TMSアニメ公式YouTubeチャンネルより

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 10月3日から放送がスタートしたテレビアニメ『アオのハコ』(TBS系)がアニメファンに加え、音楽ファンからも注目を集めている。本アニメは、『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて、2021年より連載中の三浦糀による同名漫画が原作。スポーツ強豪高校の“部活”を舞台にした青春ラブストーリーで、2024年9月時点でコミックスの累計発行部数が500万部を突破している。

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 『アオのハコ』というタイトルの通り、部活と恋愛という、学生生活の2大ファクターに葛藤し、努力し、謳歌する高校生の様子が、丁寧な心理描写を交えながら描かれている。甘酸っぱさや感傷だけでなく、登場人物が眩しいくらいの輝きを放ちながら人間として成長していく姿が、幅広い世代に支持されている。

 “青春”や“アオハル”を筆頭に“ブルーマンデー”、“ブルーズ”など、何かを象徴する、もしくは気分をたとえる色として使われることの多い“青/ブルー”。本稿では“青/ブルー”がタイトルに含まれたアニメテーマ曲をピックアップし、その楽曲の持つ魅力と作品との親和性について考察していきたい。

 まずは前述の『アオのハコ』のOP主題歌とED主題歌を取り上げる。OP主題歌は、Official髭男dism「Same Blue」だ。スケール感あるアップチューンである同曲のサウンドの軸にあるのは、ダイナミックなバンドサウンドだ。キーの転調に、3拍子と4拍子が変拍子的に混在している上、Aメロの歌い出しで予測不能な譜割りを展開させるなど、これまでの彼らの曲のなかでも非常に情報量が多く複雑な曲である。ルーツ、スキル、経験、実験……と、彼らの現在地をすべて詰め込んだような熱量の高さが、この楽曲の疾走感と迫力に繋がっている。まさに息をつく間もない、というか「どこでブレスしているんだ?」と思わせる藤原聡(Vo/Pf)のボーカルにも驚愕。全開で突っ走るような緊張感のあるボーカルが、途中で吐露のようなアプローチに変わる様は、“恋の相手”=〈あなた〉の一喜一憂にあわせてジェットコースターのように揺れる主人公の気持ちとリンクしている。曲のなかで最高音を声を張って歌う箇所も一部あるが、高音やファルセットを軽やかに発音しており、藤原の武器であるハイトーンだけでも多彩なアプローチを見せているのもお見事だ。

 続いては、同じく『アオのハコ』のED主題歌であるEve「ティーンエイジブルー」について。サビでディスコのリズムを取り入れた軽快なナンバーであるが、サウンドアレンジの抜き差しと、ボーカルアプローチの差で曲に静と動のメリハリをつけており、その豊かなストーリー性が魅力の1曲。最初の歌い出しのブロックと、次のブロックはほぼ同じメロディだが、ガラリと声音を変えて次のメロディにつなげるボーカルコントロールを筆頭に、Eveが楽曲のストーリー性に合わせ、細かく声色をコントロールしているのもいい。ブライトなグッドメロディを軸にした軽やかな曲調は、〈だから今も アオを抱いて/歩んでいける〉という最後の歌詞とともに“青春を謳歌する”人々の姿と重なり、青春のその先に人生があることを想起させる。

 “青”がタイトルに入っているアニメ主題歌で思いつくのは、近年の最大のヒット曲でもあるキタニタツヤの「青のすみか」だ。TVアニメ『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折」(MBS/TBS系)OPテーマとなった同曲で、キタニは初の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)出場を果たしている。「懐玉・玉折」編は、五条悟と夏油傑という人気キャラクター2人の呪術高専時代を描いた、原作でも人気のエピソードである。「青のすみか」のパンチラインはやはり〈今でも青が棲んでいる/今でも青は澄んでいる〉だと思うが、ファルセットを活かしたクリアな高音で聴かせるサビは、青い空を思わせる爽快感があるが、最初の〈今でも〉をサビのフックにするなど、キタニのコンポーザーとしての技が光る。そして、そのサビの歌詞で、後に別々の道を歩むことになる五条と夏油の運命が交差していた“青春時代”をこれ以上にない言葉で表している。

 タイトルに“ブルー”が入っているアニメと言えば、『ブルーピリオド』(MBS/TBS系)。絵を描く楽しさを知った高校生の主人公が、難関の東京藝術大学の受験に挑み、美術を探求していく同作のOmoinotakeによるOPテーマ「EVERBLUE」は、R&Bやソウル、サウスロックからの影響を感じるグルーヴィーなアップチューン。一聴して耳に残るポップなグッドメロディが素晴らしい。Aメロ部分でフレーズ前の最後の一音を跳ねるように切り上げリズム感を出すなど、耳がいい熱心な音楽リスナーであることが窺える。間奏でブロウするサックスの後に、そこを引き継ぐようにさらなる高音の旋律でファルセットを聴かせるなど、凝ったアレンジを再現するスキルもある。『ブルーピリオド』が、美術をテーマにしていることもあり、歌詞のなかには色の名前や〈無色透明〉、〈カラフル〉、〈混ざる色味〉、〈塗り重ねて〉と言った言葉が散りばめられているが、素晴らしいのは〈色のない 雨がいつか 虹を描くように〉というワンフレーズだ。人生はキャンパスに喩えられることも多いが、雨の後に虹を描くのは、自分自身であること、そして自分次第で人生が鮮やかに彩られることを教えてくれる。

 また『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(フジテレビ系)のOPテーマとなったGalileo Galilei「青い栞」にも触れたい。長井龍雪(監督)×岡田麿里(脚本)×田中将賀(キャラクターデザイン)による超平和バスターズが手がけたオリジナルアニメである本作は、今でも名作としてその名が挙がることも多い。2013年に劇場版アニメが公開されたほか、2015年には実写版ドラマ化、そして2022年には舞台化されている。幼馴染6人組のなかの1人が事故死し、それぞれの時間を経て、亡くなった幼馴染を成仏させるために集まる残りの5人。デリケートな関係のなかに見えてくる、5人の強い絆。「青い栞」は、そんな5人の心に寄り添うような包容力あるミディアムロックになっている。

 最後に取り上げたいのは、いきものがかりだ。これまで数多くのTVアニメタイアップ曲を担当しているが、“青/ブルー”がタイトルについている曲は2曲。『おおきく振りかぶって』(MBS/TBS系)第2期OPテーマ「青春ライン」、『NARUTO -ナルト- 疾風伝』(テレビ東京系)OPテーマ「ブルーバード」だ。ともに〈追い続けて〉という歌詞があり、目標や目的に向かって前進することの大切さ、そして尊さをしっかり表現している。

 本稿の執筆にあたり、あらためて感じたことがある。憂いも哀しさも寂しさも、そして刹那も――それがあるからこそ、喜びがより輝くと思うのだ。感情の起伏そのものが青春で、そのなかにブルーな気分というものは、不可欠な要素なのだと思う。光と影があるからこそ、青春はそれぞれの人生のなかでひとつの糧となっていくのだ。

 青い空の向こうに、未来への想いを馳せる――その憧憬に年齢はきっと関係ない。

(文=伊藤亜希)