SHISHAMO 10周年イヤーの濃密な時間と近年の活動の成果が見事に刻まれたニューアルバム『SHISHAMO 8』をメンバー3人が全曲解説
SHISHAMOのニューアルバム『SHISHAMO 8』はCDデビュー10周年イヤーの濃密な期間を始めとする、近年の音楽活動の成果が見事に刻まれた作品となった。深みや広がりを備えた歌の世界を、ニュアンス豊かなスリーピースのバンドサウンドで鮮やかに表現しているのだ。「ハリボテ」「なんとなく。」「溺れてく」「恋じゃなかったら」など、恋愛ソングでも新境地を切り拓いている。「最高速度」「わたしの宇宙」「きらきら」など、生きていく上での頼もしい味方となってくれる曲も目立っている。「ハッピーエンド」のような時を超えて、聴き継がれていくであろう名曲も収録されている。アルバムに刻まれた数字はバンドが着実に成長し続けていることの証しだろう。SHISHAMOは瞬間瞬間に全力を投入しながら、表現の幅を広げ、進化し続けているからだ。新作の全曲が素晴らしい出来映えなので、全曲解説も含めて、アルバムとツアーについて、3人に聞いた。
――『SHISHAMO 8』が完成しての感想、手応えを教えてください。
宮崎朝子(Gt,Vo):今のSHISHAMOにできることは全部やったんじゃないかなと思うくらい、満足できる作品になりました。“さあ、アルバムを作るぞ”という意識で制作を始めたのではなく、アルバムの全容が見えないまま、配信リリース曲などを少しずつ作り続けた作品なのですが、完成して通して聴いた時に、これまでにないくらい、心が動いたんですよ。1個1個全力でやってきたからこそ、こんなにいいアルバムができたんだなと思いました。
吉川美冴貴(Dr):アルバムを意識せず、自分たちができるひとつひとつのこととしっかり向き合ってきたことが、アルバムという作品になったので、とても達成感がありましたし、自分たちが長い時間をかけてやってきたことが一つの作品になったんだなという感動がありました。
松岡彩(Ba):ここ数年のSHISHAMOを辿るようなアルバムになったなと思いました。いい曲を作り続けて、それがこういう形になって、皆さんに聴いてもらえる機会があることが本当にうれしいです。
――作り方で変わってきたことはありますか?
宮崎:やってきたことはあまり変わっていませんし、本質は変わらないと思います。と同時に、本質の部分がどんどん強いものになっていて、やってきたことは同じだけれど、全部がレベルアップしていると感じています。
――10周年イヤーでの一連の活動を間に挟んだことが、この新作の制作に影響したところはありますか?
宮崎:10周年の1年間は、“恋愛の曲を作り続けてきたSHISHAMOを表現したい”という意識で活動していました。コンセプトアルバムを作ったり、そのアルバムを軸としたツアーを回ったり。そうした中で思ったのは、“こんなにたくさんの恋愛の曲を作ってきたけれど、まだまだ書きたい恋愛の曲があるな”ということでした。“まだまだ書ける”という気持ちが自分にとっての希望になったというか。それともう一つ、私の中で“SHISHAMO=応援ソング”みたいなイメージに抗いたいという意識がずっとあったのですが、新作が完成して聴いた時に、「わたしの宇宙」「きらきら」など、応援する要素のある曲がしっかり届いてくると感じて、こういう面も大事にしたいなと素直に思いました。
――そう思えるようになったきっかけはありますか?
宮崎:おそらくこの10年があったからですね。こうした曲を評価してくれる人がいることを素直に喜べるようになった気がします。
<『SHISHAMO 8』全曲解説>
■01. 最高速度
――1曲目の「最高速度」も、聴いている人への応援する気持ちも含まれている歌だと感じました。
宮崎:「明日も」を作って以降、タイアップの話をいただく時には、そうしたものを求めてくれる方が多くて、その期待に応えるべく、書き下ろすことが多かったのですが、最近は少し意識が変わってきました。こういう話をいただかないと、自分からは書かない気がするので、ありがたいことだなという気持ちが強くなりました。自分から出てくるものだけで作っていると、どんどん狭くなってしまうので。
――依頼されて作ることによって、表現の幅が広がるということですね。
宮崎:そうだと思います。「最高速度」を作る時も、要望に応えながら、プラスアルファでスリーピースの在り方を提示できる曲にしたいなと思って作りました。“求められているSHISHAMO”と“今見せたいSHISHAMO”とをどういうバランスで組み合わせるか、工夫することも含めて、楽しみながら作りました。
――ソリッドなバンドサウンドも見事です。どんな意識で演奏しましたか?
吉川:演奏はかなり難しいんですが、やりがいがありますね。ライブ映えする曲でもあるので、ライブで演奏する時には、お客さんの反応も含めて、楽しんで演奏しています。
松岡:難しい曲ではありますが、曲の頭のところは自分の見せ場でもあるので、“こっちを見てろ!”という気持ちで、自信を持って弾くようにしています(笑)。音をかなり歪ませているので、ライブで演奏している時は、ひたすら気持ちがいいです(笑)。
――《君だってそうだよ》というフレーズに象徴されるような、リスナーに向けての眼差しがあるところもいいですよね。
宮崎:以前はお客さんに向けて歌っている意識はそんなになかったんですよ。自分たちが作ったものを好きになってくれた人が集まっているんだなという意識だったんですが、10周年イヤーの活動をする中で、自分たちの音楽を聴いてくれる人たちへの感謝の気持ちが大きくなりすぎて。曲を作っていても、つい感謝してしまうというか、自然にお客さんの存在が浮かぶようになってきたので、そこが歌詞に反映されていると思います。
■02. 夏恋注意報
――2曲目の「夏恋注意報」は「君と夏フェス」(2014年7月発売Sg)にも通じる夏ソングですが、さらにニュアンスが豊かになっていて、SHISHAMOの成長が刻まれた曲でもあります。
宮崎:数年前だったら、この曲は作れていないと思います。自分たちが夏フェスに出始めた頃は“四つ打ちブーム”だったので、自分たちは違うことをやろうという意識が強かったんですよ。でも10年やってきて、“SHISHAMOってこういうバンドだよね”というものをある程度確立できた気がしていて。今なら、何をやっても大丈夫だという自信があるので、四つ打ちの封印を解いた曲です。実際にやってみたら、楽しかったという。
吉川:いろいろなバリエーションがある中の一つの要素として、四つ打ちがある感じになったので、良かったですね。
松岡:SHISHAMOらしさもあるし、演奏のレベルも上がっているし、今まで培ってきたものを肉付けして、SHISHAMOの曲としてバンと出せた曲なので、演奏していて楽しいですし、好きな曲です。
■03. 私のままで
――3曲目の「私のままで」は、マッチングアプリのCMソングでもあります。聴き手を解放するパワーを備えた曲だと感じましたが、オーダーがあって作ったのですか?
宮崎:いえ、たまたまご縁があった曲で。自分たちが作った曲に対して、CMの価値観が合い、この曲を選んでいただきました。
――恋愛だけでなく、さまざまなことが当てはまる普遍的なメッセージが伝わってくる曲だと感じました。
宮崎:恋愛すると、相手に合わせがちになることもあると思いますが、自分らしさを大切にしたまま、自分を好きになってもらうことが大事だと思いますし、そういうテーマで書けた曲です。
――あるがままの姿を大切にするって、今のSHISHAMOにも当てはまりそうですね。
宮崎:自分の中のSHISHAMO像を表現できた曲でもありますね。“THE SHISHAMO”みたいな曲。スリーピースバンドとして、まだやれることがたくさんあると思っているのですが、その限界に挑んでいる曲でもありますね。
宮崎朝子(Gt.Vo)
■04. 会えないのに
――4曲目の「会えないのに」は、低音のベースでの始まりも印象的です。どんなところからできた曲ですか?
宮崎:いつかアルバムに入れたいよねって、自分たちの中で温めていた曲で、今回晴れて復活しました(笑)。10周年記念のコンセプトアルバムは“恋愛の喜び”と“恋愛の痛み”に分けて作ったのですが、やっぱり“痛み”のほうが膨大な数があるんですよ。自分自身、幸せな恋愛ソングよりも痛い恋の歌のほうが作っていて楽しいし、歌っていても楽しくて。3人の表現力の見せ場をより発揮できる気がします。「会えないのに」もそんな曲の一つです。
――どんなことをポイントにして演奏しましたか?
松岡:ベースがルートで動くものは、SHISHAMOの曲では少ないので、とても新鮮でした。曲の元気な印象と歌詞のせつなさとのギャップがポイントだなと思って、演奏しました。
吉川:「会えないのに」はSHISHAMOの中でもテンポが速いほうの曲で。数年前までは、こういうアップテンポの曲は演奏するのに精一杯みたいなところがあったのですが、今は曲に気持ちを入れたり、寄り添ったりしながら演奏できるようになりました。自分としては、これから先、SHISHAMOの曲をもっと良くしていけるのでは、という希望が見えた曲でもありますね。
■05. 犬ころ
――「犬ころ」は転がるようなリズムが特徴的で、まさに“犬ころ感”のある曲です。どんなところから生まれたのですか?
宮崎:平凡な日常の中にこそ、本当に大切なものがあるな、そういうものを大事にしてほしいなと思いながら作った曲です。コロナ禍の前からあった曲で、アルバムの中で唯一、ほっとできる曲という。ライブでもアコースティック編成で結構やっていて、「早くあの曲を出してほしい」という声をたくさんいただいていたので、今回、バンドサウンドという形でみんなに届けられるのがうれしいです。
――歌詞も素晴らしいですし、コーラスもとてもほのぼのしてます。
宮崎:等身大のコーラスというか。飾りすぎてない感じが“犬ころ”っぽくて、お気に入りです(笑)。
吉川:最初にデモを聴いた時から、歌詞も曲もアレンジも、全部マッチしていて、なんてかわいい曲なんだと思いました。この曲をバンドバージョンでライブで演奏するのがとても楽しみです。
松岡:歌詞を聴いているだけで情景が思い浮かぶし、頭の中で主人公が動き出すような曲ですね。このほのぼのした日常感を味わってもらいたいと思いながら、ライブでも演奏していましたし、みんながこの曲のリリースを待っていてくれていることも伝わってきたので、こうやって出せてうれしいです。
松岡彩(Ba)
■06. ハリボテ
――「ハリボテ」は、SF的なスケールの大きな歌詞、世界観が素晴らしい曲です。
宮崎:自分でもやりたいことができた実感がありました。歌詞の世界、主人公の気持ち、ストーリーをこのアレンジとこの演奏で、さらに大きなものにできたなと感じています。3人の音でここまで表現できたことに達成感がありました。歌詞も楽しみながら書けました。
松岡:初めてこの歌詞を見た時に、これは普通の男女の話の比喩なのかなと思ったんですよ。でも話を聞くと、本当にこういうSFストーリーなんだとわかり、おもしろいな、不思議な気持ちになってもらえたらいいなと思いながら、演奏しました。
吉川:私も松岡と一緒で、最初は比喩だと思いました。でも、言葉どおりの歌詞なんだと聞いて、今までは現実世界からかけ離れたストーリーってなかったな、新しいなと思って、ワクワクしながら演奏しました。10年やってきても、また新しい曲を作れるんだという感動もありました。
■07. わたしの宇宙
――「わたしの宇宙」は、タイアップ曲ですが、温かさ、力強さ、包容力を備えた曲です。どんなきっかけから作ったのですか?
宮崎:生きていく上でニュートラルでいたいという気持ちがずっとあって。タイアップの書き下ろしではありますが、自分の気持ちのままに素直に書けた曲ですね。私自身、未来には楽しいことや希望がいっぱいあるはずだと思っていますし、そういうことを書けたので、お客さんにもちゃんと届いてほしいです。
吉川:私もこの曲の歌詞が本当に好きで、今もまだ多感なんですが、中学、高校の頃の多感な自分に、この曲を聴かせたいです(笑)。《私はこの「孤独」を「自由」と呼ぶ》というところが好きで。このフレーズに救われた自分もいますし、この曲を聴く人が同じように感じてくれたらうれしいなと思いながら演奏しています。
松岡:この歌詞を見た時に、純粋だなと感じました。大人になって、忘れてしまうようなことを思い出させてくれる曲だなって。最後の《手を繋いでいようよ》というフレーズでの終わり方もとても好きですし、温かさを感じてもらえる曲になったんじゃないかなと思います。
■08. きらきら
――「きらきら」も聴く人に希望と勇気をもたらす曲だと感じました。これはどんなところから作ったのですか?
宮崎:オリジナルアニメ(京セラ発オリジナルアニメ『私のハッシュタグが映えなくて。』)の主題歌ということで、苦戦しながら書いた曲です。でもアルバムが完成して通して聴いた時に、自分がいちばんグッと来た曲でもあるんですよ。作ってから時間が経ったこともあってか、自分が作ったのに、自分が作った感じがしなくて、“いい曲だな~”って聴き入ってしまったという(笑)。自分も勇気をもらえる曲ですし、「わたしの宇宙」から「きらきら」の流れは、アルバムの中でもお気に入りになりました。
――1音1音に思いを込めていくようなエモーショナルな演奏も染みてきました。
吉川:レコーディングしたのが1年以上前なので、多分、そこからさらに成長していると思うんですよ。今の自分たちがライブで演奏した時に、この曲がどう輝くのか、とても楽しみです。
■09. なんとなく。
――「なんとなく。」は大人の恋愛ソングです。
宮崎:おととしの夏にリリースした曲なのですが、「ハッピーエンド」と対照的な曲になりました。ほぼ毎年、夏に新曲を出しているんですが、じっとりしていたり、カラッとしていたり、いろいろな夏を表現するのが楽しくて。この曲は大人なSHISHAMOを出せたらと思って作った曲です。3人でこの世界観を出せるのが、今のSHISHAMOの強みかなと思います。
吉川:私が初めてこの曲を聴いたのは、スタジオの帰りの車の中だったんですが、“これはすごい曲だな”と思った記憶があります。遡ると、「熱帯夜」(2015年8月発売Sg)あたりから始まっているSHISHAMOの王道とはまた違う路線の持ち味を出し切れた曲だと感じています。
宮崎:お客さんも年を重ねてきて、“ただれた恋愛”の相談を受けることもあるんですよ(笑)。以前は「バレンタイン、何を作る?」って、かわいいことを言っていたような子たちが、こっちが心配になるような深い相談をしてくることも増えてきて。SHISHAMOもディープな恋愛を描いていいタイミングなのかなと感じています。
――SHISHAMOの恋愛ソングは人間ソングと言いたくなる曲がたくさんあります。人間の業(ごう)や性(さが)など、本質的なところを深く掘り下げて描いている印象があります。自分ではどう感じていますか?
宮崎:恋愛の曲を書いていて楽しいのは、心の動きを描けることなんですよ。恋愛をしている時って、人間がいちばん出るし、心がいろいろな風に動くので、そこを描くのが楽しいです。
■10. 春に迷い込んで
――「春に迷い込んで」は、ダークな要素が魅力的な春の歌です。SHISHAMOの恋愛ソングは季節とリンクしたものが多いですが、理由はありますか?
宮崎:季節って、みんなが同じように過ごしているものなので、描きやすいし、みんなにも伝わりやすいテーマだと思っています。このギターの音は春のこういう空気を表現しているよねというものが、自然にみんなにも届くので、作っていて気持ちがいいですね。この曲では、季節は勝手に進んでいくけれど、その季節についていけず、まだ冬の中に取り残されている女の子の気持ちを描きました。
――ピアノとアコギで始まり、ストリングスも入ってきますが、バンドの演奏も表情が豊かです。
松岡:頭のピアノから桜が散るイメージの湧くサウンドで始まり、春っぽいのに寂しさのある曲なので、寂しい感じを意識して歌詞に寄り添いながら演奏していました。
吉川:感情を乗せてしっかり演奏しなければ伝わらない曲だと思ったので、ストーリーや起伏をイメージして、土台として成立する演奏を心がけました。
吉川美冴貴(Dr)
■11. 溺れてく
――「溺れてく」はSHISHAMOのオルタナティブな魅力が詰まった曲です。
宮崎:アルバムの中にこの要素がなければ、SHISHAMOじゃないだろうという意識があって、アルバム制作の終盤で差し込んだ曲です。ストーリーではなく、気持ちをメインに描く曲がほしくて作りました。
――演奏も溺れていく感じが伝わってきます。
松岡:歌詞もサウンドもずっと溺れている感じがするし、沈みたい時に聴きたい曲になったと思います。なので、そういう気持ちに寄り添い、思いっきり沈めるように心がけて演奏しました。
吉川:感情の質量がすごい曲で、主人公が感情に飲まれる、みたいな感じなので、かなり覚悟して演奏しました。
■12. ハッピーエンド
――「ハッピーエンド」はこのアルバムの中でも屈指の名曲です。夏の情景描写とせつなさの極地と言いたくなる主人公の心象風景が見事にシンクロしています。
宮崎:SHISHAMOの中でも大事な曲になっています。虫も死ぬような暑さや太陽の眩しさをバンドサウンドで表現できたと思います。誰かを本当に好きになったことのある人にしかわからない絶望感みたいなものを描きたいと思っていて。主人公の女の子が本当に相手のことが好きだったんだなということが伝わる言葉を一個一個選んで作りました。ライブでこの曲をやると、泣く子が結構いて、その光景が目に入ると、自分も泣きそうになるので、やめてほしいです(笑)。強い気持ちで聴いてくれている人たちがいることを感じられる曲ですね。
――バンドの演奏の表現力の振り幅も広くて深くて見事です。
吉川:こういう曲を表現できるところまで、バンドが成長できたんだなと感じています。
松岡:私はこの曲がめっちゃ好きです。最初のギターのフレーズから情景も浮かぶし、夏の暑さも伝わる曲になったなと思っています。ライブで泣いているお客さんもいますが、私自身も演奏していて、つい感情が入ってしまう曲です。
■13. 恋じゃなかったら
――アルバムが「ハッピーエンド」ではなくて、「恋じゃなかったら」で終わるところもいいなと思いました。季節が巡るように循環していく感覚、新しいモードに入る感覚を味わいました。
宮崎:やはり希望で終わりたいというか。「恋じゃなかったら」が最後にあるからこそ、また頭から聴きたくなるアルバムになったんじゃないかなと思っています。
――「恋じゃなかったら」はどんなきっかけから生まれた曲ですか?
宮崎:アルバム曲を意識して作ったのですが、完成が近づくにつれて、存在感が強くなっていった曲です。しかもこのアルバムの他のどの恋愛の曲とも違う視点で書けた曲で。この曲のように、走り出したいくらいの恋ができたら、いちばんいいよなって思っています(笑)。
――エネルギッシュでみずみずしいバンドサウンドも気持ちいいです。
松岡:最初から最後まで疾走感があって、ストーリーがいいなと思っています。
吉川:最後に3人で歌っているところもとても好きです。立ち直れないくらい深く傷ついても、また前を向いて走って行こうという救いがある終わり方になっているところも気に入っています。
宮崎:このアルバムの主人公たちって、恋愛で傷つきに傷ついてる感じもしますが、“それでも恋っていいよね”って私は思うんですね。なので、こういう終わり方になって、良かったなと思っています。
――恋愛の希望だけでなくて、バンドとしての希望が見えてくる作品でもあるのではないかと感じました。アルバムタイトルの数字が増えるごとに、毎回しっかりと成長しているところも素晴らしいですよね。
――6月2日からはツアーもスタートします。現時点でイメージしていることはありますか?
宮崎:アルバムがこれだけいいものになったので、いいツアーになることは今から決まっていますね(笑)。曲の力だけじゃなく、チーム力も10周年を経て、さらに強くなった気がしています。自分たち3人だけでできたことは何一つなくて。スタッフとの絆がさらに深くなっているので、ツアーがとても楽しみです。今回のツアーも最初と最後ではまったく違うものになると思います。ツアーに関わっている全員が、“次のライブは今日より良くしよう”という愛情を持って、前を見てくれているから。
吉川:私も同じように感じていて。支えてくださっているスタッフの皆さんとのコミュニケーションもどんどん取れるようになってきて、10年を経て、同じ方向を向けていることを実感しています。最近はアコースティックツアーを回っていて、久々なので、早くバンドでツアーを回りたいです。
松岡:私も久々にバンドでツアーを回れるのがとてもうれしいですし、アルバムの曲をライブで届けられることもうれしいです。CDよりも、さらに衝撃を与えられる演奏をしたいです。
――10周年イヤーを終えて、すでに11年目に入っていますが、先々の展開についてイメージしていることはありますか?
宮崎:いや、ないですね。10周年でも思い知りましたけど、誰も10年やるとは思ってなかったんですよ。目の前にあることを全力でやることでしか、先に繋がらないなと感じたので、これから先も、その時にやれることをやっていくだけですね。
吉川:絶え間なく、少しずつでいいので、成長し続けたいです。個人としての成長がバンドにも還元されて、バンドがどんどん良くなっていくのが理想だと考えているので、まずは自分が成長することを目指して活動していきたいです。
松岡:2人が言ったことがすべてで、前に進む意識を持ってやっていきたいです。ずっと同じところにいるのではなく、着実に進んでいけたらと思っています。そのためには、みんなが健康で生きていけたらと思っています。
宮崎:そう、それがいちばん大事ですね。
取材・文=長谷川誠 撮影=渡邉一生