本物の陰謀と陰謀論を見分ける「7つのステップ」を心理学者が伝授
by T
陰謀論の中には、地球平面説のようなにわかには信じがたいものがありますが、こうした言説が巧妙なレトリックを使って多くの人を引きつけているのも確かです。SNSなどで拡散されているニュースが、実際に起きている問題なのか陰謀論なのかを見分ける方法を、アメリカ・ルイジアナ州立大学の社会心理学者であるH・コリーン・シンクレア氏が解説しました。
How to tell if a conspiracy theory is probably false
◆ステップ1:証拠を探す
シンクレア氏によると、ある人が根拠を明かさない代わりに以下のような主張を持ち出してきたら、陰謀論の赤信号とのこと。
・伝統的な情報源を否定し、その情報源こそが陰謀論の片棒を担いでいると主張する。
・事件の発生直後は、すべての事実が完全に明らかにならないのが普通であるにもかかわらず、情報の欠如は誰かが秘匿しているからだと主張する。
・表面的な不整合を「虚偽の証拠」として攻撃する。その実例としてシンクレア氏は、議会の答弁にかこつけて選挙に関連した陰謀論に基づく質問をぶつけ、自分の主張の根拠を提示する代わりに、それを否定するコストを相手に押しつける手口を挙げています。
・曖昧な点を証拠として拡大解釈する。例えば、未確認飛行物体(UFO)の正体がわからないことを理由に、それを異星人の宇宙船と主張することなどです。
・漠然とした伝聞を証拠の代わりにする。例えば、「人はこう言っている」とか「親戚の友人の体験談」などです。
・誰にとっても明白な証拠ではなく、一部の人にしかわからない秘密のメッセージの中に知識が隠されていると主張する。
◆ステップ2:反対の証拠を探す
仮に陰謀論者が証拠を出す場合、自分の考えを裏付ける証拠だけを提示し、主張の真偽を問うような反論や批判材料にさらすようなことを避けます。
そのため、陰謀論を見抜くには、科学者が研究の中でよくやっているように、どのような証拠があったら主張が否定されるのかを考えてそのような証拠を探すといいとのこと。
◆ステップ3:大がかりな影の組織に注意
「大規模な集団が長期にわたって広範な活動を行っている」という説は、陰謀論のもうひとつの赤信号です。なぜなら、過去に実在することが判明した「本物の陰謀」の多くは、大企業の上層部や単独のテロリスト集団など、小規模で孤立したグループが関与していることがほとんどだからです。
例えば、大手タバコメーカーが自社製品の健康被害を隠そうとした1950年代のスキャンダルでは、都合のいい情報を発信する科学者や広告代理店に金を握らせるという意思決定に関与したのは一握りの幹部だけだったことがわかっています。
その一方で、疑わしい陰謀論では世界各国の指導者や政府機関、主要メディア、科学界、ハリウッドなどのエンターテインメント産業界など、幅広い人々や組織が陰謀に加担していると主張される傾向があります。
シンクレア氏は「秘密を知っている人が多ければ多いほど、秘密を守るのは難しくなるということを覚えておくといいでしょう」と述べました。
◆4:動機を探す
本物の陰謀では、ある集団がなぜそのような行動をしたのか、それによって何を得ようとしたのかがはっきりしていることがよくあります。一方、疑わしい陰謀論では、それを実行している人々にどんな利益があるのかが考慮されておらず、しばしばコストが度外視されます。
例えば、インターネット上には「フィンランドは日本とロシアが漁業権を得るためにでっち上げた架空の国家である」とするフィンランドは存在しない説があり、フィンランドの存在を示すNASAの衛星写真や地図はねつ造だと主張されることがありますが、NASAにはそのような陰謀に加担するメリットはありません。
逆に、動機が陰謀論を見抜くヒントになることもあります。新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、SNS上で流布された反ワクチンに関する偽情報の3分の2がわずか12人の人物によって生み出されていたことが判明していますが、同時にこれらの人物がこうした主張から金銭を得ていたことも突き止められています。
わずか12人の反ワクチン主義者が81万件以上あるSNSの反ワクチンコンテンツの3分の2を生み出している - GIGAZINE
◆ステップ5:疑惑の元凶を探る
陰謀論的な主張の出所がわからない場合、つまりそのような主張をする人がどうやってそれを知ったのかがはっきりしない場合、それはもうひとつの赤信号となります。よく、「情報を暴露すると報復されるから匿名にしなければならない」とごまかされている場合がありますが、シンクレア氏は「本当にそうだとしても、本物の陰謀はその情報源、例えばソーシャルメディアのアカウントを突き止めることが可能です」と指摘しています。
このような情報源は、後から明かされたり、自ら名乗り出たりすることがあります。例えば、アメリカのリチャード・ニクソン大統領が失脚するきっかけとなったウォーターゲート事件では、スキャンダル発覚から33年後に、ディープ・スロートと呼ばれる内部情報源が当時FBI高官だったマーク・フェルト氏であったことが明かされました。
◆ステップ6:超自然現象に注意
陰謀論の中には、超常現象やエイリアン、悪魔といった超自然的な力が関係しているものがあります。例えば、1980年代から1990年代のアメリカでは、悪魔崇拝者のカルト集団が子どもを悪魔的儀式虐待でいけにえにしているという恐怖が世間をさわがせたことがありますが、この考えはその後もQアノンなど形を変えながら現代のアメリカ社会に根強く残り続けています。
同様に、1983年に放映されたテレビドラマ「V」の影響を受けて、一部のアメリカ人はトカゲ人間の存在を信じるようになりました。トカゲ人間やビッグフットの存在を信じているだけであれば無害ですが、2020年12月25日にテネシー州ナッシュビルで爆弾が爆発した事件では、犯人が「地球はトカゲ人間に支配されている」という陰謀論を信じていた可能性があることが報道により明かされています。
◆ステップ7:陰謀論の魅力に注意
陰謀論は、裏で糸を引いているとされているグループへの偏見、例えばQアノンにおける反ユダヤ主義など、上記以外にも典型的な特徴をいくつか持っています。
またシンクレア氏によると、陰謀論の支持者はその主張の真偽を吟味するよりも、陰謀論に懐疑的な人を愚か者と見下したり、陰謀論に加担していると決めつけたりすることを好む傾向があるとのこと。
「これこそが陰謀論の魅力のひとつです。自分が間違っているかもしれないと認めるより、批判を無視する方が簡単なのです」とシンクレア氏は述べました。