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「姻族関係終了(死後離婚)」の件数が増えています。これは、死別によって元配偶者の親族との法的関係を解消する手続きを意味しています。こうした手続きを選択する背景には、どのような事情があるのでしょうか。本記事では、2つの事例とともに「姻族関係終了」のメリット・デメリットについて、FP事務所・夢咲き案内人オカエリ代表の伊藤江里子氏が解説します。

「姻族関係終了」とは?

日本の法律では配偶者と離婚した場合は、その血族(義理の父母・祖父母・兄弟姉妹など)との関係も同時に終了します。配偶者側の血族を「姻族」といいますが、婚姻によって発生した関係なので、離婚(婚姻関係の解消)によって自動的に姻族関係も終了します。

しかし、婚姻関係にある夫婦の一方が亡くなった場合は、姻族との関係は終了しません。残された配偶者が姻族関係を終了するという意思表示によって、離婚と同様に姻族関係を終了させるので、「死後離婚」といわれることもあります(「死後離婚」は俗語です)。

民法

(離婚等による姻族関係の終了)

第七百二十八条 姻族関係は、離婚によって終了する。

2 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。

実際の手続きは、「姻族関係終了届」を居住地または本籍地の市区町村場に提出します。配偶者の死亡届提出後であればいつでも(期限なく)届け出ができ、証人や同意も要らない比較的シンプルな手続きです。また、届けを提出しても亡くなった配偶者側の血族に通知されることもありません。戸籍に「姻族関係終了」と記載されるだけなので、戸籍を見られないかぎり他の人に知られることもありません。

また、配偶者の遺産を相続していても返す必要はなく、遺族年金の受給権に影響もないのです。さらに、配偶者とのあいだに子がいる場合でも、子と配偶者の血族との関係もそのままです。

増加する姻族関係終了届出件数

[図表]姻族関係終了と離婚の届け出件数推移 出所:法務省「戸籍統計」※をもとに筆者作成

法務省の統計によれば、2011年度以降、離婚件数は徐々に減少し2020年度以降約30万件で推移しています。これはもともと婚姻件数が減少していることと関連があるかもしれません。この18年間で婚姻件数は約28%、離婚件数は約27%減少しています。

しかし、姻族関係終了届の件数は、離婚とは対称的に2010年度ごろから増加し、18年前の約1.67倍です。個人の権利意識が高まったことや、家族のあり方が多様化し、義理の親族との関係を見直そうとしているのかもしれません。死別で残された配偶者が再婚する場合のほか、義理の両親との関係が負担になっている場合に姻族関係を終了することで扶養義務を負うことがなくなる点にも注目されています。

どんなときに、姻族関係終了を考えるのでしょうか。

妻たちの苦悩

姻族関係終了を選択・検討している事例を紹介します(本人の特定を避けるため、一部内容を変更しています)。

〈事例1〉亡夫側の「兄弟姉妹」との縁

Aさん:58歳(会社員、年収700万円)

元親族:義理の兄 65歳 独身(無職、年金90万円)

義父、夫が4年前に他界、その後義母も死亡。ずっと独身だった義理の兄にとって、Aさんが唯一の親族となる。義理の兄は大学卒業後に就職したものの30代半ばで退職、以来職を転々とし、現在は無職。義父母が金銭的なサポートをすることが多かった。1年半前に義母が亡くなったことを機に、Aさんは法的な扶養義務から逃れるため、姻族関係を終了。

Aさん夫婦には子どもがいませんでしたが、実の妹や甥がいます。夫の両親との関係は良好で、亡くなった夫の分まで義母に対しても親孝行してきたつもりでした。しかし、義母が残したわずかな財産もあっという間に義兄が使い果たし、夫の親とはいえ、いつまでも甘やかし続けている態度にもうんざりとしてきました。義母の死後は、安定した収入があるAさんをあてにしているのがわかっていたので、手続きを行って安心したと話していました。

現在は、義理の兄とは会わないよう気をつけながら、夫のお墓参りをしているそうです。

〈事例2〉長男だった夫の代わりを息子(実孫)に求め…

Sさん:58歳(会社員 年収480万円)

別居の親族:

息子 29歳(大手企業会社員 年収600万円)近々結婚予定

義母 87歳 夫の実家で義妹夫婦と生活

義妹 58歳(専業主婦)

共働きだったSさん夫婦は義妹よりも世帯年収が高く、夫は義父母のためにこれまで実家のリフォーム代などの費用を負担してきた。夫が2年前に他界。その後、義妹が義母を施設に入居させると決めて、それまで同様に「お兄ちゃん(夫)の分」として費用の半分以上をSさんに求めてきた。義父が亡くなった際の相続では、実家の土地建物以外財産もなかったので長男である夫はなにももらわず、ずっと夫婦共働きのSさんに、「長男としての負担分」を求めてくる親族との関係が負担に。

「姻族関係終了すれば、スッキリして自分自身の老後の財産を守れる」「息子には負担をかけたくないし、お嫁さんにも嫌な思いはさせたくない」と考えるも、姻族関係を終了させると義実家は今後、息子に負担を求めるのではないかと気がかり。

嫁であるSさんにだけ「孫はS家の名字を継ぐ唯一の子」と義母は言い続け、お墓を守ること、孫への教育方針に口出ししてきました。また、なにかにつけ比較的裕福な家庭で育ったSさんの実家を妬む義母とはそりが合いませんでした。

「義実家からは、いままで孫(息子)におこづかいなど一切もらったことはありません。それも構わないと思っていました。この先も息子に長男の代わりの負担を押しつけないで欲しい」自分が亡き夫の扶養義務を負うと、老後の資金が減る、姻族関係終了すると、息子とその配偶者(お嫁さん)に影響があるかも……というジレンマに悩まされています。

このような場合は、先に息子さんにも相談しておくのが賢明です。

姻族関係終了後を想定して、判断は慎重に

「死後離婚」といわれると、亡くなった配偶者と離縁したいわけではないのに……と、抵抗を感じる方も少なくありません。姻族関係終了について以下のとおり、まとめてみました。

〈離婚姻族関係終了の手続きのポイント〉

・届け出に同意は不要。

・相続や遺族年金の受給に影響がない。

・子どもと義父母達との血縁関係に変更なし。

・戸籍に記載されるが、通知されることはないので黙っていればわからない(結婚前の姓に戻すのは別の手続きによる)。

〈メリット〉

1.心の負担が軽くなる:義理の両親や兄弟との関係にストレスを感じている場合、心の負担を軽減できる。

2.経済的負担の回避:将来、扶養(介護)の経済的負担を避けられる。

3.新しいスタートを切れる:再婚を考えている場合など、新しい生活(関係)を始める前に、過去の関係を整理できる。

〈デメリット〉

1.取り消し不可:状況が変わっても、一度提出した姻族関係終了届は取り消しできないため、慎重に判断する必要がある。

2.家族関係が新たに変化する可能性:一部でも良好な関係の親族がいる場合、法的に縁が切れたことを知られるとギクシャクするかもしれない。

子どもと義実家との関係に影響するかもしれないので、子どもには事前に相談しておくほうがよいでしょう。また、法事などで義父母・兄弟姉妹と顔を合わせる際、気まずいかもしれません。姻族関係終了は、自身の生活設計(住まい、お墓)などとあわせて、慎重に判断することが重要です。

<参考>

※法務省「戸籍統計」

https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003322640

伊藤 江里子

FP事務所 夢咲き案内人オカエリ 代表