5回、ペッチ・ソー・チットパッタナ(左)を攻める中谷潤人(撮影・佐々木彰尚)

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 13、14日に有明アリーナでボクシングの7大世界戦が行われた。

 WBC世界バンタム級王者の中谷潤人(M・T)が、挑戦者のペッチ・ソー・チットパッタナ(タイ)に6回2分59秒、TKO勝ちし、2度目の防衛に成功。WBA世界バンタム級タイトルマッチでは挑戦者の堤聖也(角海老宝石)が王者の井上拓真(大橋)を3−0の判定で破り、世界タイトル奪取を果たした。

 那須川天心(帝拳)はWBOアジアパシフィック・バンタム級王座決定戦で、ジェルウィン・アシロ(フィリピン)に判定勝ち。ボクシングに転向して初のベルトを獲得した。デイリースポーツ評論家・長谷川穂積氏が、今回のビッグイベントの戦いを分析した。

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 中谷潤人選手はパンチをもらっても、ひるまずに前に出てくるやりにくい相手だったと思うが、最後は完璧に倒し切って、いい試合内容だった。フィニッシュは右ジャブを伸ばしたまま左ストレートを打つという『長いワンツー』と表現したいコンビネーションで、きれいにヒットさせた。

 技術面で特に注目したのは接近戦での右フック。しっかりヒジで90度の角度をつくって打ち込んでいた。あれだけのリーチがあると巻き込む感じの打ち方になることが多いものだが、強いパンチはこうして打つんだというところを見せてくれた。自分の長所をきちんと考えて、パンチを打っているのが感じられた。

 13日に井上拓真選手からタイトルを奪取した堤聖也選手も素晴らしかった。どんなに努力しても技術の差は埋められないというのが自分の持論だったが、努力と根性、そして覚悟があれば、技術を超えることができると示した。トレーナーとしても、すごく勉強になった。堤選手がひとつの試合にかける覚悟を決めるために、彼にしかできない地獄のような厳しい練習をこなしてきたと思う。

 バンタム級は4団体の王者が全て日本人選手。当然、統一戦の期待も高まってくる。この強い覚悟を持つ堤選手と、圧倒的な強さを誇る中谷選手の対戦が実現すれば楽しみだ。6−4で中谷選手が有利だとは思うが、最後まで手数を止めない『堤ワールド』に引き込むようなことがあれば、中谷選手でもけっこう大変なことになるのではないか。

 那須川天心選手は相手の手数が少なく、カウンターも取りにくかった。ただ、今回でまだ5戦目。センスと才能は確かでも、戦い方の引き出しは少ない。世界戦になればさらに12ラウンドに伸びる。2ラウンド増えるだけでも、かなり違ってくることを考えたら、あと5、6戦は経験してキャリアを重ねてほしい。

 今回は世界戦7試合に加え、天心選手の初タイトルマッチも行われたが、試合の多さだけでなく内容も充実していた。日本のボクシング界に、これだけのタレントがそろっているということを示してくれた。いい興行だったと思う。