FUJIWARAの藤本敏史さんに噛みつく粗品さん(画像:YouTube「粗品 Official Channel」より)

霜降り明星・粗品さんが「酒のツマミになる話」(フジテレビ系)で元雨上がり決死隊のYouTuber・宮迫博之さんをこき下ろしてから2カ月あまり。今もネット上には、粗品さん関連の記事がアップされ続けています。

宮迫さんとの舌戦に続いて、6月17日には同じ吉本興業の先輩でFUJIWARAの藤本敏史さんに攻撃的な発言を連発。「当て逃げしたんですよ」と昨年10月の出来事を蒸し返したうえで、「車捨てとけ〜い!」「早すぎへん?」「反省してない顔」などと語ったことが報じられています。

先輩タレントだけでなく世間の人々にも噛みついた

その他でも、木村拓哉さんの身長が低いとイジったり、あいさつを無視されたと一方的に暴露したり、「ファンはオバはんしかおらん」とあおるような発言を続けました。昨年もKing&Princeへの「(2人になった)今の状態のキンプリ誰が見るねん」などのコメントが物議を醸しましたが、現在はそれ以上の毒を放っていることは間違いないでしょう。

そんな粗品さんは事務所の大御所・明石家さんまさんから苦言を呈されてもどこ吹く風。最新のYouTube動画「最近のSNSニュース斬った【1人賛否】」では冒頭で、「1人で偏ったどっちかの意見っての言いたくないんですよ」「全部コントなんで。これ何回言わすの。これ僕の意見ないですから。1人でどっちの意見も言ってみるコーナーで、コントやて」などと正当性を主張するようなコメントを続けました。

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「何回言わすの」と視聴者に前置きする粗品さん(画像:YouTube「粗品 Official Channel」より)

さらに、「ちょっと度が過ぎてて最近。ネットニュースもそうですけど、それを見て鵜呑みにしてる情弱の皆さんがね」と世間の人々にも噛みついたことで、粗品さんに対する風当たりがいよいよ強くなってきた感があります。

粗品さんの発言が昨年のように受け流されず、主張する「コント」とみなされない理由は何なのでしょうか。単に宮迫さんや藤本さんなどの「年上の先輩に噛みついているから」だけではない3つの理由が浮かび上がってきます。

生きづらさを感じる自業自得主義

まず粗品さんの発言が疑問視されることの多いYouTube企画「1人賛否」について。

粗品さんは「コントだから」という主張で片付けようとしていますが、すでにそれが通用しづらい段階に突入。人々の目線は「コントという設定なら人を傷つけてもいいのか」「『僕の意見ではない』と断っておけば責任を負わないのか」という嫌悪感に近い段階に入ったように見えるのです。

その段階に入ったきっかけは、宮迫さんの「もう勘弁して」「僕の負けでいいです」という降参宣言でした。これによって世間の人々が「粗品さんが攻撃的な発言をする相手は、何らかの失敗をしたネガティブな状況の人が多い」ことに気づいた感があります。

実際ネット上には「弱者だけ攻撃している」「さんまなどの大物には反論しない」というニュアンスの声があがっていました。「1人賛否」について粗品さんは“ネットニュースを扱ったコント”と主張していますが、世間の人々は「攻撃できそうなものを自分で選んでいるだけ」とみなしはじめているのでしょう。

この「成功している人が失敗した人やネガティブな状況の人を攻撃する」という構図は、いじめと似ていて、それをネットという公然の場で行うことへの嫌悪感を覚えている人が多いのではないでしょうか。さらに言えば、「もし粗品さんの発言に同調して笑う人が多い世の中だったら嫌だな」という気持ちも芽生えているのかもしれません。

粗品さんの「1人賛否」を認めると、「失敗した人やネガティブな状況の人はこれくらい攻撃してもいい」とみなすことにつながりかねない。そんな世間の人々が生きづらさを感じるレベルの“自業自得主義”を粗品さんに感じていて、それがここにきて風当たりが強くなった1つ目の理由ではないでしょうか。

宮迫さんは18日に配信された動画の中で、「こんな完全に干された弱り切った54歳をいじめるのはやめたほうがいい。もっと強い、なんか生き生きした人たちにぶつかるのがいいんだよ。そういうのやめてください。頑張って生きています」と弱々しく語っていました。これはまさにいじめられた人の言葉に見えます。

粗品さんに限らずネット上では「悪口を言えば再生回数が伸びる、悪口を書けばPVが取れる」という風潮があります。それを多くの人々が知っていて、「みんなが見るから良くない。みんなが見ない世の中にしたほうがいい。でも、できないだろう……」という後ろ向きな感覚も嫌悪感につながっているのかもしれません。


粗品さんへの思いを語る元雨上がり決死隊の宮迫博之さん(画像:YouTube「宮迫ですッ!【宮迫博之】」より)

「後出しコメント」が増えてきた

粗品さんに対する風当たりが強くなった2つ目の理由は、自分にとって都合のいい後出しの発言が増えてきたから。

粗品さんは宮迫さんを攻撃したことについて千原せいじさんのYouTubeチャンネルで、「闇営業問題のときに恨みがある」「CMが2本くらい飛んで仕事がなくなった」などと明かしていました。また、木村拓哉さんに対しても「あいさつしたときに無視された」「めちゃくちゃ腹立つ」などと語っています。


千原せいじさん(写真右)のYouTubeチャンネルで、宮迫さんに噛みつく理由を話す粗品さん(画像:YouTube「せいじんトコ」より)

その真偽こそわかりませんが、世間の印象はおおむね「それなら仕方ない」ではなく、「暴言の言い訳」でした。批判を受けたあとに発言したことから理解を得られていませんし、「もし恨み言があったとしても、公然の場で一方的に攻撃していい」というわけではないでしょう。

また、もし粗品さんの言う通り「すべてがコント」なら、「後出しのコメントもその一部」ということになりますが、笑いにはつながっていなかったように見えます。

後出しコメントをした際に発した「そういう芸風で最近は。良いの見つけたと思って」「あんま言ってる人おらんなって」というコメントからは、「みんな言わないことを言うから面白いし、希少価値がある」という意識が透けて見えました。

ただ、それを面白いと感じさせられるのは、主に巨大組織や大物有名人などのアンタッチャブルな相手に対するものでしょう。ネガティブな状況の人に追い打ちをかける必要性はなく、少なくとも「あえて聞きたいことではない」と感じる人が多いから、風当たりが強くなっているように見えます。

藤本さんに至っては本人だけでなく、自らが所属する吉本興業の方針を否定し、業績にも悪影響を与えかねない発言でした。その意味で世間のビジネスパーソンから見たら、「裏切りや告発に近い行為」という感覚があるのかもしれません。

世間の人々をまるで「俺の笑いが理解できない弱者」とみなすような「情弱」と斬り捨てたことも含め、攻撃する相手が増えれば風当たりが強くなるのは当然でしょう。

「時代に合わない笑い」の押し付け

粗品さんに対する風当たりが強くなった3つ目の理由は、時代に合わない笑いを押し付けられるような感覚。

粗品さんと言えば、「M-1グランプリ」(ABC・テレビ朝日系)と「R-1グランプリ」(カンテレ・フジテレビ系)の王者であり、笑いの実績は芸人の中でもトップクラスでしょう。ただ、そもそも笑いはあくまで受け手となる“笑う側”がいてこそ成立するものだけに、「これがコント」「これが面白い」などと“笑わせる側”が一方的に押し付けることは難しいところがあります。

“笑う側”の私たちにしてみれば、「誰かを落として笑いを取る」という芸を以前ほど無防備に楽しめない時代になりました。個人の尊重が叫ばれる世の中になって、「少しでもいじめや差別のニュアンスを感じると笑えない」「2人の間に多少の信頼関係や愛情が見えないと安心して笑えない」などと感じてしまう。

そんな対人関係にセンシティブな人が増える中、「気持ちよく見られないコントを押し付けられている」という感覚になってしまうのではないでしょうか。

たとえば、テレビ局が求めるコア層(13〜49歳)の人気番組となった「千鳥の鬼レンチャン」(フジテレビ系)は、出演者のほとんどを千鳥やかまいたちが強烈にイジっていますが、「本人がそれを望んでいる様子が伝わり、安心して笑える」というニュアンスがあります。

もちろん話芸としての技術力も必要ですが、粗品さんの「1人賛否」からはそのようなニュアンスを感じづらくなっているのでしょう。

以前から粗品さんは毒舌やギャンブルの遊び方などから昭和の芸人を引き合いに出されることが何度かありました。横山やすしさんやビートたけしさんと比べられたこともありましたが、2人がそんな姿を見せていた1970・1980年代とは時代が大きく変わっています。

また、2人は世間の人々に茶目っ気や弱さを見せるなどのキャラクターが愛されていましたが、粗品さんにはそんな良い意味での“スキ”があまりないことも風当たりが強くなっている背景の1つでしょう。

世間の人々は粗品さんに「芸人としての笑いのセンスがあるかないか」を見ているのではなく、単に現状が「笑いづらい」というだけ。さらに「これを笑いと思っている芸人がいて、トップクラスの人気を得ていること」への違和感を覚えはじめているのかもしれません。

「人間として」の信頼を失う段階に

ここまで3つの理由をあげてきたように現在、粗品さんは「芸人として」というより、「人間として」の信頼を失っていく段階に突入しはじめている感があります。

実際、「弱者への攻撃」「後出しの言い訳」「笑いの押し付け」はタレントに限らず一般人でも信頼を失う行為であり、この状態が続けば回復が難しいところまで進みかねません。

そしてネットメディアは、「PVが得られる」という理由だけで粗品さんの発言を切り取るようなコタツ記事を量産すべきではないでしょう。これは営利活動というより「いじめを助長する」「さらなるいじめを生む」という行為に近いものがあり、加害者の一部にすら見えてしまいます。

15日夜、粗品さんは「新しいカギ」(フジテレビ系)で中学生たちと楽しそうに“学校かくれんぼ”をしていましたし、続く特番「爆笑そっくりものまね紅白歌合戦スペシャル」でMCをそつなくこなしていました。「1人賛否」で見せる人を傷つけるような発言はなく、話術で笑いを取っていたのです。

世間の人々はこれまでそんな姿を見てきてトップクラスの実力があることをわかっているからこそ、「なぜ誰かを傷つけるのか」と嫌悪感を覚えてしまうのではないでしょうか。

ちなみに業界内では、粗品さんの礼儀正しい人柄を見てきた人も多く、「何であそこまでやるのかわからない」「さすがにやめたほうがいい」などと心配する声も聞きました。

粗品さんに関するニュースでは、今年1月の「競馬で勝った2400万円を能登半島地震の被災地・石川県に全額寄付した」という記事も記憶に新しいところ。「他人がなかなかできないことをやる」という行動スタンスは一貫しているだけに、簡単に「1人賛否」をやめるとは思えませんが、せめて多くの人々が安心して笑えるニュースをピックアップしてほしいものです。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)