定年後の再雇用では給与が大きく下がってしまうケースも… ※画像はイメージです(naka/stock.adobe.com)

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2021年4月1日に施行された改正高年齢者雇用安定法によると、事業主は「65歳までの雇用確保」の義務に加えて、「70歳までの就業機会の確保のための措置」(努力義務)を講じなければならなくなりました。この政策によって企業のなかには60歳で定年を迎えた社員を再雇用する動きが活発になっています。

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60歳定年の学習塾で働いていたAさんは、定年を迎えた後もまだまだ働きたいと思い、会社の再雇用制度を利用しました。ただ再雇用時に提示された給与は、今までの6割程度だったのです。

Aさんは今までと仕事内容は大きく変わらないにもかかわらず、給与が大きく減ることについて不満を抱きつつも「このご時世、仕事があるだけでもありがたい」と思い働き続けることにしました。

このような再雇用時の給与減額は受け入れなければならないのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに詳しく聞いてみました。

ー再雇用時に給料が減らされるのは仕方ないのでしょうか

企業が給料を決定するうえでの根拠が明確であれば、減らされることも仕方ないでしょう。ただ、これまでにも定年退職後の再雇用で給与が引き下げられたのは不当だと訴えた事案はあります。

裁判例でいうと、2020年10月の一審名古屋地裁判決では、60%を下回る部分は不合理であるとし、2022年3月の二審判決でもその内容が支持されていました。この判決内容を受けて、60%までは給与を引き下げてもいいと考えた企業もあるようです。

しかし2023年7月20日におこなわれた最高裁では、二審名古屋高裁判決を破棄して審議を同高裁に差し戻しました。判決では給与を決定する上で、その性質や支給する目的を踏まえて検討すべきと指摘しています。高裁での差し戻し審では、給与の性質や支給目的が論点になるでしょう。

ー再雇用時の給与は一律に何%減額とは決めれないということでしょうか

そうです。給与は仕事内容に関わる部分と、勤続年数や役職といった仕事内容には関わらない部分から構成されています。再雇用時に仕事内容が変わらないのであれば、前者の金額を変えることはできません。一方で勤続年数によって変動する部分、役職や異動の有無などの労働条件に関わる部分は、根拠が明確であれば減額可能です。

例えば、定年までは異動のあり得る働き方だった人が、再雇用後は異動の無い働き方になった場合は、規定に基づき給与変更が可能でしょう。このように給与を減額する根拠が明確になっていれば、その内容に基づき給与が決定されます。

ただ、判決がまだ確定されていないため、裁判所の判断によってはこの考え方が変わる可能性はあります。

ーほかに気を付けることはありますか

従業員が定年を迎える期日は事前に分かるので、定年が近づいてきた際は再雇用の条件をあらかじめ確認しておいた方がいいでしょう。従業員側だけでなく、企業側も早めに伝えることが重要です。もし再雇用時の直前に知らされたとなれば、合意ができずに紛争の原因になりかねません。

◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)