アメリカでは2022年8月に「今後5年間でアメリカ国内の半導体製造能力の強化に約527億ドル(約7兆9300億円)を充てる」という条項を含む「Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors and Science Act(CHIPS法)」が成立しています。しかし、このCHIPS法から35億ドル(約5400億円)もの資金が、Intelが推進する機密国家安全保障プロジェクト「Secure Enclave」に投入されていることが報じられています。

‘I don’t know how this happened’: A $3B secret program undermining Biden’s tech policy - POLITICO

https://www.politico.com/news/2024/05/24/3-billion-secret-program-undermining-bidens-tech-policy-00158757



CHIPS法とは、地政学的リスクや半導体不足によるサプライチェーン寸断に備え、アメリカ国内での半導体製造企業に対して財政支援を行うというもの。これまでにアメリカ政府は半導体製造能力向上のためにIntelに対し約3兆円規模の資金提供を実施しています。

アメリカ政府がIntelに対する約3兆円の資金提供を発表 - GIGAZINE



しかし、2024年3月のアメリカ議会で提出された歳出法案では、CHIPS法に基づく資金提供に使われる約527億ドルのうち、35億ドルが「Secure Enclave」というプロジェクトに投入されていることが明らかになりました。

CHIPS法に関与する議員によると、Secure Enclaveとは、防衛と諜報活動のための特別な施設でチップを製造する機密プロジェクトとのこと。Secure Enclaveの設立には、Intelによる積極的なロビー活動の実施があったことが報じられています。

海外メディアのPOLITICOによると、Secure Enclaveは国防総省の信頼に足るハイエンドのマイクロチップの調達の問題を解決するために設立されました。このプロジェクトでは、機密プロジェクトを含む防衛及び諜報用の特別な施設でマイクロチップを製造し、パッケージ化しています。



CHIPS法の可決以前から、Intelとアメリカの諜報機関は国防総省の職員に対し、Secure Enclave設立の必要性を訴えていました。下院情報委員会のジム・ハイム下院議員は「国防および諜報の専門家から、最先端のマイクロエレクトロニクスへのアクセスが重要であることが説かれ、私は長い間、Secure Enclaveに資金を提供する取り組みを支持してきました」と述べています。また、マーク・ワーナー上院情報委員長は「Sexure Enclaveは国家安全保障にとって極めて重要であり、十分な資金提供を受けるべきです」と述べています。

一方でCHIPS法からのSecure Enclaveへの資金流用について、一部の議員らは反対の姿勢を見せています。ゾーイ・ロフグレン下院議員は「Secure Enclaveの存在は知っていましたが、議会が支出法案を発表する数日前までこのプロジェクトの資金源は知りませんでした」と(PDFファイル)指摘しています。Secure Enclaveへの資金流用に関してロフグレン氏は「CHIPS法にSecure Enclaveを含めるべきではありません。国防に必要なハイエンドのマイクロチップ開発を実施する場合は、国防総省が資金を提供すべきです」と述べ、反対の意向を示しましたが、「私の異議申し立ては通用しませんでした」と振り返っています。なお、ロフグレン氏は「議会が2025年度の予算案でSecure Enclaveに対する資金流用を停止することを願っています」と語りました。



また、ある批評家は「CHIPS法によるSecure Enclaveへの資金流用は、国内産業を後押しすることを意図した競争的な公的選考プロセスから、1つの企業だけに利益をもたらす可能性のある取り組みへと変化し、政府にとって重要な政策を損なう可能性があります」と指摘しました。

一方、CHIPSプログラムのオフィスディレクターであるマイク・シュミット氏は「Secure Enclaveは行政だけでなく、商務省にとっても優先事項となるプロジェクトです。Secure Enclaveは、CHIPS法が定めた『経済と国家安全保障を前進させるプロジェクトに投資する』という広範な目的に合致しています」と述べています。