音の力で「認知症」に挑む!外出も自由…“管理しない介護”の実態:ガイアの夜明け

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2月23日(金・祝)に放送された「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、「生きる!認知症と共に」。
厚生労働省などの推計で、認知症の高齢者は、来年には約700万人、約5人に1人になるとされている。さらに65歳以上の高齢者層がピークになる2040年には、46.3%が認知症になる可能性を指摘されている。
ガイアは、治療が困難とされる認知症に、多様な角度から挑む施設や企業に密着。認知症を特別なものとして扱わず、向き合うためのヒントを探った。

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認知症を特別視しない! 一緒に暮らす先に見えるもの




岩手・花巻市。宮沢賢治のふるさとで知られるこの街に、常識破りの手法で認知症と向き合う介護施設「銀河の里」がある。
普通の施設では、手遊びやゲームなどのプログラムが用意されているが、ここで決められているのは薬と食事の時間ぐらい。囲碁やおしゃべり、寝ている人など、みんなが好き勝手に過ごしている。
入居者は外出も自由で、他の施設なら徘徊と呼ぶ行動も“旅”と称し、スタッフも一緒にとことん付き合う。


元住職だった93歳のおじいちゃんは、「施設で撮りためた写真を自分専用のアルバムに入れたい」と毎日のように訴えるが、スタッフは毎回、初めてのように対応。おじいちゃんにとって、その写真が特別なものと考えてのことだ。

「銀河の里」には、40床の特別養護老人ホームと、通いの人を受け入れるデイサービスがある。デイサービスの利用者は全て認知症だ。グループホームは2棟あり、9人ずつが入居している。平均年齢は86歳。日常生活に介助が必要な要介護3や、寝たきりに近い人もいる。

入居9年目の小原ユキさん(95)は、農家の主婦だった。13人の大家族で、若い頃からとにかく働いたという。


ユキさんは突然立ち上がり、「おしんこを用意しないと…」と言いながら台所へ。話を聞くと、「法事で親戚一同が集まるから、食事の準備をする」とのこと。スタッフは、ユキさんが語る世界に付き合う。


永井千晴さん(23)は、「銀河の里」に入社したばかりの新人スタッフ。大学で文学を専攻していた永井さんは、宮沢賢治を研究している時に「銀河の里」の存在を知り、心惹かれたという。
「障害があるとか病気になるのは、その人の力ではどうしようもない。それでできることが狭められる、会う人やチャンスが限られてしまう現実があるなと思って…。ここは認知症だからという枠組みがなく、“個人対個人”で関われる」。
「銀河の里」のスタッフは、認知症の人たちのそばに寄り添い、話に耳を傾け、その言葉の意味をかみしめて書き留める。永井さんはこうしたやり方に共感し、就職を希望した。


「銀河の里」をつくったのは、20代の頃、東京で介護の仕事に就き、管理するやり方に疑問を感じた理事長の宮澤健さん。
「認知症を扱っているとは思っていない。認知症の人たちが700万人も出てくることには何か意味がある。人間を失うなよ、人間としてちゃんと生きられるということを伝えてくれる存在に思える」と話す。

「銀河の里」は耕作放棄地を借りて米作りをしており、田植えや稲刈りなどには、参加希望の入居者も連れていく。農家に嫁いだユキさんは、「もっと近くで見たい」と、永井さんの手を引っ張った。


作業に参加した宮澤さんは、「暮らしの中に一緒にいる。仕事ではない。“見る、見られる”とか“世話をする、される”という関係から脱却したいし、できる」と断言する。
管理を否定し、入居者の赴くままの言動を受け入れながら一緒に暮らす…。宮澤さんは、このやり方を四半世紀にわたって続けてきた。


秋が深まる頃、永井さんは、3カ月前に入居した元金融マンの男性が気になり始めた。ここの生活になじめないのか、毎日逃げ出すことを考えているのだ。男性自身も、前に進めない自分をもどかしく感じているようだった。
他の利用者と関わりを持とうとせず、一人の世界をつくる男性に、永井さんは「(ここに)いてほしい」と辛抱強く話しかける。果たして男性は、永井さんに心を開いてくれるのか……。

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一方、思いもよらない方法で、認知症に挑む企業も。


市営団地に住む秋山雅代さん(78)は、4カ月前に軽度認知障害と診断された。秋山さんは、娘の千鶴さんが嫁ぎ、一人暮らしを始めて11年になる。千鶴さんは近所に住んでおり、2人はよく行き来しているが、「差し入れをしても、タッパーを捨てる時があった。母はきれい好きだが、部屋も散らかるようになった」と千鶴さん。秋山さんは症状を自覚するにつれ、ふさぎ込む日が多くなっていった。


そんな中、「シオノギヘルスケア」からスピーカー「kikippa(キキッパ)」(本体価:4万9500円)が発売された。コンセプトは「音で、認知症に挑め」で、微妙に音が震えて聞こえるのは、元の音に40ヘルツの音を掛け合わせているから。開発に携わった「ピクシーダストテクノロジーズ」長谷芳樹さんによると、この変調した音を聞くと脳内にガンマ波が発生し、記憶など、認知機能の改善が期待できるという。


千鶴さんからのプレゼントで「kikippa」を使い始めた秋山さん。千鶴さんは、「日常の記憶がもつようになった。些細な会話を覚えてくれている。以前は忘れていて不安そうにしていたが、笑うようになったし、以前のお母さんに戻った」と話す。

1878年創業。従業員数5680人、売上高約4267億円の「塩野義製薬」(本社:大阪市)。
1950年には鎮痛薬「セデス」を発売し、コロナ禍では、国産初の治療薬「ゾコーバ」を開発。政府がこれを緊急承認し、200万人分を買い上げた。
さらに、韓国や台湾で承認申請し、世界117カ国(低中所得国)に提供可能な態勢を整えた塩野義。150年近い歴史の中で地道に感染症の研究を続け、積極的に世界的な危機への対応を進めている。
その塩野義が、認知機能改善のため、なぜ薬ではなく家電だったのか。


会長兼社長 CEOの手代木功さんは、「医薬品には特許がある。特許が切れると、ジェネリック(後発医薬品)が出てくる」と話す。新薬と同じ有効成分で、価格の安いジェネリック医薬品が登場すると、オリジナルの売り上げは急落するのが実情だ。
「頑張って研究・開発して販売に至っても、それほど長い間、独占権がない。製薬会社に関していえば、今までの自分の得意領域にこだわっているとジリ貧になっていく。どんどん新しいことを始めていかないと」と手代木さん。「kikippa」の取り組みも、新規開拓の一つだという。


この取り組みを託されたのが、新規事業推進部の柳川達也さん(40)。だがそこには、理想だけでは済まされない、厳しい現実が待ち受けていた。「kikippa」は、発売から約3カ月で、売れたのは100台あまり。年間の目標を大きく下回っていた。

「追い込まれてはいるが、やるしかない」。

去年12月。柳川さんはオフィスビルの一角で、ある検証に立ち会っていた。「kikippa」の40ヘルツ周期の音で、認知機能をどれだけ向上させられるのか…そのエビデンスを取得するための検証だ。それにしてもなぜ、発売前にしっかりとしたエビデンスを取らなかったのか。

柳川さんは「顧客に届ける前に多くのエビデンスを取得するのが望ましいが、認知症の疾患に対する研究開発は、10〜20年を要する。困っている顧客に一刻も早く届けたかった。“安全性”と“脳波の発生”という最低限のエビデンスを取得して、発表に踏み切った」と語る。


今回の検証の参加者は、一般公募した55〜74歳までの男女38人。実験の一つは、言葉を記憶するテストで、「豆腐、ハンガー」など、関連のない2つの単語を合わせて10組読み上げ、その組み合わせを記憶しているかどうかを判定する。40ヘルツ周期の音を45分間聞き、音を聞く前後で、認知機能の変化を見るのだ。
こうした検証を3カ月にわたって行う中、柳川さんは、「kikippa」を共同開発する「ピクシーダストテクノロジーズ」のラボを訪れ、音の改善に取りかかっていた。

そして迎えた2月6日。認知機能に関する検証の解析結果が出た。果たして、有意性は認められたのか……。

番組ではこの他、「エーザイ」とアメリカの「バイオジェン」が共同開発した新薬「レカネマブ」についても紹介する。

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