イラストなどのアート作品を投稿できる大手コミュニティサービス「DeviantArt」では、投稿されたイラストや3Dモデルなどを購入できる仕組みがあり、その販売数や作品への評価などに応じて、トップページに表示されたり公式SNSで宣伝されたりしてより多くのユーザーの目に付きやすくなります。しかし、この仕組みを悪用するボットが大量発生しており、DeviantArtはそれらに対応しようとしていないとアーティストから非難の声が上がっています。

How DeviantArt died: A.I. and greed turned a once-thriving community into a ghost town.

https://slate.com/technology/2024/05/deviantart-what-happened-ai-decline-lawsuit-stability.html



VFXアーティストのロマン・リバート氏は2024年3月末に、「DeviantArtは没落しました。哀れなことです」として1枚のスクリーンショットを投稿しました。画像はDeviantArtの公式Xが「トップセラー」として3Dアバターを宣伝しているものですが、WyerframeZ氏というアーティストが調査したところによると、DeviantArtが紹介している作品の多くはAIで自動生成された質の低いもので、名前や経歴、アカウント作成日が重複している明らかなボットアカウントだそうです。これらのボットアカウントが相互にコンテンツを購入し合うことで、高評価を獲得して公式から宣伝されることになっていた模様。リバート氏の投稿を受けて、「私はこれが原因でDeviantArtのアカウントを放棄しました」というユーザーや、「DeviantArtはアーティストや人間が作品を作る苦しみはどうでもいいようなので、17年間投稿を続けたこのサイトを去ることを決めました」とするユーザーなど、DeviantArtの現状を嘆く声が集まっています。





アメリカの文化や時事を扱うオンラインメディアのSlateは、「大量にアカウントとAIによる画像を生成し、それらを相互購入させる形で人気を水増しすることで、DeviantArtに紹介させて収益分配プログラムからのリターンを増やすという戦略を、誰かがボットで構築している可能性は低くありません」と指摘しています。

DeviantArtがAI生成作品に関して問題視された例は過去にもありました。DeviantArtは2022年11月に、画像生成AI「Stable Diffusion」をサイト上から利用できるサービス「DreamUp」を開始。AI作品の表示を減らす設定やAIに作品を学習させない仕組みを提供するなどして、生成AIを好まないユーザーへ配慮していましたが、「画像生成AIが著作権で保護された数十億の画像で訓練され、アーティストからの同意や補償なしに画像がダウンロードされ使用されている」として、Stable Diffusionとともに集団訴訟を提起されています。

画像生成AI「Stable Diffusion」と「Midjourney」に対して集団訴訟が提起される - GIGAZINE



DeviantArtが生成AIによる作品に制限をかけていない状態は、プラットフォームが提供する宣伝や収益化の機会にまで影響が及ぶとSlateは指摘しています。DeviantArtは設立当初、多くのユーザーがアーティストとしてのキャリアを形成できるほど大きく、十分な機能が備わっていました。しかし、プロとしてデビューするためのソーシャルプラットフォームとしては後発の類似サイトの方が使いやすかったり、TumblrやInstagramのようなよりユーザーエクスペリエンスに優れた画像投稿プラットフォームが登場したりと、DeviantArtは繰り返し他サービスにユーザーと収益機会を奪われました。結果として広告が増え、DreamUpや2020年代初頭のNFT関連ツールなどの新しいイノベーションを取り入れてはユーザーから非難を受ける状態にあると、DeviantArtの現状をSlateは分析しています。

DeviantArtを巡る訴訟で証言したことのある写真家のジンナ・チャン氏は、「私は、世界中のアーティストと写真家のために勝利を目指して裁判で戦っていますが、DeviantArtとの戦いは、個人的なものもあります。私が学校を中退して写真家の道を進むようになったきっかけはDeviantArtでフォロワーが増えたためです。メルセデス・ベンツから初めて大きな仕事をもらったのは、オンラインで私の作品を見つけてもらったからです」とアート共有サービスとしてのDeviantArtの重要さを述べました。また、「名探偵ピカチュウ」でコンセプトアートを担当したR・J・パーマー氏は「私は、2012年にDeviantArtに投稿した『リアルなポケモン』のイラストが話題になったおかげで、この仕事に就けました。このサイトには20年通っており、今のパートナーともDeviantArtを通して出会いました」とDeviantArtへの思いを語り、宣伝の仕組みがAIとボットに満たされていることへの悲しみを表しています。

チャン氏はボランティアが管理する「人間によって作成された作品だと明示する」デジタルポートフォリオSNSである「Cara」を運営しています。DeviantArtの共同設立者であるアンジェロ・ソティラ氏もCaraを使用しており、2024年4月30日にはCara上で「私は、他のプラットフォームが本物のアーティストを見捨て、AIが生成したものを支持しているのを見るのがとても悲しいです。一方で、Caraをチェックすれば本物のアーティストの間で行われる魂のこもったコミュニケーションを見ることができてとても嬉しいです。この場所に感謝します!」と語っています。