大河『光る君へ』紫式部が期待されたこと 一条天皇が「読みたい」→彰子のもとへ→仲が深まり… 識者語る
NHK大河ドラマ「光る君へ」第33回は「式部誕生」。一条天皇の中宮・彰子(藤原道長とその妻・倫子の娘)に仕えることになった紫式部ですが、いつ頃、仕えることになったかについては定かではありません(1006年、1007年説などあり)。式部が出仕したのは、書き始めていた『源氏物語』が話題となり、その文才が認められたからと推測されます。『紫式部日記』からは、一条天皇も式部が書いた『源氏物語』を読んでいたことが分かります。
天皇は『源氏物語』を人(女官か)に読ませ、聞き入っていたのですが、その際「この作者は『日本紀』(日本書紀)を読んでいるようだ。才(学識)がある」と式部を誉めていることが『日記』に見えるからです。帝に称賛されたことは、式部にとって名誉なことだったでしょう。
ちなみに式部は、中臈女房(後宮に仕える女房のうち中位の階層。公的な役職には就いていなかった)だったと推定されています。后に仕える女房は、局と呼ばれる部屋を与えられました。実家に住みつつ臨時に出仕(非常勤)する女房もいましたが、式部はそうではなく、局を与えられていました。常勤だったと言えるでしょう。
女房の仕事は、ドラマでも説明されていたように、衣食住の奉仕・中宮の話し相手や教育、公卿の取次など多岐に渡りました。式部も衣食住の奉仕をしたり、彰子に漢籍(白楽天『楽府』)を進講したりしています。
式部はそういった仕事をこなしながら『源氏物語』の続きを執筆していったと思われます。一条天皇も賞賛した『源氏物語』。天皇が『物語』の続きを読みたいと彰子のもとを訪れることは、天皇と中宮の仲が深まることでもあります。そうなれば、彰子の懐妊も夢ではありません。
その事こそ、式部が彰子の後宮で期待されたことだったのではと、「光る君へ」の時代考証を務める倉本一宏(国際日本文化研究センター教授)は述べています(同氏『紫式部と藤原道長』講談社、2023年)。興味深い見解と言えるでしょう。
◇主要参考文献一覧
・清水好子『紫式部』(岩波書店、1973)
・今井源衛『紫式部』(吉川弘文館、1985)
・朧谷寿『藤原道長』(ミネルヴァ書房、2007)
・紫式部著、山本淳子翻訳『紫式部日記』(角川学芸出版、2010)
・倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社、2023)
(歴史学者・濱田 浩一郎)