by NASA Goddard Space Flight Center

2024年の春は太陽の活動が増加し、太陽の表面で発生する爆発現象である太陽フレアの影響で、通常は極地でしか見られないオーロラが日本を含む比較的低緯度の地域でも観測される事態が生じました。オーロラが観測しやすくなって喜んだ人も多いかもしれませんが、実はNASAのハッブル宇宙望遠鏡の寿命とオーロラには関係があるとのことで、科学系メディアのBig Thinkがその意外な関連性について解説しています。

How the northern lights connect to Hubble's inevitable demise - Big Think

https://bigthink.com/starts-with-a-bang/northern-lights-hubble/



2024年は、太陽を観測した際に見える黒点の数が1日あたり平均100個を超えています。黒点は温度が約4000度と周囲より2000度近く低くなっている部分のことで、太陽の活動が増加するに従ってその数も増えていきます。たとえば、太陽の活動が活発だった2003年には1日あたり平均200個を超えていましたが、太陽活動が穏やかだった2009年や2020年は1日あたり平均0〜5個だったとのこと。

太陽活動が穏やかな時期と活発な時期を繰り返す太陽活動周期は約11年となっており、最近の極小期は1997年、2009年、2020年。極大期は1992年、2003年、2014年でした。そのため、次の極大期は2025年または2026年だと予想されています。

太陽活動が活発なほど黒点が多くなり、太陽フレアの数と規模がともに増大するほか、太陽から高温で電離した粒子(プラズマ)が吹き出す太陽風も増加します。この太陽風が吹き出す方向はランダムですが、地球に向かって吹き出すと電磁波や粒子が人工衛星や地球上の電子機器に被害をもたらす太陽嵐となります。2024年5月10日に世界各地でオーロラが観測されたのも、強大な太陽フレアが太陽嵐となって地球に降り注いだためでした。



太陽嵐が影響を及ぼすのは送電網や電子機器だけでなく、「地球を周回する人工衛星の高度」にも重大な影響を与えます。多くの人は地球の大気と宇宙空間を1つの境界線が隔てていると考えがちですが、実際のところ大気と宇宙空間の間に明確なラインはなく、地表から数千km上空であってもほんのわずかにしろ大気の粒子が漂っています。

そのため、地球表面からの高度2000km以下を指す地球低軌道を周回する人工衛星は、日々大気粒子との相互作用にさらされているとのこと。これらの人工衛星と大気粒子の衝突がもたらすエネルギーはごくわずかですが、たとえ1つ1つの衝突が原子や分子レベルであっても、時間の経過と共に抗力として積み重なっていきます。結果として、地球低軌道を周回する人工衛星は次第に高度を下げていき、やがて地球の大気に突っ込んで消滅してしまうというわけです。

太陽活動周期が活発な時期になると、太陽嵐によって地球の大気がより活発化され、大気と人工衛星の作用が増加します。そのため、人工衛星が受ける抗力も増加してしまい、より早く地球上に落下してしまうとBig Thinkは解説しています。

1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡は高度約620km地点に配備されましたが、1993年に最初のサービスミッションが行われた段階で高度は約590kmまで下がっていました。これは1992年の太陽活動周期の極大期に、大幅に高度を下げたからとみられています。最後のサービスミッションが行われた2009年の時点で高度は約570kmであり、その後も次第に高度を下げ続けています。

以下のグラフは、月ごとの平均黒点観測数をオレンジ色で、ハッブル宇宙望遠鏡の1週間あたりの高度損失を青色で示したもの。太陽活動周期が活発な時期になると、ハッブル宇宙望遠鏡の高度が下がるスピードも加速することがよくわかります。Big Thinkによると、太陽活動周期の極小期にはハッブル宇宙望遠鏡の高度は1週間あたり約10mしか下がらないものの、極大期になると1週間あたり約300〜600mも高度が下がるとのこと。これを1年間に換算すると、極大期には年間10km以上の高度損失に相当します。



記事作成時点で発生している第25期の太陽活動周期は、第23期や24期と比較してかなり強力になるとみられており、2024年1月1日〜12月31日の間にハッブル宇宙望遠鏡の高度は10km以上落下すると予測されています。さらに、第25期の太陽活動周期のピークは2025年あるいは2026年初頭にやってくるとみられているため、今後さらにハッブル宇宙望遠鏡の高度が高度を失い続けることもほぼ確実です。

ハッブル宇宙望遠鏡は2026年末までに史上初めて高度500kmを下回るとみられており、第26期の太陽活動周期でもさらに高度が下がれば、極小期でも大幅に高度が低下する状態になるとのこと。そのためBig Thinkは、このままハッブル宇宙望遠鏡の高度を上げる作業を行わなければ、第27期の太陽活動周期が極大期を迎える前にハッブル宇宙望遠鏡は燃え尽きるだろうと指摘しています。

太陽活動周期による人工衛星の高度低下は、長期的な傾向こそ予測できるものの、大気圏に再突入する正確なタイミングや地点といった詳しい予測はできません。そのため、ハッブル宇宙望遠鏡や人工衛星が制御不能な再突入を起こし、地球上に被害を及ぼす可能性もあるとのこと。Big Thinkは、NASAの科学者は人工衛星の再突入による被害を抑えるため、軌道を周回する人工衛星や宇宙船を、制御された方法で大気圏に突入させることを検討するべきだと主張しました。