ダークエネルギーが「進化」しているとの研究結果、「宇宙の終わり」に関する予想を決定づける可能性のある発見
アメリカのキットピーク国立天文台にある「ダークエネルギー分光装置(DESI)」の観測により、宇宙を膨張させているダークエネルギーが変化している可能性があることが判明しました。宇宙の加速膨張が収縮に転じ、やがてビッグバンのような特異点に収束する宇宙の最後「ビッグクランチ」を示唆するこの成果は、宇宙の加速膨張の発見そのものと同じくらい革命的な発見だと位置づけられています。
https://news.osu.edu/first-year-of-desi-results-unveil-new-clues-about-dark-energy/
Dark energy could be getting weaker, suggesting the universe will end in a 'Big Crunch' | Space
https://www.space.com/desi-cosmological-constant-dark-energy-history
Dark energy is tearing the Universe apart. What if the force is weakening?
https://www.nature.com/articles/d41586-024-01273-4
世界の70以上の研究機関から900人以上の研究者が集まって結成されたダークエネルギー分光装置(DESI)の観測チームは2024年4月に、DESIの初期観測データを元にした一連の成果を発表しました。その中には、ビッグバンの直後に現れた密度の揺らぎの名残であるバリオン音響振動の計測によって作られた宇宙の3Dマップもあります。
これまでで最大の宇宙マップの作成はそれだけでも大きな功績ですが、過去110億年にわたってダークエネルギーが宇宙の構造に与えてきた影響を捉えたこの観測データの分析の結果、ダークエネルギーが時間の経過とともに弱まっている可能性があることも判明しました。
主流の宇宙観とはまったく異なる宇宙の行く末を暗示するこの発見について、コロンビアにあるECCI大学の宇宙学者で元DESIメンバーのLuz Ángela García Peñaloza氏は、「この結果発表は、宇宙論にとって素晴らしい日となりました。特に重要なのは、ダークエネルギーは進化しており、不変ではないということです。もしこれが将来のデータで裏付けされれば、進化するダークエネルギーの発見は宇宙の加速膨張の発見と同じくらい革命的なものとなるでしょう」と話しています。
現行の宇宙論で最も有力なモデルである「Λ-CDMモデル」では、宇宙に存在する物体とエネルギーの約7割を占めるダークエネルギーは「Λ(ラムダ)」、つまり宇宙定数で表されます。
この宇宙定数が最初に登場したのは、アルバート・アインシュタインが一般相対性理論を発表した時のこと。1915年にアインシュタインがこの理論で重力の性質を解き明かした2年後の1917年、アインシュタインとオランダの天文学者のウィレム・ド・ジッターはこの理論で宇宙を記述することができることを実証しました。
しかし、一般相対性理論には1つ問題がありました。それは、この理論に基づくと宇宙が伸びたり縮んだりしてしまうということです。現代でこそ宇宙が膨張していることが知られていますが、当時は「宇宙は神が作ったのだから、過去から未来まで変わらないはずだ」という考えが知識人の間での常識であり、20世紀で最も柔軟な頭脳の持ち主のひとりに数えられるアインシュタインも例外ではなかったため、アインシュタインは方程式にある種の「ごまかし係数」を付け加えました。これが宇宙項、つまり宇宙定数Λです。
引力を相殺して宇宙を押し広げようとする力「斥力」を生む宇宙定数により、宇宙は危ういバランスを取りながらもなんとか静止状態を保っていることになっていました。しかし、1929年にエドウィン・ハッブルが遠方の銀河を観測し、それが赤方偏移していること、つまり猛スピードで遠ざかっていることを突き止めると、これが宇宙が膨張していることの発見につながりました。
方程式から宇宙項を削除することになったアインシュタインが、宇宙項の導入を「人生最大の失敗」と悔やんだというエピソードは有名です。
その後の1998年、超新星の観測によって宇宙が膨張する速度を測ろうとしていた2つの天文学者のチームが、宇宙の膨張が想定よりも速く、それどころか膨張速度が加速していることを突き止めると、宇宙を加速膨張させている謎の斥力であるダークエネルギーとして、再び「Λ」が脚光を浴びることになりました。
宇宙定数を含んだΛ-CDMモデルは、これまで報告されてきた多くの観測事実によって裏付けられています。そして、この理論に基づいて、宇宙はこのまま膨張を続けて星々が燃え尽きるビッグフリーズ(ビッグチル)か、あるいは時空そのものが引き裂かれるビッグリップによって終わりを迎えると考えられてきました。
しかし、今回のDESIの観測により、ダークエネルギーは一定ではなく変化しており、時間とともに弱まっている可能性が示されました。その意味について、García Peñaloza氏は「もしこれが真実であれば、そのうち宇宙の加速膨張が終わり、やがて逆転して重力の影響で縮み始めるかもしれません。そうなれば、最終的にこの宇宙は『ビッグクランチ』シナリオで終わる可能性があります」と話しました。
今回発表されたのはあくまでDESIが観測開始から1年の間に集めたデータによるものです。今後、蓄積されたデータのさらなる分析が進められることで、宇宙の過去や未来の姿がより正確にわかるようになることが期待されています。