歯並びを悪くする子供の口呼吸を見分ける方法は何か。日本歯科大学付属病院臨床准教授で歯科医師の多保学さんは「口呼吸の子どもの見分け方は、口を閉じた時に、下顎に梅干しのようなしわができるかどうかだ。口をいつも開けていると、『口輪筋』という口の周りの筋肉が弱るため、口を閉じた時に、下唇の下にある『オトガイ筋』という筋肉が緊張することでしわができる」という――。

※本稿は、多保学『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

口呼吸の子どもは歯並びが悪くなる

子どもがいつも口をポカンと開けていたら、口での呼吸が習慣化している可能性があります。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

口呼吸をしている子どもは歯並びが悪くなります。なぜかというと、口を開いている時は舌が下がっているため「低位舌」になります。そうするとスポットに舌がつかなくなり、上顎骨が刺激されず上顎骨が十分に育ちません。

また、舌の位置が下がると下顎の前歯を押しやすくなります。その結果、前歯が噛み合わない「開咬」などの不正咬合につながります。子どもが口呼吸をしてしまう原因の1つには、鼻に何らかの問題があることが考えられます。

鼻が悪い子どもは、往々にして顎が育ちません。上顎が成長しないと鼻腔や気道も狭くなる傾向にあります。それがさらに鼻呼吸のしづらさにつながり、そしてますます口呼吸になる……という悪循環に陥ってしまいます。

呼吸は鼻で行うのが基本です。鼻から吸うことで、空気中のほこりや細菌などの異物が鼻腔内の毛や粘膜に吸着されて侵入を防ぎます。口にはそのような機能はないため、口から吸うと異物が直接喉に入り込み、風邪やウイルス性疾患などにかかりやすくなります。

また、鼻で吸った空気は加温・加湿され、副鼻腔で生み出される一酸化窒素(NO)と一緒に肺に運ばれることで、酸素と二酸化炭素を効率よく交換することができます。こうした機能も口にはないので、口から吸うと呼吸機能の低下につながります。

■クチャクチャ音を立ててご飯を食べている子は口呼吸の可能性

口呼吸は咀嚼機能にも悪影響を及ぼします。食事中は、食べ物を噛みながら口呼吸もしなければならないので、咀嚼に時間がかかり、嚥下機能も低下します。よくクチャクチャ音を立ててご飯を食べている子は口呼吸の可能性があり、要注意です。

口を開けている時間が長くなると、口の中が乾燥して唾液の分泌量が減ります。唾液による自浄作用が減少して細菌が繁殖しやすくなり、結果的に虫歯や歯周病、口臭のリスクが高まります。このように、口呼吸にはさまざまなリスクがあるのです。

口をいつも開けている子どもの見分け方は、口を閉じた時に、下顎に梅干しのようなしわができるかどうかです(図表1)。

出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

口をいつも開けていると、「口輪筋」という口の周りの筋肉が弱るため、口を閉じた時に、下唇の下にある「オトガイ筋」という筋肉が緊張することでしわができます。このしわができたら、「口唇閉鎖不全症」という病気かもしれません。

口唇閉鎖不全症は治療の難易度が高く、一般的には通常の小児矯正治療よりも治療期間が長く、1年半から2年半程度の治療期間が必要です。

その間にトレーニングや顎を広げる緩徐拡大装置や急速拡大装置による治療などを行いますが、それでも口が閉じない子どもはいます。子どもが口呼吸をしていることに気づいたら、早めに治療することをおすすめします。

口呼吸を治すには、鼻で呼吸できない原因を突き止める

正確な診断をするためには、気道を撮影できるCTが必要です。

しかし、一般のCTよりも高価なため、導入している歯科医院はかなり少なくなります。当法人では3つある歯科医院全てにCTはありますが、小児歯科医院でのみ気道を撮影できるCTを導入しています。

CTでチェックするのは、呼吸の状態に関係する気道の状態です。気道の体積の他、鼻腔の解剖(鼻中隔湾曲症の有無)、副鼻腔の炎症の有無、アデノイド肥大の程度(咽頭扁桃:鼻の奥にあるリンパ組織の塊)、扁桃腺(口蓋咽頭)の肥大の評価などを確認します。

口呼吸の子どもの特徴は、首が前傾の状態、いわゆる猫背になっていることです。また、口呼吸により低位舌になると、舌が後ろに押し込まれてさらに気道が狭くなります。

正しい姿勢にすると気道が狭くなるため、首を前に出すことで気道が広がり、呼吸がしやすくなります。そのため、気道を広げるために猫背にしているのです。姿勢が悪い状態(猫背のまま)でCTを撮ると、気道が広がった形で評価することになってしまいます。

正しい姿勢でCTを撮ることで、気道の正確な状態がわかります。鼻の通りが悪くなる原因として、例えば、鼻の穴を2つに隔てている仕切りである「鼻中隔」が歪んでいる「鼻中隔湾曲症」、上顎の骨の中にある「上顎洞」という副鼻腔の炎症、アデノイドや扁桃腺がひどく腫れていることなどが挙げられます。

■耳鼻咽喉科の医師の約9割は子どもの外科処置に消極的

このような場合は連携している耳鼻咽喉科で診療してもらい、必要なら外科手術をお願いして鼻呼吸ができるようにしてもらいます。なお、私の感覚では一般的な耳鼻咽喉科の医師の約9割は子どもの外科処置には消極的です。

そのような耳鼻咽喉科では吸入器や薬などによる対症療法しかしてもらえないため、口呼吸は一生治りません。そこで当院では、外科治療をしてくれる耳鼻咽喉科の医師と連携し、原因を特定して根本的な治療をするように努めています。

また、アレルギーが原因で常に鼻がつまっている子どももいます。昨今は花粉、ハウスダスト、ペット、食品など、さまざまなアレルギーがあります。このような場合も耳鼻咽喉科やアレルギー科の医師と連携し、アレルギーが特定できたら、それを除去するようにします。

例えばハウスダストの場合は、寝室だけでも可能な限りきれいに清掃してもらいます。また、ベッドにはぬいぐるみを置かないようにしたり、ペットを飼っている場合は寝室には入れないようにしたりする、といったことを徹底してもらいます。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sirikornt

実を言うと、私も小児期より鼻が悪く、鼻で呼吸をしたことが44歳までありませんでした。つまり44年間、口呼吸でした。子どもの頃、母親に鼻がいつもつまっているので治してほしいと何度も訴えて耳鼻咽喉科を回った記憶があります。

■鼻の解剖学的な原因のため44年間鼻で息ができない

当時は吸入器(ネブライザー)という機械を使い、薬を鼻の奥に届けて終わりというのが定番でした。何度も何度も耳鼻咽喉科に通った記憶が今でもあります。

通っても通っても治らないため、母親に「鼻の手術をしたい」と頼んだことがありましたが、当時はまだ外科的治療法が普及しておらず、ずっと辛い思いをしてきました。

多保学『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

私にとっては、吸入器(ネブライザー)は対症療法であり、根本的な治療ではありませんでした。今では耳鼻咽喉科の先進医療も進み、小児期でもさまざまな治療ができるようになりました。

44歳で初めて耳鼻咽喉科で鼻の精査をしてもらい、鼻中隔湾曲症と下鼻甲介肥大症という診断を受けました。44年間鼻で息ができなかったのは、鼻の解剖学的な原因のためでした。

いくら吸入器(ネブライザー)で治療しても治らなかったわけですよね。

すぐに全身麻酔下で鼻中隔矯正術と下鼻甲介骨切除術を行いました。結果的に今では生まれて初めて鼻で呼吸することができています。鼻で呼吸できる素晴らしさを44歳にして初めて経験しました。

■今は小児期でも鼻を根本的に治せる

鼻が悪い人は顎が育ちにくいと何度も述べていますが、実は私も受け口の傾向があります。厳密に言うと、切端咬合という噛み合わせになります。そのため、奥歯には負担がかかりやすく、虫歯でなくても歯が割れてしまうため、今は部分的にセラミックを入れています。

全ての原因は小児期より鼻が悪く、顎が育っていないためです。今は小児期でも鼻を根本的に治すことができます。

もし私と同じように耳鼻咽喉科疾患があって鼻呼吸ができないお子さんがいれば、ぜひ治してあげてほしいと思います。私のように長年苦しむことがなくなり、結果的に噛み合わせも良くなる可能性が高くなります。

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多保 学(たぼ・まなぶ)
歯科医師、日本歯科大学付属病院臨床准教授
医療法人社団幸誠会 たぼ歯科医院 理事長、日本歯周病学会指導医、歯科博士。埼玉県浦和駅徒歩1分圏内に3店舗の歯科医院を経営し、スタッフは100名。日本歯科大学附属病院で教鞭をとり、国内外の学会での講演多数。予防と再生医療の知識・技術セミナーを毎月開催し、講師を務める。日本で数少ない日本歯周病学会指導医として歯周病専門医の育成に尽力。日本の8割が歯周病に罹患している事実を知り歯周病専門医資格を取得。「歯周病で歯を失い、物を噛めない」と訴える悩みを解決したく、米国ロマリンダ大学大学院へ留学。帰国後、2015年に生まれ育った浦和にて日本歯周病学会認定研修施設でもある「たぼ歯科医院」を開業。2022年「さいたま・こども矯正歯科」を開院。子どもが通いたくなる環境づくりと最新機器を導入し、0歳からの予防に力を入れる。著作は歯周病・インプラントについて20編以上。DVD4本。
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(歯科医師、日本歯科大学付属病院臨床准教授 多保 学)