鹿児島県警本部

写真拡大

「不都合な真実を隠蔽しようとする県警」

「本部長による犯罪行為隠蔽(いんぺい)が許せなかった」――。鹿児島県警前生安部長が県警トップを名指しで告発するという前代未聞の事態。複雑に入り組んだその背景事情と腐臭漂う県警の内情を、今回の情報漏えい事件の「キーマン」である福岡のネットメディア代表が明かす。【前後編の前編】

 ***

【写真を見る】警察官の盗撮事件を隠蔽した疑惑が指摘されている野川本部長

 それは突然の「爆弾告発」だった。

 告発の主、鹿児島県警の本田尚志・前生活安全部長(60)が国家公務員法(守秘義務)違反容疑で県警に逮捕されたのは5月31日のこと。その5日後の6月5日、鹿児島簡裁で行われた勾留理由開示手続きの席において、

「職務上知り得た情報が書かれた書面を、とある記者に送ったことは間違いない」

鹿児島県警本部

 本田氏は事実関係を認めた上で、背景に県警トップ、野川明輝本部長(51)の存在があったことを次のように暴露したのだ。

鹿児島県警職員の犯罪行為を野川明輝本部長が隠蔽しようとしたことが、一警察官としてどうしても許せなかった」

「2023年12月中旬、枕崎のトイレで盗撮事件が発生した。容疑者は捜査車両を使っており、枕崎署員だと聞いた。現職警察官の犯行ということで、野川本部長指揮の事件となった。私は捜査指揮簿に迷いなく押印をし、野川本部長に指揮伺いをした。しかし本部長は『最後のチャンスをやろう』『泳がせよう』と言って本部長指揮の印鑑を押さなかった」

「不祥事が相次いだ時期だったため、本部長としては新たな不祥事が出ることを恐れたのだと思う。本部長が警察官による不祥事を隠蔽しようとする姿にがくぜんとし、また、失望した」

「そんな中、現職警察官による別の不祥事が起きた。市民から提供を受けた情報をまとめた『巡回連絡簿』を悪用して犯罪行為を行った。これも本部長指揮事件となったが、明らかにされることはなかった。不都合な真実を隠蔽しようとする県警の姿勢に、さらに失望した」――。

前代未聞の事態

 本田氏は1987年に県警に採用され、22年3月に生安部長にまで上り詰めた、いわゆる「ノンキャリ」。そんなたたき上げの県警元最高幹部が「キャリア」である本部長を告発するなど、前代未聞の事態である。野川本部長は本田氏の告発の2日後、

「隠蔽を意図した指示は一切ない」

 と否定。双方の主張が真っ向から対立しているわけだが、警察庁の露木康浩長官は鹿児島県警に対する監察を実施する考えを示した上でこう述べている。

「容疑者(前生安部長)の主張については捜査の中で必要な確認が行われていく」

 疑惑の渦中にある野川本部長は愛知県出身。95年に東大法学部を卒業後、警察庁に入庁している。

「主に警備畑を歩んできた人で、出向先である東京都のオリンピック・パラリンピック準備局の大会準備部担当課長、警察庁警備局警備課警護室長などを経て鹿児島県警本部長に。出世のスピードは“普通”といったところで、警察庁キャリアの頂点である警察庁長官や警視総監までたどり着くのは難しいだろうとみられていました」(警察庁関係者)

「95年入庁」の呪い

 目下、警察庁内ではある「因縁」を指摘する声が上がっているという。22年、奈良市内で安倍晋三元総理が銃撃されて死亡した事件の発生当時の奈良県警本部長で、事件後に辞職した鬼塚友章氏。彼も野川本部長と同じ95年入庁なのだ。

「そのため、“95年入庁組は呪われている”と言われているのです。現職警察官による盗撮事件は組織犯罪でも何でもないので、『泳がせよう』などという指示は普通あり得ない。そこに隠蔽の意図があったかどうかは今後の捜査次第ですが、前生安部長が本部長を告発する、という事態になっているのは本部長のガバナンスが利いていない証拠。野川本部長の責任が問われるのは間違いありません」(同)

 思惑が複雑に入り組んだ今回の事件。その構図をクリアにするためには、次の点を深く掘り下げる必要がある。本田氏から県警の内部情報を受け取った“とある記者”とは何者なのか。県警は本田氏による情報漏えいをいかにして把握したのか。これらの疑問を解消するために避けて通れないのが、福岡を拠点にするネットメディア「ハンター」の存在である。

“とある記者”の正体

 まず、“とある記者”とは、「ハンター」に鹿児島県警に関する記事などを寄稿していたライターの小笠原淳氏である。

 小笠原氏が語る。

「問題の資料は4月3日、私が主に執筆の場にしている北海道の『北方ジャーナル』という雑誌の編集部の住所に私宛てで送付されてきました。郵便料金が10円足らなかったので、その分を私が払い、受け取りました。消印の日付は3月28日。私に資料を送ってきたのは、『ハンター』に名前を出して鹿児島県警の記事を書いていたからでしょう」

 その場で開封した資料には〈闇をあばいてください〉とあり、先に触れた枕崎署員による盗撮事案や、別の現職警察官による「巡回連絡簿」を使ったストーカー事案の詳細が記されていた。また、情報源をカムフラージュするためか、〈本件問い合わせ〉先として、県警の前刑事部長の名前と住所、電話番号も付されていた。

「これだけ具体的なことを書いている以上、ウソではないだろうなとは思ったのですが、私は普段は札幌にいるのですぐには動けない。そこでこの資料を『ハンター』と共有しておこうと思ったのです」(同)

 後編「『隠蔽指示はあったとみるべき』 逮捕者が相次ぐ鹿児島県警、情報漏えい事件の『キーマン』が明かす県警の“不審な動き”」では、「ハンター」代表が明かしたガサ入れの模様と、その後の県警の“不審な動き”について報じている。

「週刊新潮」2024年6月20日号 掲載