行動経済学者のダニエル・カーネマン氏やエイモス・トベルスキー氏はかつて、「後悔することへの恐れ」を人間の行動における主な動機の1つとして上げていました。科学系雑誌のMIT Press Readerが、サイコロを使ったゲームを例に挙げ、後悔への恐れが決断に及ぼす影響について解説しています。

How Fear of Regret Influences Our Decisions | The MIT Press Reader

https://thereader.mitpress.mit.edu/how-fear-of-regret-influences-our-decisions/



MIT Press Readerは例として、以下のようなゲームを挙げました。

・紅白のサイコロを1つずつと見た目が同じカップを2つ用意し、相手に見えないようにしながら各カップの下にサイコロを1つ置く

・カップを持ち上げずにシャッフルする

・相手に「正解すれば5ドル(約730円)得ることができるが、不正解の場合何も得ることができない」と前置きしつつ、「赤のサイコロが入っているカップはどれか」と選ばせる

・相手に向かって選んだカップを差し出しながら「本当にこのカップでいいですか?」などと尋ねる

エクセター大学の心理学者であるR.L.レイド氏の調査では、カップを変更するかどうか尋ねられた際、約90%の被験者が変更しなかったことが報告されています。



実際の正解の確率は50%にもかかわらず、多くの被験者がカップを切り替えなかった要因について、MIT Press Readerは、「エンダウメント効果」と「後悔することへの恐れ」という2つの理由を挙げています。

「エンダウメント効果」とは、一度アイテムの所有権を認識すると、所有していない同じアイテムよりも価値が高まると感じる効果で、今回のゲームでは、一度カップを選ぶとそのカップはもう一つのカップよりも価値が上がったと無意識に感じるようになります。さらに、実験者が相手の前にカップを差し出すことで、そのカップが被験者のパーソナルスペースに入り込み、エンダウメント効果が増幅するそうです。

また、人間には「もしもある選択をして、その選択が誤っていた場合、気分が悪くなる」という性質があり、今回のゲームでも、選んだカップを変更した後に「最初の決定が実は正しかった」ということがわかると気分が沈みがちになります。



これらの理由から、「カップを変更する」という選択肢が提示されても多くの被験者がその選択を取らなかった要因が示されました。

さらにMIT Press Readerは間違った決断をしたことによる気分の沈み方を調べる方法として「カップを変更するか尋ねる際に『変更せずに正解した場合は5ドルですが、変更して正しければ6ドル(約880円)差し上げます』」というオプションを追加することを推奨しています。

MIT Press Readerによると、カップを変更して正解した際の報酬が6ドルの場合、多くの被験者が選択を変えないとのこと。また、これまでの研究では、変更して正解した際の報酬を10ドル(約1470円)、15ドル(約2200円)と上げていく調査を行った結果、変更せずに正解した際の報酬の3倍に達すると被験者の50%が選択を変えることが示されています。さらに、報酬が10倍に達すると90%の被験者が選択を変えることが明らかとなりました。



作家のジェフリー・エンゲルシュタイン氏は自著「Achievement Relocked: Loss Aversion and Game Design」の中で「私が学校に通っていた時に受けたアドバイスは『選択式の問題に解答する際は、最初の直感を信じ、別の選択肢に変えてはいけません』というものでした。私は今になって、このアドバイスがあなたにとって正しい答えを得るためのより良い機会になるのではないかと思っています。私は、選択肢を変えた上で間違えるよりも、最初の選択肢を変えずに間違える方が良いと感じます」と述べました。