この記事をまとめると

家電の世界ではメーカーが指定価格という制度を設けている

■新車の世界でも指定価格を取りれたほうがユーザーもディーラーも都合がいいという声もある

■ここ数年で新車の買い方に変化が訪れている

指定価格という制度が新車業界を救う?

 この前、あるテレビ番組を見ていたら、家電(家庭電化製品)の世界では「指定価格販売」が目立ってきていると紹介していた。「指定価格」とは文字どおり、どの店へ行ってもメーカーの指定した価格で販売されていることを意味する。番組では、いままでのように価格比較サイトなどで少しでも安い店を探したり、自分で複数の店をまわり安い店を探し、さらに店頭での値引き交渉をするという手間がなくなり消費者メリットも大きいと紹介していた(もちろん指定価格は消費者も納得するものとなっているようだ)。

 指定価格対象商品は、売れ残るとメーカーが買い戻す(バイバック)ことで指定価格維持を行っているとも紹介していた。家電でも新車でも、値引きが大きくなるのは抱える在庫をできるだけ早くさばくことで、在庫管理コストを減らしたいという部分がある。在庫管理しなくてよいことでコスト削減につながり、それが指定価格に反映されているようであった。

 いまどきは諸物価高騰もあり、値引き余力が以前に比べればかなり減ってきている新車販売。新車販売の世界でも近い将来、この「指定価格販売」が浸透していくかもしれないと筆者は考えている。新車販売でも値引き販売が拡大する背景は家電の世界と同じ。コロナ禍前には量販車種を中心に、納期短縮もあり、売れ筋モデルで売れ筋ボディカラー、そして選択の多いオプションを装着した仕様をディーラー個々がストックして販売するケースが多かった。

 当然ディーラーとしてはいつまでも在庫として抱えているわけにもいかないので、そこで「値引き」というものが店舗ごとで状況が異なるなか拡大していくこととなり、同じ車種でも同一地域に資本の異なる複数の取り扱いディーラーがあると、個々で値引き条件が異なって、消費者はそれを比較して交渉することを可能としていた。

 ほかにも想定よりはるかによく売れることで、減価償却が進んで値引きが拡大していくということもあるようだが、多くはディーラー在庫車ほど値引きが拡大しやすくなっているのが現状といっていい。

 日本での新車販売は「受注生産販売」が大原則となっている。お客から注文を取った段階でメーカーに生産を発注するのが受注生産販売となる。ただ、これでは受注から納車まで時間を要してしまうので、少しでも納車までの時間を短くするために、ディーラーがあらかじめ先行して発注して在庫として持つことが当たり前のようになっていた。また、メーカーによっては売れ筋仕様を優先させた生産計画で生産を進め、ラインオフするまでに出荷先ディーラーが決まるような流れとなっているところもあると聞いたことがある。

 トヨタは独特の緻密な生産及び物流管理を進めていることもあり、原則ディーラーに余剰在庫を持たせるということはしないと聞いている。そのため、他メーカー車のように「在庫だから」という理由でいたずらに値引きが拡大することはなく(値引きが拡大しているように見せるワザをセールスマンはもっているので、かなり拡大していると錯覚することはあるようだが)、それが多くの車種について再販価値の高値傾向での安定を招いている。

クルマの価格が全国で統一される日も近い?

 そして、新型コロナウイルス感染拡大を経て、半導体不足などもあり新車の供給体制に問題が発生し、深刻な納期遅延が発生した。さらに諸物価高騰もあり、単純な車両価格の値上げのほか、改良のタイミングで物価上昇分も加味した、つまり、値上げ分も反映させた新価格設定も目立ってきている。

 納期遅延はおおむね改善傾向にあるもののコロナ禍前のレベルとまではなっておらず、コロナ禍前のようにディーラーが実車を抱えるというよりは、ディーラーごとに月単位で生産枠を設け、その枠内に発注が入ると納期が短くなるという仕組みをもつメーカーがあったり、生産工場脇にメーカーがストックヤードを設け、そこでアクセサリーなどを装着してディーラーへ出荷するなど、ディーラーに在庫をあまりもたせない方策をとるようになっているケースもあるようだ。

 いずれにしろ値引き原資はディーラー利益を削ることになるのだが、生産原価も上昇する一方ということもあり、ディーラー利益は減る一方なのが実情だ。昨今、値引きがかなり引き締まっているのが目立つのにはそういった背景がある。

 ディーラーオプションについても値引き余力は減っているので、以前ほど派手な値引きはできない様子だ。

 となれば、家電の指定価格のような統一価格にすれば、どこでも購入条件は同じなので自宅最寄りなど、自分の利便性の高い店へ行って買うだけということになる。最近では「商談がめんどう」ということで新車ディーラーから距離を置く人も目立っているというから、商談について値引き交渉が介在しないことで「タイパ(タイムパフォーマンス)」もよくなるものと考えられ、積極的に新車を購入しようという動きを喚起できるかもしれない。

 新車販売の指定価格販売でネックなのは下取り車の有無となる。いまでも新車購入での値引き交渉でカギを握るのは、下取り査定額にどこまで値引き不足分を上乗せできるかだ。また、下取り査定額は同年式同グレード、同色同オプション選択であっても算出される査定額は使われ方で異なってしまう。つまり下取り査定額を含めた支払総額では個々で異なってしまい、不公平感を助長してしまうことにもなる。

 この点については、新車販売やメンテナンスサービスの利益だけでは食べていけない、いまどきのディーラーは中古車販売を積極的に行っているので、新車販売と下取り車の買い取りを完全分離すれば解決できるだろう。査定額に値引き不足を上乗せして下取りすれば、仮に「新車を買ってもらう」ということを考慮して相場より高めの買い取り額となっても、そこの収支は新車販売とは別になるので、「指定価格販売」に影響を与えることはないだろう。適正価格での買い取りが進むことになるので、中古車価格にもよい影響を与えるかもしれない。

 昔のように交渉次第で40万円引きや50万円引きが引き出せるのなら話は別だが、現状の新車販売では、改良も含め新型になればなるほど値引き余力はわずかとなり、人気車のなかには「原則値引きゼロ」というケースも珍しくない。そうなると、消費者が十分に納得できるお値打ち感の高い指定価格ならば、新車の指定価格販売も今後は十分にあり得るのではないかと考えている。

 かねがね、「交渉上手な人」とか「コネのある人」など、一部のひとだけが好条件で新車を買うことができることへの不満というものもあった。また、昨今ではローンを利用して新車を購入するケースが増えており、しかもその多くは残価設定ローンなので、再販価値の高いクルマほど月々の支払い負担の軽減が可能となっている。そして、再販価値維持の大敵は大幅値引き販売となっている。ローンの利用が増えると単純に値引き額ではなく、月々の支払額ベースで条件交渉も進むので、新車の買い方もずいぶん変わってきているのだ。また、個人向けカーリースも充実してきている。

「コスパ(コストパフォーマンス)」さえよければ、新車購入時の「タイパ(タイムパフォーマンス)」もだいぶよくなるので、新車販売でも指定価格販売が登場してくるかもしれない。