鉄道の新しいあり方として注目されているLRTですが、発展形としてバス車両を用いた「BRT」も各地で導入されています。さらに名古屋では新たなシステム「SRT」が検討中。他の交通システムの違いは何なのでしょうか。

路面電車「LRT」の対抗馬は「BRT」さらに「SRT」も!?

 2023年8月に国内初の新設LRTとして開業した宇都宮ライトレール(ライトライン)が予想以上に好発進したことで、地方都市の次世代交通機関としてLRTが注目されていますが、対抗馬のひとつにあげられるのがBRT(Bus Rapid Transit)です。さらに近年では、「SRT」という新たな交通システムも検討されています。


名古屋市内で検討中の新たな交通システム「SRT」のイメージ(画像:名古屋市)。

 BRTの定義は様々ですが「Rapid」つまり速達性を確保したバスであることが、唯一にして最大の要件であると言えるでしょう。日本では「連節バス導入路線」をBRTと称することが多いですが、これは輸送力の確保が目的で速達性には関係しないため、本来の定義とは異なります。

 速達性の実現には、具体的にはバス専用道、バス専用または優先レーンの設置や、急行運転、PTPS(公共車両優先システム)のほか、信用乗車制など迅速な運賃収受の導入などが挙げられます。

 国内で間違いなくBRTと言えるのは、JR東日本の気仙沼・大船渡線BRTやJR九州の日田彦山線BRT(ひこぼしライン)、茨城交通の「ひたちBRT」など「線路敷をバス専用道に転換した」路線でしょう。また名古屋の「基幹バス」1号・2号など、ほとんどの区間でバス専用・優先レーンを走る路線もBRTと言えます。

 さらに、JR西日本が開発中の「自動運転・隊列走行BRT」も、実用化にあたってはバス専用・優先レーンの導入を前提としているため、名実ともにBRTを目指した試みです。

 そんな中、名古屋市はリニア中央新幹線の開業を見据えて、新たな路面公共交通システムこと「SRT」の導入を検討しています。これは一体どんな交通なのでしょうか。

名古屋市で検討中「SRT」って一体何だ?

 SRTとは「Smart Roadway Transit」の略で、「技術の先進性による快適な乗り心地やスムーズな乗降、洗練されたデザインなどのスマートさ」を備えた路面交通を意味します。Rは「Roadway」であって「Rapid」ではないので、BRTとはまた異質の交通機関です。

 2023年9月に斬新な内外装の連節バスを含む「デザイン方針」が公表され、話題になりましたが、これだけでは「洗練されたデザインの快適車両を用いた路線バス」に過ぎないのではないかとも思えます。しかし、名古屋市の検討内容を見てくとLRT、BRTともつながる「興味深い問題意識」が浮き彫りになってきます。


2023年開業の宇都宮LRT(画像:写真AC)。

 SRT構想は2011(平成23)年に策定された「なごや新交通戦略推進プラン」を出発点として、2014(平成26)年策定の「なごや交通まちづくりプラン」で本格的な検討が始まりました。現在も社会実験と並行して「トータルデザイン懇談会」で議論が進んでいますが、2017(平成29)年に取りまとめられた「新たな路面公共交通システムの導入に係る基本的な考え方」をもとにSRT構想を詳しく見ていきましょう。

 名古屋市は全域に地下鉄や路線バスが整備されていますが、「名駅(名古屋駅)」周辺に人が集中しがちで、駅を取り囲む「名城」「栄」「大須」エリアの回遊性が不足しています。

 そこで市は、「国内外から初めて来た人や、普段は都心にあまり来ない人が迷うことなく利用できる『わかりやすさ』」「車椅子使用者や荷物を持った人、子育て世代など誰もが気兼ねなく利用できる『使いやすさ』」「まちの風景や賑わいを感じながらゆっくりと移動できる『楽しさ』」を兼ね備えた新たな路面交通が必要と考えました。

「SRT」が大切にしている「わかりやすさ」とは?

 SRTの成否を決めるのは、まちを訪れる人が存在を認識できるよう、人をひきつけ、乗りたくなるようなシンボリックなデザインの車両や、まちなかで見つけやすいデザインの停留所など視認性・シンボル性を高めることなど、とにかく「わかりやすさ」です。

 わかりやすさは見た目だけでは獲得できません。名古屋市は「鉄道と同等の路線」として認知されるよう、概ね10分以内の高頻度運転や夜間運行を想定し、「まちをつなぐ横のエレベーター」を目指すとしています。

 先ほど「R」はRapidではないと書きましたが、報告書によればSRTは定時性を確保するため「専用・優先レーン設置」や「PTPS導入」、信用乗車制導入による「全扉乗降」を目指すとあり、機能上はBRTと同等です。

 ただSRTの運行が想定されている「名城」「大須」「栄」は名古屋駅から半径3km程度の狭いエリアであり、停留所は観光利用を想定して500m間隔を想定しているため、速達性は特に重要な要素ではありません。そのため一般的なBRTが「車線中央側に設置された専用・優先レーン」を走行するのに対して、SRTは沿道との連携するため歩道側を走る「サイドリザベーション方式」を採用します。

 公道上を走るバスに対し、軌道系交通は自ら線路を整備しなければならないため事業費が嵩みます。鉄道は固定された線路を走るため「路線」として地図に記載されますが、バス路線が地図に記載されないのは、ルート変更や路線廃止が容易にできる自由さの反面でもあるでしょう。

 LRTに期待が集まるのは「路線」として可視化されるからという点が大きいはずです。鉄道の廃止・バス転換では反対に、地図から路線が消え、「まちのシンボル」を失うことへの不安の声があがります。両者は表裏一体の関係にあります。

 しかし、BRTなど鉄道とバスの利点を兼ね備えた交通機関が登場する中、レールを走るか走らないかで線引きする必要は薄れています。一定の地上設備を有するBRTは「鉄道と同等のスタイルで地図上に記載」するなど、発想の転換も必要です。

 バス路線が「わかりやすさ」を獲得するためには何が必要なのか。SRTの挑戦は、BRTの未来をも変え得る可能性があるのかもしれません。