【レビュー】『ヴェノム:ザ・ラストダンス』エディとヴェノム、最後の戦いに涙 ─ 最終作にして新境地、ファンへのラブレター

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「壮絶な最終章」?「シリーズ完結作」?またまたぁ、そんな大袈裟な……。実際にを鑑賞するまでは半信半疑だった。どうせエディとヴェノムは、これからもよろしくやっていくんでしょ?

……ところが鑑賞を終えた今、その言葉の重みを痛感している。『ヴェノム:ザ・ラストダンス』は、本当にエディとヴェノム物語の“最後”を描く、まさにラストダンスそのものだったのだ。まさか、このシリーズに、あの凶暴な黒いヌメヌメに泣かされることになるなんて!ネタバレなしでレビューする。

エディとヴェノムのブラザーフッド・ロードムービー? Venom: The Last Dance

物語は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)で、エディ・ブロック(トム・ハーディ)がMCU(アース616)メキシコのバーを訪れていたシーンから始まる。エディはバーの店員から、スーパーヒーローたちの話を聞かされていたのだが、そこで元の世界に戻されてしまっていた。

ワケもわからないうちに帰還したエディは、前作『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021)クライマックスで描かれた大聖堂の戦いで、サンフランシスコ市警のマリガン刑事(スティーヴン・グレアム)を殺した犯人としてお尋ね者になっていた。追われる身となったエディとヴェノムは、着の身着のままで逃亡の旅に繰り出すことに。

そんな彼らの元に、謎の巨大モンスターが出現し、所構わず襲いかかってくる。さらに、エディとヴェノムを狙う最強の特殊部隊も彼らを執拗に追いかけてくる。言うのなら、アメコミ版『テルマ&ルイーズ』。いくつもの危険から逃げながら、二人は互いの絆を深めていく。彼らの旅路の最後に待っていたのは……?マーベル映画らしいスペクタクル・アクションをたっぷり披露しつつ、ブラザーフッド・ロードムービーとして、壮絶な終幕までひた走る。

二人の絆は永遠に

朝目が覚めて、一番最初に思い浮かべる相手はいるだろうか?エディにはいる。ヴェノムだ。何せヴェノムは、エディの頭の中に同居している。

多くのファンは、エディとヴェノムについて、愛情やからかいを込めて、まるで恋人関係のようだという。実際、前作『レット・ゼア・ビー・カーネイジ』では、ラブコメ的な演出も交えられていた。確かに彼らの間には、友情とも恋愛とも違う、不思議な絆が生まれている。この“共生”の旅が、彼らをどれだけ強く、そして愛おしい存在にしてきたことか──。

この広大なポップカルチャーの世界には、永遠に語り継がれる本物の名コンビというものが、限られた数だけ存在している。ウッディとバズ・ライトイヤー。R2-D2とC-3PO。あるいはトムとジェリー。たくさん喧嘩もするけれど、彼らは絶対に離れることができない。

こうした愛すべき名コンビたちの中に、エディとヴェノムも、その名を刻むことになるのだろう。性格はおろか、生態系すらも異なる二人が、ひとつの身体の主導権を共有し、時に奪い合いながらも、互いを補い合い、今日まで生き延びてきた。いつしか彼らは、互いに命を預け合うようになり、二人で一つの“リーサル・プロテクター”に成長した。

「お前がいないと、俺は生きていけない」とは、彼らは決して言わない。言わないが、前作で一度離別した時に、そのことをはっきりと感じていたはずだ。無骨で照れ屋なヴェノムは、「和尚いわく……」とかこつけて、エディにそれとなく本心を伝えている。「愛するということは すべてを受け入れること。欠点も すべて」。

「なぁ、相棒……」 エディとヴェノムの美しき最終章

優れたシリーズ映画とは、観客に対し、このシリーズへの思い入れがいかに深いものになっていたのかを、知らぬうちに気づかせてくれるものであると、筆者は信じている。好例を一つ挙げるのなら、サム・ライミ版のスパイダーマン。トビー・マグワイア演じるピーター・パーカーが3部作を通じて悩み、傷つくたびに、どうして自分はこの青年の人生にこんなにも胸を揺さぶられるようになったのかと、真剣に考えさせられる。

エディとヴェノムもそうだ。彼らの一見ハチャメチャで荒唐無稽ながら、しかし驚くほどに純粋な絆が、こんなにも深く愛おしいものになっていたとは。『ザ・ラストダンス』で彼らの最終章を見届けるまでは、全く思いもしなかった。

“なぁ、相棒”……。何気ない日常の中でも、ピンチの瞬間でも、必ず呼びかけられる相手。くだらない喧嘩。漫才みたいな掛け合い。時折重なり合った信念。命を預けた共闘。そうか、もう終わりなんだな。こんなにもカッコよくて、楽しかったんだな。もっと見ていたかったな。それも出来ないんだな。

別れを見るのは、常に辛いことだけれど、それがあるからこそ、彼らの関係がいかに尊いものであったかを私たちは理解する。『タイタニック』のジャックとローズ。『ロミオとジュリエット』の最後。『アベンジャーズ/エンドゲーム』ヴォーミアでの出来事。ひとひらの悲哀を残して、私たちに大切なものを確かめさせてくれる円環。まさか『ヴェノム』シリーズにも、こんなエモーショナルな瞬間がやってくるだなんて。

シリーズ最高のアクション、次世代への橋渡し

“最悪”のキャッチコピーが話題になった第1作『ヴェノム』の日本公開が2018年11月2日だったから、ちょうど6年。本作を鑑賞して、ついつい6年分の思い出が蘇って感傷的になってしまったが、もちろんアクションも最高に楽しめる。今だから正直に言うと、『モービウス』や含め、このシリーズの作品は予告編で見せ場となるアクションを見せすぎているというか、事前に想像できる範疇をなかなか越えてこないと、実は常々思っていた。また、いつもヴィランが主人公と同形・同能力のキャラクターなので、バトルシーンが代わり映えしないという弱みもあった。(ライオット、カーネイジ、マイロ、エゼキエル……)

ところが『ザ・ラストダンス』では、シリーズ最終作にしてこれまでの課題をクリア。予告編では切り取られてないダイナミックな見せ場が後半にかけてたっぷり登場し、モンスター・パニック映画さながらのクレイジーな戦闘が大スクリーンに展開され、劇場の観客を圧倒する。フィギュアで再現して遊びたくなるようなバトル。これぞ、アメコミ映画の醍醐味だろう。

監督は、シリーズ1作目から脚本と製作を務めてきたケリー・マーセル。実は彼女は本作が映画監督デビューで、しかも上映時間は意外にも短めの1時間50分と来た。はじめは少々不安にも思ったが、蓋を開けてみれば素晴らしい采配。間違いなくマーセルはエディとヴェノムのことが本当に大好きで、シリーズを通じて彼らのダイナミクスの機微をつぶさに感受してきたのだろう。前2作の脚本家としての経験を活かし、このキャラクターたちの魅力が何であるか、何が足りていなかったかを、見事に分析している。これは『ヴェノム』ファンへの最後のラブレターと呼ぶに相応しい。二人の逃亡記と大規模なアクション、別れ、そして設定説明と新時代の到来を、1時間50分の上映時間の中にコンパクトにまとめ上げた。


そう、本作はエディとヴェノムのサヨナラ・ムービーでもありつつ、このユニバースの新章への重大な橋渡しにもなっている。今、ファンが戦慄しているのは、最強の敵「ヌル」の襲来。宇宙創造以前より存在し続ける闇の邪神にして、シンビオートの創造主でもあるヌルは、原作コミックではアベンジャーズやX-MEN、ファンタスティック・フォーら最強のヒーローたちが束になっても敵わなかった、マーベル史上最強最悪級のスーパーヴィランだ。

本作『ザ・ラストダンス』では、そのヌルの脅威が地球に忍び寄ろうとする“終わりの始まり”が予告される。「ファンにとってヌルがどれだけ重要な存在であるかは完全に理解しています」「“キング・イン・ブラック”(=ヌルの異名)は一作限りで終わらせるにはあまりにも強大」「マーベルの偉大な映画ヴィランたちは、時間をかけて描かれてきましたよね」とはケリー・マーセル監督の言。つまり、ヌルがこのユニバースにおけるサノスのようなラスボス級ヴィランとなることは、ほぼ間違いない。本作『ザ・ラストダンス』は、新章のキックオフ作としても、劇場で鑑賞する価値を十分に持つ作品になっているのである。

“相棒”の存在を全身に憑依させるトム・ハーディのパフォーマンスはもはや達人の域に至っており、ヴェノムはより表情豊かに描かれた。エディを追う特殊部隊リーダー、ストリックランド将軍役のキウェテル・イジョフォーはMCU『ドクター・ストレンジ』シリーズとは全く異なる役どころを演じており、執念の追走劇を熱気たっぷりに盛り上げる。ジュノー・テンプルはシンビオート研究を試みるペイン博士を演じており、劇中では興味深い背景を仄めかす。

サブキャラクターのMVPはリス・エヴァンスだ。『アメイジング・スパイダーマン』(2012)ではリザード/カート・コナーズ博士を演じていたが、本作では別のキャラクターであるマーティン・ムーン役を担当。“俺たち”の旅をユーモラスに支え、作品に温もりをもたらしている。

本作をもって、エディとヴェノムの永遠の名コンビとしての物語が、ドラマチックに完成する。美しき別れと、新たな時代の始まりを、劇場で、リアルタイムで、きちんと見届けてほしい。これで終わってしまうのは寂しくて仕方ないし、今でも信じられないけれど、最後に大画面で見られて本当によかった。エディよ、ヴェノムよ、素晴らしい時間を本当にありがとう。そして、さようなら──。

『ヴェノム:ザ・ラストダンス』は2024年10月25日(金)26日(土)27日(日)Filmed for IMAX®、Dolby Cinema®にて先行上映(字幕版)。11月1日(金)全国公開。【字幕版】Filmed for IMAX®/Dolby Cinema®/Dolby Atmos®/ScreenX with Dolby Atmos®、【字幕版/日本語吹替版】2D/MX4D®/4DX/ULTRA 4DX/ScreenX(字幕版/日本語吹替版)。

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