「皇室に残っていただきたい」との意見も多いが

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悲劇のヒロイン

愛子さまは政治に翻弄されているという点で『21世紀の皇女和宮』のような存在と言えるのではないでしょうか」

 皇室の歴史に詳しい宮内庁OBは、こう語る。

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 皇女は天皇の娘を意味するが、皇女和宮とは、江戸時代末期の仁孝天皇の8女・親子(ちかこ)内親王のこと。今の天皇家のルーツとなる光格天皇の孫で、明治天皇の父にあたる孝明天皇は、兄である。孝明天皇は幕末、外国勢力による各種の強引な要求に強く反発していたが、徳川幕府が1858(安政5)年に日米修好通商条約を無断で調印すると、退位の意思を表明した。

「皇室に残っていただきたい」との意見も多いが

 しかし、朝廷(天皇)と武士(将軍)の共通の敵である海外勢に対抗するため退位を思いとどまり、苦渋の選択で、妹の和宮を皇室から徳川家へ嫁に出すことを認め、和宮は第14代将軍・徳川家茂と“政略結婚”させられた。まさに政治に翻弄された女性皇族の代表格だ。一方、天皇陛下の長女・愛子さまもまた政治に翻弄されているというのは、果たしてどういう意味だろうか。

 実は政略結婚が決まる前から、皇女和宮は孝明天皇の意向を受け、すでに有栖川宮熾仁親王と婚約していた。熾仁親王は「戊辰戦争」や武士の世に終止符を打った最後の内戦「西南戦争」で官軍を率いた人物であるが、この婚約は破棄されることになる。

 自分の意思とは全く関係なく、時の政治動向に振り回され続けたことも、和宮=悲劇のヒロインとしての印象を高めることになり、こうした境遇からイメージされるキャラクターは、日本の近代史研究家や「歴女(レキジョ=歴史ファンの女性)」からも強く支持され、数々のドラマ作品で著名な女優たちが皇女和宮を演じてきた。

 吉沢亮さんが主演したNHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」では、乃木坂46の元メンバー・深川麻衣さん。同じく大河の「篤姫」では堀北真希さんが担当した。また日本アカデミー賞最優秀主演女優賞にも輝いた岸井ゆきのさんは、NHKの連ドラ「大奥」幕末編で演じている。さらにTBSの看板番組である日曜劇場「JIN ―仁―」では、黒川智花さんが好演している。

 少子化が進む日本だが、上皇ご一家でも、愛子さまの世代の皇族数は限られている。秋篠宮家に長男の悠仁さまがお生まれになるまでは未成年皇族は愛子さま小室眞子さん、佳子さまの3人のみで男子はいないという危機的な環境にあった。

 こうした背景から、小泉純一郎首相(当時)は自身の私的諮問機関として2004年12月に、皇室典範に関する有識者会議を設置。翌05年11月に提出・公表された報告書では、天皇の男系継承を安定的に維持することは極めて困難で、継承資格を女子や女系の皇族に拡大することが必要と指摘した。愛子さまがご結婚後も皇族のままであったり、場合によっては9人11代目の女性天皇となったりする途(みち)が、これで開かれたかに思われた。

 だが、秋篠宮妃紀子さま悠仁さまご懐妊が明らかになると、事なかれ主義の政治家たちは結論を先送りし、結局はうやむやにされた。政治の変革を熱望した国民の後押しを受けて自民党から政権を奪取した旧民主党では、野田政権下で2012年10月、皇室典範の見直しに向けた論点整理を発表し、女性皇族が結婚後も皇籍にとどまる「女性宮家」創設案と、結婚して皇籍を離れても新たな称号を使うなどして皇室活動を続ける案の2案を併記した。

堂々巡りに

 また皇室典範は、女性皇族が皇族以外の男性と結婚した場合、皇籍を離れると規定しているため、

「婚姻を機に順次皇籍を離脱することにより皇族数が減少し、皇室のご活動を維持することが困難になる事態が懸念される」

 と指摘。その上で、女性皇族の夫と子を皇籍に入れて新たな皇族とする案と、入れない案の両論を並べた。さらには女性皇族の意思を反映できる仕組みにするという素案にまで踏み込んだが、

「民主党はあまりにも未熟でした。素人政治家の集団は国民から見限られ、政権を再び自民党に明け渡す羽目になった事実は、多くの国民の記憶にも新しいはずです」(宮内庁関係者)

 そして皇位の男系継承を絶対視する保守派に支えられた安倍政権が復活。今度は長期政権となり、愛子さまの処遇は結局、「宙に浮いたまま」(同)となってしまった。

「日本が世界に誇る皇室の存続危機という一大事への認識が乏しく政局にしか関心がない“政治屋”たちによる不毛な権力争いの犠牲者こそが愛子さまなのです」(同)

 天皇皇后両陛下が2022年9月にエリザベス女王の葬儀出席のため足を運んだ前回のご訪英では、御所の玄関で見送られる愛子さまの姿に、古株の宮内庁職員らからは「本当にご立派になられて……」と一様に感嘆の声が漏れた。

 天皇陛下が皇太子だった10年3月の英国などを経由したアフリカ諸国ご訪問では、お見送りのため東宮御所(当時)の玄関前に姿をみせることはせず、同6月にスウェーデンから招待を受けて同国皇太子の結婚式ご出席のために天皇陛下が外国訪問した際も、玄関先には現れなかったことから、「天皇家の長子としては心許ない」(学習院関係者)ように周囲の目には映り、引っ込み思案で内向的な愛子さまのご性格を心配する声も少なくなかったためだ。

政治に翻弄

愛子さまには是非、皇室に残っていただきたい」(宮内庁元幹部)

 との意見は、国民の間にも広まっているといわれる。5月1日で天皇陛下が即位5周年を迎えられたのを前に、共同通信が実施した世論調査(4月27日)では女性天皇を認めることについて90%が賛成した。理由のトップは「天皇の役割に男女は関係ない」だった。

「つまりは愛子天皇のご誕生を、多くの国民は受け入れるとの意思を示したわけです。その中には当然、女性天皇容認論者だけでなく待望論者も少なからず存在するはずなのです」(同)

 しかし、今年に入ってからも女性皇族が結婚後、皇室にとどまることを含めた皇族減少対策についての話し合いは、遅々として進んでいない。先日閉会した通常国会でも自民党旧安倍派の裏金事件で紛糾したことから、愛子さまの将来を左右する議論は足止めを食ったかたちとなった。

「政略結婚など、現代では当然あり得ませんが、時代は違えども皇女は自身の意思を二の次にして天皇家を守る『盾』となる特別な存在です。和宮と愛子さまはそれぞれ開国と女系天皇の是非という歴史の大変革を背負っており、その存在感の大きさは別格なのです」(宮内庁OB)

 秋篠宮家の長女・小室眞子さんの結婚の際、妹の佳子さまが「姉の一個人としての希望がかなう形になってほしい」と述べられ、「国民とともに歩む皇室のメンバーでありながら『公』より『私』に重きを置くのはおかしい」といった声が、SNSなどにあふれる事態が起きた。

「地域社会や家族よりも個人が重視される今の世になっても、旧態依然とした滅私を皇室に求める風潮は根強く残っているというのが現実です」(同)

 幕末を生き、政治に翻弄された悲運の皇女が和宮親子内親王であるならば、20年以上にわたり政治に翻弄され続けている現状から、現代のそれは敬宮愛子内親王だといっても、過言ではない。

朝霞保人(あさか・やすひと)
皇室ジャーナリスト。主に紙媒体でロイヤルファミリーの記事などを執筆する。

デイリー新潮編集部