新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症には、「ブレインフォグ」と呼ばれる頭の中に霧やもやがかかったようになり、思考や集中力が鈍くなる症状が存在します。このブレインフォグの原因が、脳血管からの出血であることが判明しました。

Blood-brain barrier disruption and sustained systemic inflammation in individuals with long COVID-associated cognitive impairment | Nature Neuroscience

https://www.nature.com/articles/s41593-024-01576-9



Leaky Blood Vessels: Underlying Cause of Long COVID “Brain Fog” Discovered

https://scitechdaily.com/leaky-blood-vessels-underlying-cause-of-long-covid-brain-fog-discovered/

COVID-19に感染した大多数の人は数日で完全に回復しますが、感染から12週間以上にわたって疲労感、息切れ、記憶力や思考力の低下、関節・筋肉の痛みなどの症状が続く場合、ロングCOVIDであると考えられます。

COVID-19の発症率は国際的にみるとばらつきがあるものの、COVID-19を発症した患者の最大10%がロングCOVIDになると推定されているそうです。ロングCOVIDに罹患している患者の50%弱が認知機能の低下、疲労感、ブレインフォグなどの神経学的影響を報告しています。

2024年2月22日、ダブリン大学トリニティ・カレッジの科学者チームと、慢性疾患や希少疾患の治療・診断・モニタリングのための技術を開発する研究機関であるFutureNeuroの研究チームが、一部のロングCOVID患者でみられるブレインフォグと認知機能の低下に関する重要な発見を、科学誌のNatureで報告しました。



これによると、ロングCOVIDとブレインフォグに苦しむ患者の脳の血管には、健全性に障害があることが明らかになっています。研究チームは「ロングCOVIDに罹患しているブレインフォグや認知機能の低下が確認された患者」と「ロングCOVIDに罹患しているもののブレインフォグの症状はみられない患者」を比較し、脳血管からの出血の有無で客観的に2つのグループを判別することができたと報告しました。

研究に携わったのはトリニティ・カレッジのスマーフィット遺伝学研究所の科学者や神経学者たちで、新型コロナウイルスが人間の脳の繊細な血管網にどのような影響を与えるかを示す、新しいMRIスキャンを撮影しています。

スマーフィット遺伝学研究所の責任者であり、FutureNeuroの主任研究員でもあるマシュー・キャンベル教授は、「人間の脳血管からの出血が、過剰な免疫システムと連携して、長期にわたる新型コロナウイルスに関連するブレインフォグの主な原因である可能性があることを初めて示すことができました。これらの症状の根本的な原因を理解することで、将来的に患者に対する標的療法を開発することにつながります」と述べました。



なお、トリニティ・カレッジとFutureNeuroの研究は、2020年の新型コロナウイルスパンデミック中にアイルランド科学財団が資金提供した助成金を用いてスタートした研究です。同研究の被験者にはロングCOVIDに苦しむ患者や、セント・ジェームス病院に入院している患者などが含まれています。

同研究に携わったトリニティ・カレッジの医学部部長でありFutureNeuroの主任研究員でもあるコリン・ドハティ教授は、「国家的危機の最中、病院システムが深刻な圧力にさらされていたときにこの複雑な臨床研究を実施できたことは、研修医とスタッフのスキルおよびリソースの証です。この発見は、ウイルス感染後の神経学的状態をどのように理解し、治療するかという状況を変える可能性があります。また、ロングCOVIDの神経学的症状は、脳内の実際の実証可能な代謝変化と血管変化によって測定可能であることも確認されました」と語りました。