LAタイムズ記者「大谷よ、大人になれ」米国民、日本語会見に違和感…米広告代理店は「質疑なしなら英語でやるべき」大谷ブランドの崩壊危機
ロサンゼルス・ドジャース大谷翔平選手と元通訳水原一平氏を巡る問題について、日本の各メディアは連日この話題を取り上げている。「大谷選手に責任はない」という反応が日本には多いようだが、在米34年・在ロサンゼルス28年で、現地で広告代理店を経営している岩瀬昌美氏は「日本よりは大谷選手の責任に言及する声が大きい」と話す。また、大谷選手が日本語で会見したことについても疑問を投げかける。大谷選手のブランドイメージの崩壊に繋がりかねないのはなぜなのかーー。
野球賭博とMLBの微妙な関係
元専属通訳・水原一平氏の違法賭博問題を巡る大谷翔平氏の会見は、CNNを始め米国各局がニュースとして放送していました。そして会見は質問の時間はなしということで、それを疑問視する報道もありました。
会見前からこの事件をピート・ローズ事件に絡めて解説する米国メディアが多く見られました。ピート・ローズは現役時代、MLB最多試合出場記録・通算安打記録・200安打最多回数記録などを持つスーパーヒーローでした。ですが、現役引退後の監督在任中の野球賭博により、 1989年にMLBを永久追放となりました。アメリカはご存知のようにラスベガスなどの合法賭博場があり、カリフォルニア州でもアメリカ先住民の居留区では”ペチャンガ・リゾート・アンド・カジノ”などの賭博場があり、カジノそのものに対するネガティブなイメージは日本ほどはないでしょう。
そしてMLBの方針としても、スポーツ賭博を認めているのかというと答えはYESです。ただ、だったら野球賭博だったらなんでもいいかといえばそんなことはなく、一部地域に限られていたり、州によっては全体で違法だったりすることもあります。またその対象は野球のみならず、アメフトNFLからNCAA(全米大学体育協会)の試合まで幅広いです。一方で日米のスポーツビジネスにこれほどまでの差がつき、日本プロ野球NPBのトップ層がこぞってMLBを目指すという「NPBがMLBのファーム化している」背景の一つにスポーツ賭博の恩恵があります(一番大きな収益源は放映権ですが……)。
最悪のシナリオとして、メジャーリーグにとって深刻な問題になりうる
しかしMLB関係者の不法賭博に対する規律はとても厳しいものがあります。メジャーリーグ規則では、選手と球団職員が野球に賭けることは、合法的な賭けであっても禁止されており、違法なブックメーカーや海外のブックメーカーで賭けることも禁止されています。NBC系のニュースサイトによるとそしてその規則は全てのロッカールームに貼られているとのことです。
大谷選手を巡る報道は、日本では「一平さんはなんてことをしてくれたんだ!」という論調が強いように思えます。つまり、責任を全て水原氏に押し付けるような見方ですね。しかしアメリカの論調はもう少し複雑になっています。スポーツ賭博を専門とするWallach Legalの創設者であるダニエル・ウォラック氏は、「(最悪のシナリオとして)通訳を通して賭博を行い、賭け金を支払ったのであれば、それはメジャーリーグにとって深刻な問題になりうる」と語っています。
ドジャー・ブルーというドジャーズ情報を専門に取り扱うニュースサイトがあります。こちらには、たくさんのコメントが溢れているのですが、その抜粋は以下のようなものです。もちろん憶測も多く含まれるので、あくまでも現地のファンがどういう感情を頂いているのか、という観点から見てほしいのですが……。
米サイトでは「大谷がギャンブルをやっていて、一平はそのカバーをしているに違いない」という憶測コメントも
ー数億円というお金がなくなっているのになぜ気がつかないんだ?
ー銀行のトランスファーにはIDとパスワードがいるはずだからどうやってやるんだ。(私の経験として、銀行間で例えば25ドル(3700円)の小額送金でも、初めての送金相手にはスマホにワンタイムパスコードが送られてきて、それを入力しないといけません。また、いつも使っているIPアドレスでないと一旦弾かれることもあります)
ー大谷がギャンブルをやっていて、一平はそのカバーをしているに違いない。
ーMLBにとって大谷は大切なインベストメント(投資商品)なので守り切るだろう
と言った感じで、日本のように大谷選手に対する全面擁護といった感じではないです。SNSなどでも「有罪なら彼はやめるべき」「きっちり収束するまでプレーするべきでない」という辛辣なコメントもみられます。
そして地元紙「LAタイムズ」には、スポーツコラムニストのディラン・ヘルナンデス記者による痛烈な批判記事が掲載されていました。
LAタイムズ「大谷翔平はいい加減大人になれ」
Shohei Ohtani needs to grow up in the wake of Ippei Mizuhara revelation
意訳すると「大谷翔平はいい加減大人になれ」でしょうか。この見出しの前提としては、アメリカで大谷選手は「古き良き野球少年」というイメージがついていることを説明しなくてはいけません。大谷選手が過去の日本人選手とはケタ違いでアメリカで人気を呼んだ背景には、もちろん二刀流というベーブ・ルース以来の活躍を見せたこともあるのですが、全米の、とくにお母さま方から絶大な支持を得たことがあります。球場のゴミも拾うし、笑顔は爽やかだし、ハンサムだし、不調でもゴミ箱を蹴らないし「よくできたアメリカの息子」の象徴のように見られています。
だからこそ今までは野球少年が大好きな野球に全力集中しているということで、野球以外は他の人に任せていたというのが美談として語られていた節があります。が、6億円ものお金が無くなった事に気がつかないというのはアメリカ人の感覚でも「いくらんでもおかしい」のです。そもそもそれだけのお金があれば会計士を雇っていないのも変な話です。メディアの論調からも、SNSの反応などを見ていても、これまでの大谷選手のイメージが崩れつつあるように感じています。
もうすぐ30歳になるんだからそれらしく振る舞わなければいけない
通訳に球場にまで運転させ、日本食のお弁当も取りに行かせてと、実は彼は「オレ様」だったのではないか。これまでは球場でゴミを拾ったり、いつも謙虚だったり、とても礼儀正しい”青年”というイメージだったのが、ちょっとよくない方向に進んでいると、広告代理店の代表としては感じています。これまで大谷選手は「野球に集中したい」と彼を追いかけるメディアに対して真剣に向き合ってこなかったように思います。それで結果を出ている、問題が発生していない、そういう間はいいのですが、ある種「メディアを邪険に扱っている」ような態度だと、何かのきっかけで手のひら返しされますよね。
今回の件でも、なかなか本人からこの問題について説明がなかったことに、私はとても心配していました。このままでは本当に「大人になれないお子ちゃま」になってしまうのでは、と。もうすぐ30歳になるんだからそれらしく振る舞わなければいけない。アメリカは移民にも比較的オープンで、銃も所有できる自由な国ですが、それゆえ日本よりも大きい「自己責任」を国民らは背負っています。いくらスーパースターだといえ、何かに甘え切っている態度はそんなに印象はよくないです。そんな中で会見を開くということで、私はほっとしました。が……。
今回の会見はおそらく弁護士や球団が何かしらの形で発表文の作成に携わっているでしょう。質疑応答が無い、というのも正直甘えを覚えましたが、発表文を読み上げるだけなら、せめて通訳を使わず英語で、自分の意見を言うべきでしょう。アメリカ人は彼の声で聞きたかったのです。勿論質疑応答は通訳を使ってもいいと思いますが、自分の言葉でアメリカ人に話しかければ、「もっとアメリカ人に大谷選手のことが分かってもらえたのに」と残念でした。
アメリカンドリームに挑戦したものとしての責任・自覚の欠如
大谷選手はもうメジャー7年目です。これだけアメリカにいて、未だ自分の意見すら英語で言えないのでは、アメリカ社会では生きていけないのではと老婆心ながら思います。大谷選手は試合前、グラウンドでチームメートらと楽しそうに話しています。ある程度英語は話せるのでしょう。しかし「いつまで通訳に頼っているのか」という不快感がアメリカ人にはあると思います。
現地では大谷選手が日本語で話している様子をニュースの素材として取り扱っているメディアは少ないように感じます。あくまでも、事実として淡々と伝えられる感じです。もし、冒頭に「感謝の言葉」と「自分はやっていない」という主張だけでも英語で言えば、その部分がニュースに取り上げられ、SNSでも拡散したことでしょう。会見のトピックがトピックだから通訳つけるべきだ、という意見があるのは承知していますが、さすがにアメリカ社会に溶け込もうとしていないと現地の人に見られても仕方ありません。
日本には「郷に入っては郷に従え」ということわざがありますが、英語にも”When in Rome, do as the Romans do”という同じ意味のことわざがあります。彼はたしかに「二刀流などできっこない」という批判を跳ねのけ、高額の契約金を勝ち取りました。彼がアメリカンドリームをつかみ大金持ちになったことを批判する人はアメリカにはほとんどいません。しかし、移民国家であるアメリカだからこそ、そのアメリカンドリームに挑戦したものとしての責任・自覚が欠如しているように見えるのかもしれません。
さて、かつてMLBで活躍した野茂英雄氏やイチロー氏も通訳は使っていたと思いますが、彼ら通訳が水原氏ほど表に出た覚えはないです。これは日米のメディアにいえることですが、もう誰が通訳になるのかをニュースにするのはやめませんか? そして大谷選手はもうすぐ30歳です。アメリカに住む大人として野球(キャリア)も私生活も自分でマネージし、アメリカで持たれている「野球少年」というイメージだけでなく、全ての若い人の憧れの存在になってもらいたいです。