質問に答える世耕氏(写真:時事)

10・27衆院選もすでに後半戦に入り、石破茂首相、野田佳彦立憲民主党代表ら各党党首は連日全国を駆け巡り、声をからせて有権者の支持を訴えている。その中で、与野党幹部や永田町関係者が注目しているのが、裏金議員として無所属となった世耕弘成元参院自民党幹事長(61)がくら替えで殴り込んだ衆院和歌山2区の選挙情勢だ。

そもそも、衆院小選挙区の「10増10減」を受けて減員の対象となった和歌山は、これまでの3選挙区から区割り変更によって2選挙区となり、和歌山3区で当選してきた二階俊博・元自民党幹事長の引退を受けて、長年秘書を務めてきた三男・伸康氏(46)が自民公認での出馬が決まった。

これに対し、地元有力議員として二階氏とライバル関係にあった世耕氏が、「衆院くら替えの絶好のチャンス」(周辺)と判断、あえて伸康氏に戦いを挑んだというのが実態だ。

もちろん、二階氏は引退表明以降も、いわゆる「二階王国」の最高実力者としてなお影響力を残しており、新2区の選挙戦でも“世耕つぶし”に腐心しているとされる。

これに対し、世耕氏は参院5期で築いた「全県規模の強固な地盤と人脈」(自民県連幹部)を駆使して、くら替え当選にまい進しており、メディア各社などの情勢調査でも、「五分五分以上の戦い」との見方が多い。

その一方で、新2区の自民支持層も「『世耕vs伸康』で真っ二つに分断」(同)しているとされ、漁夫の利を狙う野党候補の浮上も含め「勝敗は最後までわからない」(選挙アナリスト)との見方もある。

さらに「世耕氏が勝った場合でも、伸康氏が比例復活すれば、次の衆院選での戦いも含め、“10年戦争”になる」(自民県連幹部)ことは避けられず、しかも、「自民党本部も当分、世耕氏の復党は認めない」(選対幹部)とされるため、「“二階・世耕戦争”は自民党の政権運営の大きな火種となる」(政治ジャーナリスト)ことは確実だ。

「安倍派5人衆」の1人で、“裏金議員”の代表格

世耕氏は自民党最大派閥だった「清和政策研究会」(旧安倍派)のいわゆる“5人衆”の1人で、安倍晋三元首相(故人)の側近として、経済産業相や自民参院幹事長などを歴任し、特に旧安倍派の参院議員約40人を束ねることで、長期にわたった第2次以降の安倍政権下で、大きな影響力を駆使してきた。

ただ、昨年秋に発覚した「巨額裏金事件」で、世耕氏自身も1542万円のキックバックを受け取り、政治資金規正法違反容疑などで告発されたものの不起訴になったが、「いわゆる“裏金議員”の代表格として、今年4月に自民から離党勧告を受けて離党に追い込まれた。

その世耕氏が今回、無所属という不利な条件にもかかわらず、衆院くら替えに挑んだのは、「衆院議員となって総理・総裁の座を目指すという“宿願”」(側近)が背景にあるとされる。

というのも、同じ参院5期でライバル視していた林芳正氏(現官房長官)が、世耕氏に先駆けて衆院くら替えに挑み、2021年10月の前回衆院選で山口3区から出馬、当選したことで、「次は自分の番」(周辺)と決意を固めたとみられている。

ライバル・林氏は「ポスト石破」の有力候補に

ただ、自民党に弓を引く形となった世耕氏に対しては、同党内では所属していた旧安倍派も含めて批判的な空気が広がっている。

離党後も参院旧安倍派の議員への影響力を誇示し続け、9月の総裁選では高市早苗氏を支持する立場で「決選投票」に臨んで石破氏に敗れたが、旧安倍派議員の間からは「世耕さんへの反発から石破さんに投票した」(若手)との声も漏れていた。

その一方で、総裁選に出馬した林氏は、「3強」と呼ばれた石破、高市、小泉進次郎3氏に次ぐ4位となり、「ポスト石破の有力候補として、着々と首相への階段を登り始めている」(自民長老)だけに、「世耕氏との差は開くばかり」(政治ジャーナリスト)だ。しかも、和歌山で二階・世耕戦争が長期化すれば、「首相候補どころか、“お荷物”扱いされかねない」(同)のが実態だ。

世耕氏は早大卒業後、NTTに入社し、1998年に伯父の世耕政隆氏の急逝に伴う参院和歌山選挙区補欠選挙に出馬し、初当選。その後、「故安倍氏のお気に入りの1人」(旧安倍派幹部)として官房副長官や経済産業相などを経て参院自民党幹事長に就任、「参院の最高実力者」にのし上がった。

「勝っても総理・総裁の座は遠のくばかり」との見方も

その世耕氏は、今回の和歌山2区での戦いについて、「戦車に竹槍で向かっていくような選挙だ」と表向きは控えめな態度だ。

しかし、祖父が創立した近畿大学の理事長を務めるなど和歌山での知名度は抜群で、地元の各種団体の多くが支援していることから、「最終的にはライバルの伸康氏より優位に立つはず」(地元マスコミ幹部)との分析につながっている。

ただ、和歌山2区には、立憲民主党の新古祐子氏(52)、共産党の楠本文郎氏(70)、諸派の高橋秀彰氏(42)が野党候補として参戦しており、「保守分裂により新古氏ら野党候補にもチャンスがある大混戦」(選挙アナリスト)でもある。

そうした中、今回のくら替え出馬に至る一連の経緯は「まさに権謀術数を駆使した複雑怪奇な構図」(同)との指摘も多い。

それだけに永田町では「首尾よく勝ったとしても、総理・総裁の座は遠のくばかり」(政治ジャーナリスト)との厳しい見方が広がる。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)