しずつ描かれてくる。通信社の記者として、地獄のような戦地でシャッターを切り、少しずつ心に負荷がかかってくる。こちらも今の時代で言えば、PTSDに悩まされる青年ということなのだろう。

地獄絵図がフラッシュバックする。そのトラウマに抗うのか、従うのか、どちらともいえないような形で、次々に人を殺めていく。まさに狂気の沙汰であるが、一方で、銀行強盗を行うために、防犯カメラの位置や、警察がやってくる時間などを確認するなど、綿密に計画を練る細やかさもある。

そんな相反する行動を、まったくと言っていいほど無感情で行う狂気性は、松田にしか出せないような表現だ。本作で松田は、伊達を形作るため、10キロ減量し、奥歯を4本も抜いたというが、伊達という男の過去が分かってくるにつれて、さらに不気味さが増していくというのは、松田の持つ奥行きだろう。

(C)KADOKAWA 1980

映画公開時、松田は31歳。その後、「家族ゲーム」や「探偵物語」、「ブラック・レイン」などの名作を残しているが、最終的に40歳で亡くなる松田にとって、ちょうどキャリアの中盤に当たるのが本作。唯一無二という意味では、その存在感を強く示した映画だったと言える。

本作には、伊達の相棒となる真田徹夫を演じた鹿賀丈史、伊達を執拗にまで追う刑事・柏木役の室田日出男、マドンナ役の小林麻美が強い存在感を示しているが、それ以外にも、風間杜夫、岩城滉一、安岡力也、泉谷しげる、岡本麗、阿藤海(当時)らが短いシーンながら登場している。その後の重厚な佇まいを知ってから見ると、彼らの若かりし頃の姿は非常に新鮮だ。

文=磯部正和

放送情報【スカパー!】

野獣死すべし(1980)
放送日時:11月6日(水)21:00〜ほか
放送チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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