ノルウェーの公共メディアであるノルウェー放送(NRK)が、ノルウェー警察によって引き上げられた海底ケーブルの写真を公開しました。海底ケーブルは大きく損傷を受けており、NRKはロシアのトロール船の仕業である可能性を報じています。

This is what the damaged Svalbard cable looked like when it came up from the depths - NRK Troms og Finnmark

https://www.nrk.no/tromsogfinnmark/this-is-what-the-damaged-svalbard-cable-looked-like-when-it-came-up-from-the-depths-1.16895904

問題の海底ケーブルはノルウェー本土とスヴァールバル諸島を結ぶ全長1300kmのケーブルで、2本のうち1本が2022年1月7日に通信できなくなったことから、大きな損傷を受けたと考えられています。以下が実際に引き上げられたケーブルの写真。ケーブルを包む鋼鉄の外装に隙間ができており、中身が露出しています。太さはせいぜい小指程度とのこと。



最外層にはタールを染みこませたナイロン糸で作られた保護コーティングが施されていましたが、それもはがれ落ちていた様子。警察の調査報告書には「何かに挟み込まれたことによる損傷」が指摘されていました。



ケーブルが損傷した海域では、定期的に大規模なトロール漁が行われています。トロール漁とは、巨大な底引き網を海底に引きずるようにして漁獲する漁法で、この底引き網が重さ数トンに及ぶため、引っかかったケーブルが岩や硬い海底に挟まれる可能性があります。

このスヴァールバル諸島沖には複数のロシア漁船が何度も航海した記録があり、損傷発生時にはロシア漁船がケーブルの上をのべ140回も往復していたことがわかっています。



海底のケーブルが船舶によるダメージを受けた事例は今回が初めてではありません。2023年10月には、フィンランドとエストニアを結ぶ通信ケーブルとガスのパイプラインが切断された例がありましたが、このケーブルは中国企業所有の船が引きずった錨(いかり)によって引きちぎられたと報告されています。



また、ケーブル損傷が人為的に起こされている、すなわち故意の犯行である可能性も指摘されています。2021年に切断されたベステローレン諸島とノルウェー本土を結ぶ研究用のケーブルは、「明らかに何物かがグラインダーを使って切断した跡」が残っていたことが判明しており、ケーブルを切断しようとする勢力が存在することを物語っています。



海底ケーブルの切断はその国や地域の通信インフラを大きく破壊する行為であり、すでに軍事的な理由でケーブルが切断された事例も報告されています。

ヨーロッパとアジアをつなぐ海底通信ケーブルが武装勢力・フーシ派によって切断される - GIGAZINE



しかし、今回のケーブル損傷が故意に行われたものであるかどうかは証拠がなく、ノルウェー警察も追及できなかったとのこと。ノルウェーの宇宙インフラを管理・開発するSpace Norwayのエグゼクティブ・ディレクターであるルネ・イェンセン氏は、海底の光ファイバーケーブルが非常に脆弱(ぜいじゃく)であると述べ、「Space Norwayは『ケーブル損傷が人間の活動の結果だったと証明できなかった』という警察の捜査の結論を認めます。したがって、私たちはその結論を心に留め、それ以上の推測はしません」とコメントしました。