山手線渋谷駅「最後の線路切り換え工事」の狙い
5回目の渋谷駅線路切り換え工事前日、ホームに到着する山手線の電車=2023年11月17日(記者撮影)
2018年5月の埼京線線路切り換え以来、電車の運休を伴う大規模な工事が続いてきたJR渋谷駅。2020年6月にはそれまで遠く離れていた埼京線ホームが山手線と並ぶ位置に移動、2023年1月には内回り・外回りが別々だった山手線ホームが1つになり、この数年で駅の姿は様変わりした。
JR東日本は11月18・19日、山手線の運休を伴う5回目の線路の切り換えを実施。駅の線路下を通る東西自由通路の整備のため、山手線の線路とホームを高くするのが目的で、渋谷駅の線路切り換え工事はこれがラストだ。駅のおおよその形はこれで固まり、今後は駅舎やビルなどの開発に焦点が移る。
5回目「ラスト」の線路切り換え
渋谷駅の線路切り換え工事は2018年にスタート。5つのステップに分かれており、2018年5月の1回目では埼京線の線路を東側に移設して新たなホームの設置場所を確保し、2020年5月の2回目で同線ホームを山手線と並ぶ位置に移設した。
2021年10月の3回目では山手線内回りの線路を移動して同線のホームを広げ、2023年1月の4回目では外回りの線路を移設、内回り・外回りのホームを1つに統合した。
5回目の線路切り換えは、山手線の線路を旧大山街道をまたぐ架道橋付近から恵比寿寄りのホームの先まで内回り334m、外回り346mにわたってかさ上げする工事だ。埼京線の線路とホームは2回目までの工事ですでに高さを変えており、山手線もこれに合わせる形となる。
線路切り換え工事前の山手線ホーム。埼京線・湘南新宿ラインの電車(奥)と比べるとやや位置が低い=2023年11月17日(記者撮影)
工事に伴い、山手線は18日に外回り、19日に内回りの大崎―渋谷―新宿―池袋間の運転を終日ストップ。運休本数は2日間で計520本だ。工事のタイミングを11月中旬の週末とした理由について、JR東日本は4回目の工事以降進めてきた線路切り換えの準備が整ったことや、「お客様のご利用の多い平日を避けて土日の施工とし、大きなイベントを避けることも考慮した」と説明する。
線路とホームを上げる高さは最大で20cm程度だが、これによって駅の東西を結ぶ自由通路の整備が本格化する。通路はハチ公改札付近と駅中央付近に2本整備され、幅はどちらも20m以上となる予定。線路とホームのかさ上げによって、高さを2.6m以上確保できるようになる。
ハチ公改札の通路。かさ上げ工事を経て将来は幅20m以上、高さ2.6m以上の通路が整備される=2023年11月17日(記者撮影)
桁に載った線路をジャッキアップ
線路をかさ上げする方法は場所によって異なる。JR東日本によると、ホームのある部分の約230mは、事前に「工事桁」と呼ばれる桁に載った状態にしてあるため、いったんレールを取り外して桁をジャッキアップ。かさ上げ用の部材を桁の下に設置した後、レールを再度設置するという方法だ。それ以外の部分の線路は砕石(バラスト)を敷いた軌道のため、線路をジャッキで持ち上げたうえでバラストを補充し、高さを変える。
線路かさ上げの量は、新宿寄りが最大13cm、恵比寿寄りが最大22cmだ。
「工事桁」に載った部分の線路。桁をジャッキアップして線路をかさ上げする。オレンジ色の箱型の機械はジャッキを操作する装置だ=2023年11月17日(記者撮影)
かさ上げ用のバラストは袋詰めして線路わきに積み、工事に備えていた=2023年11月17日(記者撮影)
また、ホームは床面が仮設の木製合板となっているため、いったん合板をはがしたうえで下に角材などを設置。かさ上げの面積は2030平方メートルに及び、高さは最大で20cm上がる。この工事と同時に、ホームの恵比寿寄り約25mの範囲は使用停止となり、電車の停止位置が若干新宿寄りに移動する。
かさ上げと同時に、山手線ホームの恵比寿寄り約25mは使用停止に=2023年11月17日(記者撮影)
線路やホームの高さが変わると局所的な勾配が生じそうにも思えるが、そのようなことはないという。JR東日本によると、渋谷駅の線路は工事前の状態でも新宿方面に向かって約5パーミル(1000m進むごとに5m上る)の勾配がある。一部を20cm持ち上げるのではなく、従来と同程度の勾配を維持したままで線路とホームをかさ上げするといい、山手線に乗っていても工事前と後で違いに気づくことはなさそうだ。
切り換え工事前の山手線の線路(左)。埼京線の線路(右)と比べるとやや低い位置にある=2023年11月17日(記者撮影)
JR東日本によると、作業には全体で約4600人、一度に最大約800人が従事し、機材は「軌陸車」と呼ばれる線路上を走れる重機や架線作業用の車両など十数台のほか、バラストを運搬・散布するための保守用車1編成も使用。工事時間は17日の終電から20日の始発まで約52時間に及ぶ。
工事前、壁面に張られたかさ上げの位置を示す印。灰色の部分がホーム床面だ=2023年11月17日(記者撮影)
ホームかさ上げ工事前、中央改札への階段付近にあった段差=2023年11月17日(記者撮影)
仮設から「本設化」へ整備推進
渋谷駅周辺の再開発は2027年度の完成を目指しており、5回目となる今回の「最後の線路切り換え」により、JR渋谷駅の構造的な骨格はおおむね固まった。今後は完成形に向けた整備が進む。
JR東日本によると、現在は仮設となっているホームは「本設化」工事としてホームドアの整備やタイルの設置などを進める。コンコースについては、東西自由通路を含めた駅舎全体の工事を実施。さらに駅には高層ビル「渋谷スクランブルスクエア」の中央棟・西棟が建ち、渋谷駅は大きく様相を変えることになる。
2021年10月、3回目の線路切り換え時の様子(記者撮影)
「100年に1度」といわれる渋谷再開発の象徴の1つでもあった、東京の大動脈・山手線をストップしての線路切り換え。電車の運休を伴う大規模な線路切り換え工事の終わりは、いよいよ完成目標の年が近づいてきた再開発の1つの節目といえるだろう。
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(小佐野 景寿 : 東洋経済 記者)