「弱い日本」を悲観する人は、世界を知らなすぎる
日本はGDPで世界4位。それでも未来を悲観視する声は高まる一方だ(撮影:今井康一)
人口減少数で世界ランキング1位の日本。どれだけ少子化対策を叫んでも、まったく効果がなく、少子高齢化に歯止めがかかりません。日本政府の借金は大変な状況で、子供たち、孫たちの時代を心配する声があちこちから聞こえてきます。
円安の影響もありますが、欧米どころか、日本より物価が安いと思っていた東南アジアに行っても、都市部の物価は日本と同じか、場所や店によっては日本よりも高くなっています。「もはや日本は先進国じゃない」と悲観視する人もいます。
そして日本には英語を話せない人が多く、内向き傾向も指摘され、世界から置いてきぼりになるのではといった危惧もあります。たとえば電子マネー。海外から戻ってきた人が「日本は相変わらず現金社会。海外ではもうほとんどキャッシュレスだから・・・・・・」なんて言ったりもします。
「とにかく、日本はもうダメ!」の大合唱を聞いているようです。
日本は人類の目的を達成してしまった?
でも、私の見方は少し違います。私はバブル崩壊直後に社会人になり、失われた30年を経験しているので「ダメ」という見方もわかります。しかし仕事で日本と海外を行き来してきた感覚で思うのは、日本はダメなのではなく、すでに「発展」というレースを圧倒的1位でゴールテープを切ってしまった国なのではないかと思うのです。
ゴールしたからレースには参加していない。他国と比較される土俵には乗っていないから、比較してダメと言うのはやめてほしいのです。
私たちの先祖であるホモ・サピエンスが、東アフリカに誕生してから約20万年。人類の目的は「生存」だったと言って間違いではないでしょう。食料を確保し、猛獣たちから身を守り、自然災害や気候変動などにも対応し、そして伝染病などの病気とも戦ってきた歴史でした。
やがて知恵のあった人類は火を起こし、道具を作り、集団で生活し、食糧も自分たちで作るようになり、やがて文明が起こり、徐々にその目的を勝ち取っていきました。
それなのに戦争がなくなった時代はありません。危険な国・地域は存在し、これもまた戦争や紛争などの影響が強いですが、食糧供給が混乱し、栄養不良や飢えに苦しんでいる人たちもたくさんいます。
日本はダメどころか最高な国
翻って、日本はどうでしょうか?
いつも何かしら犯罪のニュースは流れてくるので100%安全ではないながらも、世界のさまざまな国を見た時、日本ほど治安が良い国はないと言っても過言ではありません。インフラの整い方も世界有数でしょう。
また、選ばなければ仕事もあります。食事だって安いものから高いものまで選択肢が多く、世界中のさまざまな料理が食べられる。こうした状況は今に始まったわけではなく、ずいぶん前からありました。
世界にはまだまだ生存が厳しい国や地域がある中で、日本はそれを圧倒的1位でかなえてしまった国という見方はできないでしょうか? ダメどころか最高な国です。
別に私は日本礼賛をしたくて、この原稿を書いているわけではありません。そんな最高な国に生きていると「もっと、こうなりたい!」という欲望や必然は少なくなってきますよね? ということが言いたいのです。そうなると発展は止まってしまいます。
今、世界の音楽シーンでプレゼンスを発揮しているK-POP。韓国映画や韓国ドラマなども含めた韓流ブームはいまだに続いています。韓国の文化は世界的に多大な影響力を与えています。
「それに比べて、日本は・・・・・・」なんて思わないでください。
韓流ブームのきっかけの一つは、1997年のアジア通貨危機に端を発するIMF危機です。あの時、韓国では多くの企業が倒産し、国家的な経済危機が起こりました。韓国は国内に市場(マーケット)がなくなってしまった。その時、韓国経済を再建するために立てられた国家戦略の一つの柱が「文化産業・事業の振興」だったのです。
マーケットが縮小した自国ではなく、いきなり最初から世界を目指す戦略が、今の世界的なプレゼンスにつながっています。ダメになったからこそ、飛躍したのです。
GDPで世界4位はダメですか?
一方、日本はダメなのでしょうか? 弱いのでしょうか?
先日、名目GDPランキングがドイツに抜かれたというニュースがありましたが、それでもアメリカ、中国、ドイツに次いで、世界の4位です。世界約200カ国の4位って、どう考えてもトップランカーです。4位のどこがダメなのでしょうか? マーケットもあって、治安も良くて、何も文句はありません。
でも人類の目的を達成してしまったら、ハングリーになる必要がなくなります。個としては弱くなり、結果的に組織も国もどんどん弱くなってきます。「ダメになったからこそ、すごくなった」の逆で、「ダメじゃないからこそダメになってしまう」の連鎖です。
私は法人向けのグローバル人材育成の事業を営んでいますが、企業がマーケットを求めて世界に飛び出したいのに、社員がグローバル事業に手を挙げないという声をよく聞きます。だから企業の海外売上比率は高いのに、グローバル事業を担う社員の比率がかなり低いというのです。
その企業にとっては由々しき問題なのですが、社員からしてみたら日本を離れたくないという気持ちもわかります。だって今のところ、海外に出なくても十分生きていけるのですから。
私の会社ではグローバルマインドセットを鍛えるために、「アウェイな環境での殻破り」と呼ばれる研修を提供しています。いわゆる越境学習で、コンフォートゾーンを飛び出す体験をさせるのですが、参加前の受講生たちからは「正直、不安しかありません」という声もあがってきます。
しかし1週間の研修を終えた後、受講生たちからは「チャレンジは楽しい」「やればできる!」という感想ばかりが聞こえてきます。この10年間でアジアの新興国を舞台に、グローバルマインドセットを鍛える研修を1500人以上に提供してきました。そこで私が実際に見て実感したことは、アウェイな環境でこそ人は成長するということです。
日本に未来はあるのか?
今の日本はいい国、つまり完全なるホームです。しかし少しずつダメになっているとしたら、いずれは「やるしかない!」という必然の場(=アウェイな環境)が訪れることになるでしょう。その時はIMF危機後から飛躍を遂げた韓国が、ロールモデルになるのかもしれません。
そういう意味で、私は日本に未来を感じています。
ただ、その前に危機が訪れるはずです。それを甘んじて受け入れたくない個人や企業は、チャレンジするしかない。「日本はダメになった」とグチるなら、今からチャレンジすればいいのです。人を行動に駆り立てるものは「必然」か「欲望」です。年齢も性別も関係ありません。
必然が起こるまで待つ必要もありません。ガンガン行動に移したいならば、欲望のままに行動に移すべきです。
(豊田 圭一 : 株式会社スパイスアップ・ジャパン代表取締役)