フワちゃんの謝罪に見えた「無邪気」という危うさ
やす子への公開暴言で大炎上し、活動休止に追い込まれたフワちゃん。謝罪文は、彼女の「重宝されてきた理由」と、「危うさ」を感じさせるものだった(画像:本人の公式Xより)
タレントのフワちゃんが芸能活動を休止すると発表した。お笑い芸人・やす子さんへの不適切な発言により、レギュラー番組は降板となり、CMも非公開になるなどの影響が出ている。やす子さんは「許す」としているが、ネットユーザーからのバッシングは止まらない。
筆者はネットメディア編集者として、これまで企業や芸能人の炎上対応を数多く見てきた。そうした経験と照らしてみると、事後対応としては、お粗末でしかないと言いたくなる。しかし一方で、フワちゃんが投稿した「謝罪文」からは、これまで芸能界で重宝されてきた理由の一端が見える気がした。
本稿では、フワちゃんの立ち位置と、ネットユーザーの受け取り方を、そこに生まれたギャップをからめつつ考察したい。
芸能活動を休止すると発表
フワちゃんは2024年8月11日、一連の騒動を受けて、芸能活動を休止すると発表した。
【画像9枚】「反省して、精進します。」「署名は”フワちゃん”」…。大炎上&やす子への謝罪後にした、フワちゃんの投稿の様子
Xに投稿された文面では、ファンや関係者に「大きなご迷惑とご心配」をかけたとして、「この度の件の責任の重さを考え、一つの区切りとして、しばらくの間、芸能活動をお休み」すると発表。
活動休止の期間中は「自分のことを見つめ直す時間」と位置づけ、「反省して、精進します」とまとめた。
(画像:本人の公式Xより)
これまでの経緯を、簡単に振り返ろう。
やす子さんが8月2日、「やす子オリンピック 生きてるだけで偉いので皆 優勝でーす」とXに投稿し、それに対して4日にフワちゃんが「おまえは偉くないので、死んでくださーい 予選敗退でーす」と引用リポスト。即座に削除されたが、スクリーンショットが拡散された。
すぐに謝罪のポストをしたフワちゃんだったが…
やす子さんは同日、「とっても悲しい」と反応し、フワちゃんは「言っちゃいけないこと言って、傷つけてしまいました ご本人に直接謝ります」と謝罪した。
フワちゃんからの“暴言”を受けてポストしたやす子さん(画像:本人の公式Xより)
フワちゃんの“暴言”の後にやす子さんが「とっても悲しい」と投稿。すぐに謝罪のポストをしたフワちゃん(画像:本人の公式Xより)
この影響で、6日未明に放送予定だった「フワちゃんのオールナイトニッポン0」(ニッポン放送)が放送休止に(後に降板)。「消しゴムマジックで消してやるのさ!」のキャッチフレーズで知られるスマートフォン「Google Pixel」のCM動画も非公開となった。
そして8月8日、フワちゃんは「やす子さんへのお詫びと、皆様へのご報告」とした謝罪文をXに投稿。この時点では経緯説明にとどまっていたが、8月11日になって、冒頭にも紹介した活動休止の発表投稿を行った。
「対面謝罪」という、ひとつの区切りを迎えてもなお、フワちゃんへの風当たりは強い。
(画像:本人の公式Xより)
やす子さんは謝罪翌日の8月9日時点で、「私はSNSは明るい言葉を発信したいと思っているので、今後は言及しません」としていたが、相次ぐバッシングを受けてか、8月10日になって「言及しないと言ったんですが フワちゃんさんのことめちゃめちゃ許してます! もう終わりましょう!!」と投稿した。
あらゆる対応が後手後手だった
筆者は先日、東洋経済オンラインで「フワちゃん『やす子へ公開暴言』が示す根深い問題 単なる誤爆では済まず、イメージに甚大な影響か」と題するコラム(8月7日公開)を寄稿した。
掲載から1週間が経ってもなお、アクセスランキングの上位にあり、興味関心の強さを実感する。この記事からの大きな変化としては、「謝罪文の掲載」と「活動休止発表」がある。そこで今回は、それらに焦点を当ててみたい。
まずは、時系列を見てわかるように、あらゆる対応が後手後手だったことは、「炎上対応」の観点から言うと、悪手としか言えないだろう。8月8日の謝罪文によると、フワちゃんは「やす子さんの投稿に『アンチコメントが付くなら』」との趣旨で、投稿画面に問題となった文章を入力し、「その場にいた方」へ画面を見せていたところ、誤って投稿してしまったとしている。
ある種の「大喜利」的な、内輪の遊びのつもりだったのだろうが、それであれば、説明まで4日間も要する必要があったのか、極めて疑問だ。
また、謝罪文では「ネット上の臆測でお名前が出てしまっている方々は、この件とは一切関係ありません」としつつも、投稿当時は、お笑いコンビ「Aマッソ」加納さん、お笑いトリオ「トンツカタン」森本晋太郎さんと旅行中だったとも説明した。
謝罪文では、仲良しで知られる芸人2人にも言及しているが、名前を出す必要があったかは疑問だ(画像:本人の公式Xより)
2人の名前を出したことにより、フワちゃんには「責任逃れか」といった批判が飛び、また両名は、アンチコメント風の文面を投稿前に見た「その場にいた方」だったのではないかとの疑惑が浮かんでしまう。彼らを守るための行動が、かえって矢面に立たせる結果となった点でも、もう少しやりようがあったのではないかと感じてしまう。
これまで筆者は、芸能人や企業広報など、あらゆる「炎上の謝罪文」を見てきた。その経験からすると、フワちゃんの文面を一読して、「火に油を注ぎそうだ」との感想を抱いた。しかし一方で、この文面に秘められた「無邪気さ」や「純粋さ」が、これまでフワちゃんの魅力として評価されてきたのではとも感じた。
多くのXユーザーは謝罪文にも容赦ない。「単なる言い訳だ」「内容が長すぎる」といった指摘は、筆者も同意するところだが、読むにつれて「これを言ったらどうなるか」「閲覧者にどんな印象を与えるか」よりも、伝えたい思いが優先されてしまったように思えるのだ。そうした無邪気さから、「死んでくださーい」がギャグとして成立すると、心から信じていたのではないか。
同時にSNSのような「自分の言葉による発信」に、あまりフワちゃんは向いていない様子も見えてくる。無邪気さを「多様性のアイコン」的なキャラクターとして、うまくコンテンツ化してくれる周囲がいたからこそ、ここまでの立ち位置に上り詰めたのではないだろうか。
そう考えると、そのタレント力の根幹にある「無邪気さ」が、最大の懸念材料に変わった今、たとえ復帰したとしても、従来の方向性には限界がある。
「フワちゃんらしさ」そのものに嫌悪感を持つ視聴者が増えた以上、従来の使い方を続けるのはテレビ局としてリスクが大きく、キャスティングしづらくなってしまう可能性は高いだろう。「多様性」というラベルが剥がれて、「公開暴言をした人」になった今、突拍子もない行動は魅力的には映らず、「失礼な人」と思われてしまうからだ。
SNSにあふれる“ゆがんだ正義感”
しばらくは自分を見つめ直すにしても、いずれ「身の振り方」を考えなくてはならない時が来る。おそらく復帰しても、そのまま芸能界からフェードアウトしてしまっても、フワちゃんへのバッシングが絶えることはないだろう。
もちろん全員とは言わないが、多くのXユーザーには攻撃的なところがある。少しでも「たたける要素」が見つかると、そこを針小棒大に攻撃材料とする。どのルートを選んでも、イバラ道になりがちな現状があるのだ。
くしくも、これを的確に表すようなXポストを、渦中のやす子さんが8月10日にしていた。「何も言わなかったら→許してない!最低! 許しまーす!→許すな!最低! なんでやねーーーん!!!」。
実は、今回巻き込まれた側のやす子さんも、「芸人なら真に受けず、ネタとして流せばいいのに」「なぜ謝罪を受け入れたのか」といったバッシングを受けている。
(画像:本人の公式Xより)
こうした「世間が許しても、私は許さない。だから完膚なきまでに、たたきのめすしかないのだ!」的なムードは、とくにSNS炎上をめぐっては、よく見られる。
今回の件については、やす子さんが「許す」と発言し、フワちゃんが謝罪のうえ活動休止を決めた以上、(少なくとも対外的には)当事者間の問題は解決している。
にもかかわらず、さらなる厳罰を求める。法的で業界的な審判が下されないなら、あるいは「その処分に私は納得がいかない」なら、どれだけ私刑を加えても構わない……といった、ゆがんだ正義感がSNSにはあふれている。
【画像8枚】「反省して、精進します。」「署名は”フワちゃん”」…。大炎上&やす子への謝罪後にした、フワちゃんの投稿の様子
でも、しょせん他人は他人だ。人は誰しも「生きてるだけで偉い」。パリオリンピックが終わった今、やす子オリンピックに出場しようではないか。一人ひとりが、それぞれ別の競技に挑み、そこにはライバルはいない。誰かに向けている敵意を、自分の向上心に切り替えられたなら、そこに「皆優勝」の未来が待っているはずだ。
その他の画像
「オールナイトニッポン0」の休止が決まり、フワちゃんらしからぬ真面目な様子で謝罪(画像:本人の公式Xより)
Google PixelのCMはすべて非公開となった。CM内で使われていた「消しゴムマジック」を自身のXでも披露(画像:本人の公式Xより)
(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)