神奈川県横須賀市の中心部・横須賀中央駅の向かいで再開発がスタートしました。同駅周辺ではそれ以外にも5件の再開発が検討されており、このままいけばあと数年で街全体が大変貌を遂げるはず。市の後押しも含めて、変わる横須賀市の今の姿を見てきました。

京急本線の横須賀中央駅。周辺が横須賀市の中心市街地です(筆者撮影)

海と緑のある三浦半島の街、横須賀

三浦半島の横須賀市に該当する部分とその周辺。緑の色の濃い部分は標高が高い地域。平地があまりないことが分かります(出典:横須賀市教育情報センター)

神奈川県南東部、三浦半島の北半分を占める横須賀市は、市域の東側が東京湾、西側が相模湾に面する海に近い街。三浦半島は中心部に横浜市金沢区から延びる三浦丘陵があり、主に海沿いを走る京浜急行本線の各駅から山側へ向かうと急坂が多いのはそのためです。

高い山はありませんが、丘陵部には緑が豊富で、海と同時に緑も多い、自然豊かな街といえます。

その一方で平地が少ないため、古くから埋め立てが行われており、現在の市内の市街地の大半は埋立て地です。

江戸時代から首都への玄関口、国防の拠点

東京湾の入口に立地していることから、江戸時代以降は海上からの首都への玄関口として国防の拠点となり、1720(享保5)年には浦賀奉行所が置かれています。

浦賀といえば1853(嘉永6)年にペリーが来航(黒船来航)したことでも知られる場所で、日本はその後、久里浜で初めての本格的な日米交渉を行って開国。横須賀市は日本が世界に門戸を開くきっかけをつくった街ともいえるわけです。

今も自衛隊関連の施設の多い軍都

戦前には、大日本帝国海軍横須賀鎮守府や横須賀海軍工廠が立地。現在も基地や自衛隊関連の教育施設が多くあります。例えば、アメリカ海軍第7艦隊、横須賀海軍施設および海上自衛隊自衛艦隊、横須賀地方隊、陸上自衛隊武山駐屯地、久里浜駐屯地や航空自衛隊武山分屯基地や、防衛大学校、陸上自衛隊高等工科学校などが集まっています。

汐入桟橋(横須賀中央駅の一駅隣の汐入駅近くにあります)から出るYOKOSUKA軍港めぐりの船。アメリカ海軍、海上自衛隊の艦隊を間近で見られると人気の横須賀ならではのクルーズ(筆者撮影)

そうした歴史から、横須賀市はしばしば軍港都市(軍都)という言い方をされる街でもあります。観光名所、地元グルメも軍に関連するものが多く、現在は観光資源としておおいに活用されています。

軍用地を転換した公園が多数存在

神奈川県内では飛びぬけて一人当たりの都市公園面積が広い横須賀市。全国平均から見ても広いことが分かります(出典:横須賀市ホームページ:横須賀市の現状と課題)

また、横須賀市は県内でも飛びぬけて市民一人当たりの公園面積が広い街ですが、それはかつての軍用地が多く転換されているため。都市公園約500ヘクタールのうち、約250ヘクタールが軍用地から転換したものだそうです。

京急本線横須賀中央駅周辺で再開発が目白押し

横須賀中央駅の向かい、再開発予定地から見た駅(筆者撮影)

さて、その横須賀市の中心市街地である京浜急行本線の横須賀中央駅周辺で再開発が複数計画されており、これから横須賀市中心部は大きく変わりそうです。

横須賀中央駅は品川から京浜急行本線の快特で50分弱。横浜からなら30分弱です。

駅周辺に暮らしに必要な要素がぎゅっと集中

徒歩10分圏に生活に必要なものがほぼそろう横須賀市中心部。中央が市役所。道を挟んで公園があります(筆者撮影)

同駅周辺には横須賀市役所や郵便局、消防署、警察署、税務署その他の行政機関が集中しており、加えて市の救急医療センター、横須賀共済病院などの医療機関、商業施設などもそろっています。

海側には神奈川歯科大学、横須賀学院(小学校から高校まで)などの教育施設、三笠公園などもあるので、暮らしに必要な施設がコンパクトにまとまっている地域といっても過言ではありません。

横須賀中央駅周辺の都市再生整備計画の対象となっているエリア(赤線で囲われている部分)。2015年の資料のため、エリア中央にある大滝町二丁目地区第一種市街地再開発事業は施行中となっていますが、現在は完成しています(出典:横須賀市ホームページ 都市再生整備計画 横須賀中央駅周辺地区 地方都市リノベーション事業 神奈川県横須賀市)

横須賀中央駅周辺の約26ヘクタールは、国が行っている都市再生整備計画事業の都市再生整備地域となっています。

これは、区市町村が作成した都市再生整備計画に基づいて実施される事業に対して交付金を交付する制度で、国交省のホームページによると「地域の歴史・文化・自然環境等の特性を活かした個性あふれるまちづくりを実施し、全国の都市の再生を効率的に推進することにより、地域住民の生活の質の向上と地域経済・社会の活性化を図ることを目的とする」ものだそうです。

県道26号沿いに集中する開発計画

この制度を利用し、横須賀中央駅前の都市再生整備地域内では現在1ヶ所の再開発が進行しており、それ以外にも5ヶ所が再開発を検討。それらはすべて同じ道、県道26号に面しており、2015年にはそのうちの一街区ですでに再開発が行われ、地上38階建てのタワーマンション「ザ・タワー横須賀中央」(前出の図で施行中となっていた区画です)が誕生しています。

今後、現在検討中の計画が実現していくと横須賀中央駅前の通り沿いはこれまでと一転。高層の建物が並ぶことになる可能性があるわけです。

駅の真正面で複合商業施設の建替え

赤線で囲まれているのが再開発予定地。横須賀中央駅と向かい合う場所です(出典:横須賀市ホームページ 添付書類(1))

以下、具体的な場所と計画を見て行きましょう。まず、現在進行している再開発エリア・若松町1丁目地区は駅の真正面になります。

正面の建物が再開発予定の横須賀プライム。周辺の小規模なビルなどとまとめて一街区を再編する計画です。写真、左手に見えているのが2015年に完成した「ザ・タワー横須賀中央」です(筆者撮影)

中心となっているのは駅の東口から徒歩1分、ペデストリアンデッキでつながれた商業ビル・横須賀プライムです。地元では親しまれてきた商業ビルですが、老朽化が進み、耐震性への懸念やバリアフリー対応の遅れなどもあり、今回、周囲の建物などと合わせて建替えられることになったもの。

建物は33階建てになる予定です。事業計画書によると1~4階に店舗等が入り、6~10階まではホテル、11階以上が住宅になる計画で5階は住宅の共用部に充てられます。

建物の前の掲示。移転のお知らせが貼られている店舗もありました(筆者撮影)

住宅は約54平方メートルの2LDKが86戸、約73平方メートルの3LDKがやはり187戸で合計273戸。2025年10月に着工して、2029年5月末に竣工する予定です。取材に訪れた2024年2月には同月29日に閉館するという掲示が出ており、その前で立ち止まる人の姿を何人も見かけました。

残り5ヶ所の再開発検討エリアを一気にチェック

それ以外の計画はまだ検討中でどのような開発になるかは分かりませんが、場所だけは分かっているので、以下、簡単にみていきましょう。

駅隣接の横須賀中央駅前地区

駅のすぐ前にあたる横須賀中央駅前地区(出典:横須賀市ホームページまちづくり・再開発)
駅のペデストリアンデッキから見下ろした横須賀中央駅前地区。中央にある細い道を抜けた先にある茶色い建物のあるエリアは若松町2丁目地区になります(筆者撮影)

横須賀中央駅前地区は駅に隣接した場所で、現在は県道26号に面して金融機関のビルがあり、その裏手には路地に面して飲食店が並んでいます。駅前の飲食店のうちには閉店した状態の店もあり、ここが変わると駅自体の印象も大きく変わりそうです。

ホテルなどもある街区、若松町2丁目地区

他の地区に比べると既存建物も大きい若松町2丁目地区(出典:横須賀市ホームページまちづくり・再開発)
左側が若松町2丁目地区。道を挟んだ右側は若松町1丁目北地区です(筆者撮影)

その横須賀中央駅前地区と道を一本隔てて隣り合うのが若松町2丁目地区です。小規模な店舗もあった横須賀中央駅前地区に比べると比較的大きな建物が2棟ある街区で、それらをまとめてさらに大きなビルにしようという計画なのではないでしょうか。

商店街の共同ビルを建替え、三笠ビル地区

細長い県道26号沿いの建物とその背後の建物を加えた三笠ビル地区(出典:横須賀市ホームページまちづくり・再開発)
三笠ビル商店街。もともと路面の商店街を共同ビルに入れたものであるため、生鮮食品店その他、一般の商業ビルにないような業種が入っています(筆者撮影)

さらにその隣でも計画があります。それが三笠ビル地区。県道26号に沿った細長い街区で、県道沿いにある三笠ビルは商店街が建てた共同ビル。1959(昭和34)年11月に建てられているので築65年。バリアフリー、24時間防犯システムなどが取り入れられたビルですが、建替えてさらに新しくということでしょう。

小規模建物が密集する、若松町1丁目北地区

現在、再開発が施行されている街区とすでに施行された街区の間にある若松町1丁目北地区(出典:横須賀市ホームページまちづくり・再開発)
若松町1丁目北地区。低層で間口の狭い建物が中心です(筆者撮影)

続いては、現在進行している若松町1丁目地区の道を隔てて隣に位置する若松町1丁目北地区です。ここは小規模な建物が密集しており、間口の狭い2階建ても混在する街区です。

隣接する街区には2015年に竣工した再開発ビル「ザ・タワー横須賀中央」が建っています。

駐車場が半分以上の大滝町1丁目地区

駅からは遠いように見えますが、歩いて数分。駅前のペデストリアンデッキから見えるほどの場所です(出典:横須賀市ホームページまちづくり・再開発)
写真中央を横切る道の向こう側が大滝町1丁目地区。敷地の半分以上が駐車場として使われています(筆者撮影)

すでに再開発された街区からワンブロック飛んで次の街区が大滝町1丁目地区。ここは半分以上が駐車場になっています。現在、開発の計画がある街区の中ではもっとも駅から遠い街区になりますが、それでも駅からは歩いて数分ほど。もっとも遠い開発で数分ですから、それ以外はもっと近く、ほぼすべてが駅前開発といっても良いほどということになります。

市独自の特別減税で再開発を後押し

こうした開発ラッシュの背景には前述の国の事業による助成のほか、市が独自で行っている市街地再開発等促進特別減税の影響もあります。

これは横須賀中央駅周辺、追浜駅、京急久里浜駅周辺地区に適用される減税で、これらの地域での建替えを促進させようというもの。

具体的には建築敷地面積500平方メートル以上かつ容積率300%以上で2028年12月末までに竣工する建物のうち、面積、階数など一定の要件を満たすものに対して、商業等の事業に供する施設の固定資産税・都市計画税(家屋)について5年間減税するとのこと。

建築敷地面積が1,000平方メートル以上かつ容積率600%以上の建築物であれば、固定資産税(家屋)、都市計画税(家屋)をそれぞれ90%減免、建築敷地面積が500平方メートル以上かつ容積率300%以上の建築物であれば上記の2つの税が3分の2に減免されます。

商業施設、ホテルにも奨励金

商業等集積奨励金として再開発以外で作られる商業施設やホテル営業施設についても奨励金が出ることになっており、たとえばホテルの場合には建替え等によって増加した宿泊可能人数1名あたり30万円などとなっています。

写真中央の薄い茶色の建物がホテルニューポートヨコスカ。さまざまな優遇策を利用して建てられています(筆者撮影)

前出の「ザ・タワー横須賀中央」は地上4階までの商業施設部分でこの特別減税制度を利用しており、2021年に開業したホテルニューポートヨコスカは特別減税制度、商業等集積奨励金、ホテル誘致等奨励金を利用しています。

あの手この手の開発推進に大変貌への期待

横須賀中央駅周辺地区では再開発事業等での国庫補助金等事業の採択面積要件が緩和されていますし、エリア内の一部の区域では高度地区の廃止及び容積率上限の変更も行われています。

再開発をしやすく、建替えが促進される施策のあの手この手が用意されているわけで、そうした行政の姿勢が、再開発計画が集中する現在につながっているのです。

駅から県道26号を見たところ。道路右手に3棟、左手にも3棟の新しい建築物、しかも高層建物が建つとしたら風景はどれだけ変わることでしょう(筆者撮影)

それを考えると、現在検討中の計画の実現可能性は非常に高いといえるでしょう。横須賀市中心部はあと数年で大きく変貌するのではないでしょうか。商業施設、ホテルなどが増えることでにぎわいも増すかもしれません。

既存再開発マンションの裏手の建設現場。左手は分譲マンションでした(筆者撮影)

再開発を予想して、予定地周辺でのマンション建設もみかけました。6件もの再開発計画があるとはいえ、都市再生整備計画の対象となっているエリア内には他にもまだ土地はあります。今後、さらに建替え、建設の動きも出てくるかもしれません。

都市再生整備計画の対象となっているエリア内にはこうした場所もあり、今後、現在検討されている地域以外にも計画が出てくるかもしれません(筆者撮影)

東京の都心部からで考えると多少時間はかかりますが、海も山もあるという自然環境は魅力的。歴史のあるまちだけに街なかを歩くのも楽しく、さまざまな店舗もそろいます。これから数年のまちの変化をイメージしながら、住む観点で街をチェックしてみてはどうでしょう。

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