乗っている車種は違えども同じプロドライバーなので、その後はタクシー観光バスの働き甲斐について意見交換が続いた。世間ではバス運転手は人手不足で大変とも聞いていたが、その男性は「ウチは外国人専門のバス会社なんで、皆さん陽気で楽しく運転できていますよ。チップだけでも結構もらえるのでいいですよ」なんてお話も。同業者とは気軽に話すことができ、意気投合することが多いから面白い。

◆ちょっとコンビニ寄ってと頼まれた後

 アプリで都心のマンションから乗ってきたのは20代半ばくらいの男性。タクシーに乗り慣れているのか、目的地の伝え方が的確かつ正確。テキパキしたデキる若手サラリーマン的な印象を持った。

 その彼が途中で「すみません、この先のコンビニで停めてちょっと待ってもらえますか?」と降りていく。数分後、戻ってきた彼は「お待たせしました。これ、良かったどうぞ」と、冷たいペットボトルのお茶を差し出した。

「わざわざ停まって待ってもらった運転手さんへのお礼です」なんてニクイ言葉まで添えてくれる。嬉しいじゃないですか、こういう気遣い。その後の運転はより慎重に、気合を入れ直した。

◆気遣いの言葉が自然に出る人なら大歓迎

 今の時代、街中や列車内で周囲に関心を示さず、後部座席でうつむきながら、ひたすらスマホを注視する人が増えた。結果、走行中の車内は両者無言。運転手から余計な話をするなとの教育もあるため、嫌な緊張感が続くことがある。

 だからこそ、乗降時に挨拶を返してもらえるだけで運転手はちょっとした幸せを感じる。アプリなどで呼ばれた時、迎車地でしばらく待たされイラッとしても、乗車の際「お待たせしました」のひと言が出てくるだけで気持ちが安らぐ。

 急かし方も、言い方次第で大きく気分が変わる。もちろん命令的な思考で「急げ」とされるのは反感を買うだけ。「〇分の新幹線に乗りたいのですけど、間に合いそうでしょうか」とか、「ゴメンなさい、できるだけ急いでもらえますか」とお願いされると、こちらもプロ魂に火が付き、なんとかしようと頑張る。

 要するに、ごく普通に挨拶ができて、相手を気遣うことができる人は、いつでも大歓迎というのが本音なのだ。逆に言えば、それだけしっかり接してくれる人が少ないという、裏話でもある(※運転手側にも同じことが言えるのでしょうけど……)。

<TEXT/真坂野万吉>

【真坂野万吉】
フリーライター。定時制で東京を走り回っている現役の中年タクシードライバー