パリ五輪開会式の運営テストでセーヌ川を航行する船団(C)ロイター

写真拡大

【五輪現地発 パリは今日もクレージー】#2

【続きを読む】サーフィン「タヒチ開催」への疑問…「海中の審判塔建設計画」に世界中から猛反発

 ボンジーア! いや、ボンジュールかな。

 さて、今回のパリ五輪は「セーヌ川」がかなりクローズアップされている。開会式では各国の選手がそれぞれ船に乗り、6キロの距離を下るし、なにより男女のトライアスロンやオープンウオータースイミングなど、いくつかの競技はまさに川の中で行われるんだ。

 でも、実はセーヌ川って1923年から泳ぐことが禁止されている。泳ぐと罰金を取られるほどだ。理由はズバリ「汚い」から。それも健康被害が出るレベルだ。

 水質を改善するため、五輪の組織委員会は14億ユーロ(約2362億円)もの大金をかけて排水管を新調し、ハイテクな下水処理場や集水槽などを建設。開会式までには75%汚染を取り除く約束をした。大会後の2025年には、セーヌ川のほとりにビーチや遊泳場をつくって川遊びを楽しめるようにする計画まで出来上がっているんだ。

 ところが! この4月にNGOのサーフライダー・ファウンデーションがセーヌ川の水質検査をしたところ、水100ミリリットル当たりから大腸菌が2000コロニー形成単位(CFU)、腸球菌が500CFU、検出された。国際大会の基準で許容される最大値は、大腸菌が1000で腸球菌が400だから、超えてしまったわけだ。ちなみに、こうした汚染のほとんどはし尿によるものだ。セーヌ川の郊外には、まだいくつかの場所で雨水と一緒に下水を直接川に流しているところがあるらしいよ。

 5月に雨が続いたこともあって、水質はさらに悪くなり、フランスのオープンウオータースイミングチームは、川でのトレーニングを中止にした。1カ月前、セーヌ河畔のオーステルリッツに5万立方メートルの巨大な集水槽が完成したため、組織委員会は鼻高々だったんだが、すぐに自信はペシャンコにされたってわけだ。はっきり言って、こんな状況じゃ選手のみんなは不安だよね。

 オープンウオーターチャンピオン、ブラジルのアナ・マルセラ・クーニャは、まずはパフォーマンスではなく選手の健康を考え、もしもの時のためにプランBも用意して欲しいと訴えている。

「セーヌは泳ぐための川ではありません。試合の時は私たちは何も恐れはしませんが、水から上がって2週間後に病気になる可能性があるのはありえません」

 それなのに、フランスのマクロン大統領やパリのイダルゴ市長は「まず自分たちが泳いでみせる」ってあくまでセーヌ川開催を主張し、鼻息が荒い。アスリートの健康を脅かしてまで開くオリンピックって、いったい何なんだろうね。 (つづく)

(Ricardo Setyon/ジャーナリスト)

▽翻訳=利根川晶子(とねがわ・あきこ) 埼玉県出身。通訳・翻訳家。82年W杯を制したイタリア代表のMFタルデッリの雄叫びに魅せられ、89年からローマ在住。90年イタリアW杯を目の当たりにしながらセリアAに傾倒した。サッカー関連記事の取材・執筆、サッカー番組やイベントで翻訳・通訳を手がける。「カカから日本のサッカー少年へ73のメッセージ」「ゴールこそ、すべて スキラッチ自伝」「ザッケローニ 新たなる挑戦」など著書・訳書多数。