鳥取、赤字ローカル線にも「成長余地」はあるのか
鳥取駅北口。鳥取市は同駅周辺を中心拠点に「コンパクトシティ」を目指す(筆者撮影)
2022年4月のJR西日本による「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」と題した公表は、ローカル線の厳しい状況を事業者自らが露わにしたという点で衝撃的だった。
それまでもJRか否かを問わず、ローカル線の運営が厳しいことは伝わってきたが、このときは輸送密度(1km当たりの1日平均利用者数)が2000人未満の線区という具体的な数字を出したうえで収支率などを開示しており、より現実味が増していた。
鳥取県のローカル線の現状
JR西日本はその後も、輸送密度2000人未満の線区別経営状況に関して情報開示を行った。これに対応するようにJR東日本でも、利用の少ない線区の経営情報を開示した。
一連の動きを受けて国土交通省では「地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言」を公表し、国としての指針を示した。ローカル鉄道については、新たに国が主体的に関与する協議会の設置が適当とした。
これを受けてJR西日本では、2022年度の輸送密度が100人を下回る芸備線の備中神代―備後庄原間について、再構築協議会の設置を国土交通大臣に要請するなどの動きが始まった。
一方JR東日本でも、首都圏にありながら同年度の輸送密度が100人に満たない久留里線久留里―上総亀山間について、沿線自治体に対して総合的な交通体系に関する議論を行いたい旨の申し入れを行った。
JR西日本および東日本が公表した輸送密度2000人以下の線区の中には、筆者が訪ねたところもいくつかある。昨秋にも鳥取市を訪れる機会があったので、鳥取駅周辺のJR西日本の路線をチェックしてきた。
鳥取駅は山陰本線が東西に貫き、因美線が岡山県の東津山駅と同駅を結んでいる。このうち輸送密度2000人以下となっているのは山陰本線の鳥取駅より東側、兵庫県の浜坂駅までの区間で、2022年度は768人だ。残る山陰本線の西側、具体的には鳥取県内の鳥取―米子間、因美線智頭―鳥取間はともに2000人を上回っている。
鳥取駅に接続する3線区の中で、山陰本線の東側だけが少ないのは、地域間を結ぶ特急列車が少ないことが大きい。
智頭急行経由で鳥取と関西方面を結ぶ特急「スーパーはくと」(筆者撮影)
鳥取市と関西を結ぶ特急列車は、昔は山陰本線経由だった。しかし現在は、兵庫県の山陽本線上郡駅と因美線智頭駅を結ぶ第3セクター智頭急行経由の「スーパーはくと」が主役で、1日6往復走っている。さらに因美線・智頭急行には岡山へ向かう「スーパーいなば」も6往復ある。一方で鳥取駅から東へ向かう山陰本線の特急は、播但線経由の「はまかぜ」3往復のうち1往復にすぎない。
鳥取駅には特急が次々と発着
鳥取駅から西へも、山陰地方の主要都市を結ぶ特急「スーパーまつかぜ」が7往復、「スーパーおき」2往復が運転されているうえに、スーパーはくとの5往復は倉吉駅まで行くので、本数で言えば因美線を上回る。
よって鳥取駅のホームにいると、次々に特急が発着するシーンを見ることになる。しかも相応に利用者がいる。彼らが鉄道を選ぶ理由はスピードが大きいだろう。
大阪―鳥取間の所要時間は約2時間30分で、高速バスより30分ほど速く、飛行機は撤退してしまったし、鳥取―米子間は約1時間で、高速バスはなく、マイカー移動ではおよそ30分余計にかかるからだ。
智頭急行の最高速度は山陽本線と同じ時速130kmであり、山陰本線鳥取―米子間、因美線智頭―鳥取間も高速化事業の結果、前者は時速120km、後者は津ノ井ー鳥取間で110km走行が可能だ。
鉄道事業者と自治体などの共同出資によるこうした高速化は、他の地域でも都市間輸送でのバスやマイカーへの対抗策として有効ではないかと思った。
山陰本線を走る特急「はまかぜ」(筆者撮影)
では本線を名乗りながら輸送密度1000人以下の鳥取駅より東側はどうなっているのか。平日日中の浜坂行き普通列車に乗った。キハ47形2両編成の列車は、各車両に10人ぐらいずつ乗っていた。予想以上に多いというのが正直な印象だ。客層も若者から高齢者までさまざまだった。
山陰本線の普通列車(筆者撮影)
隣の福部駅までは11.2kmと、山陰本線で最長の駅間距離となる。途中に峠があり、滝山信号場が設けられている。山間部はさすがに家が少ないが、福部駅周辺は、平成の大合併以前は福部村の中心地だったので、駅の近くに地域支所や公民館があり、住宅も立ち並んでいた。
【2024年1月4日15時35分追記】信号場の名称に誤りがありましたので上記の通り修正しました。
とはいえ2023年9月現在で、福部村だった地域の人口は3000人未満。しかも総合支所前から鳥取砂丘や中央病院、県庁を経由して鳥取駅に向かうバスが1時間に1〜2本あり、こちらが公共交通の主役になっているようだった。
鳥取の1駅隣の現状は…
対する福部駅は数人が過ごせる小さな駅舎があるだけで、駅前には丸型ポストや公衆電話がある。とても鳥取駅の隣とは思えない。
山陰本線の福部駅(筆者撮影)
ここが鳥取市の最東端で、岩美町を抜けて県境を越え、浜坂駅に至る。両端の駅を除くと岩美駅が、町の中心ということもあり利用者があった。折り返しも同様だが、終点の鳥取駅では、乗客数は行きの列車を上回るほどになっていた。
鳥取駅北口には飲食店やバスターミナルのほか、地方都市からの撤退が続く百貨店も健在。南口は新たに開発されたところで、かつては県庁同様、駅の北東2kmほどの鳥取城址近くにあった市役所が2019年に移転し、都道府県で最後の出店として話題になったスターバックスコーヒーもある。
鳥取駅南口のスターバックス(筆者撮影)
鳥取市も郊外型ショッピングセンターの出店はあり、駅の北西側約5kmのエリアには、イオンモールなどが出店しているものの、2017年には「多極ネットワーク型コンパクトシティ」を掲げている。たしかに駅前の整備からはその方針が伝わってくる。
しかしながら中心市街地の活性化のためには、鳥取駅周辺に人を集める公共交通ネットワークの形成が重要になるはずだ。鉄道については、スピード、アクセス、サービスの3点が大切だと思っている。高速化については、鳥取駅の西側と南側については済んでいるので、あとの2点について要望しておきたい。
新駅設置の価値はある
アクセスでは新駅の検討を提案する。鳥取駅の西隣の湖山駅の次に鳥取大学前駅が1995年に開設されているが、因美線沿線にもポテンシャルを持つ場所がある。鳥取駅の南南東6kmほどのところにある若葉台という地区だ。
鳥取市南部の若葉台地区(筆者撮影)
ここには1989年にまちびらきした「鳥取新都市」というニュータウンが広がっており、国土交通省の都市景観大賞「都市景観100選」に選定されている。街並みは上質で、商店のほか企業や大学もあるなど充実している。
ところが若葉台の脇を因美線が走っているのに駅はない。以前設置の動きがあったものの立ち消えになったというが、現在は路線バスと大学のスクールバスが合わせて1日約30往復走っているので、新駅設置の価値はあるはずだ。
鉄道が果たす役目は大きい
JR西日本では、高山本線の婦中鵜坂駅が、やはり周辺に住宅地が広がっており企業もあることから、富山市が新駅設置と増発の社会実験を行い、利用者が増えたことから駅が常設になったという実例がある。
山陰本線の普通列車(筆者撮影)
サービスではハード・ソフト両面での快適装備に気を配ってもらいたい。JRの在来線は高速バスと時間や運賃で競合している地域がいくつかあるが、バスは座席のリクライニングが可能でWi-Fiがついているなど、この面で上を行くことが多い。
鳥取市周辺の高速道路や自動車専用道路はすべて片側1車線の対面通行なので、速達性では鉄道が有利だが、今後道路整備が進むことも考えられるので、快適装備は大事だと考えている。
少し前まで赤字ローカル線の代替手段だったバスは、いまや運転士不足で対応が難しいし、運転免許を返納した高齢者にとって大切な着座定員において、鉄道はバスを大きく上回る。社会において鉄道が果たす役目はまだまだ大きい。だからこそ今あるレールを有効活用してほしいと思っている。
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(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)