ドラマ『東京貧困女子。』で主演を務めた趣里さん。演じて感じたこととはーー((撮影:梅谷秀司)

「誰でも隣り合わせにあることかもしれないですね」と語るのは、ドラマ『東京貧困女子。』(11/17(金)午後11時よりWOWOWにて放送・配信スタート)で主演を務めた趣里さん。女性の労働環境や差別、実は自分が貧困と紙一重だったと気付く主人公を演じて、何を思ったのか。

「自分は何も知らなかったんだと思った」

――初めて『東京貧困女子。』のドラマの台本を読んだとき、どんなことを思いましたか?

趣里さん:これは、向き合うのは大変そうだなと、正直思いました。わかったフリも知ったかぶりもダメですし、視聴者にしっかり届けるためにはどうしたらいいか悩みましたね。原作となった『東京貧困女子。』(中村淳彦)の本も読みましたが、貧困問題があることはわかっていましたが、自分は何も知らなかったんだと改めて思いました。


(C)『東京貧困女子。』(WOWOW)

――趣里さんが演じた雁矢摩子さんは、出版社で経済誌の契約編集者として働くシングルマザーです。「女性の貧困」がテーマの連載を担当することになり、フリーランスの風俗ライターである粼田祐二(三浦貴大)とともに活動します。その過程でさまざまな発見をしていくわけですが、彼女を演じてみていかがでしたか?

趣里さん:摩子と一緒に貧困問題を知っていくような感覚がありました。摩子は、頑固で真っ直ぐで頑張り屋でもあるキャラクターです。彼女は貧困問題の取材を重ねていくなかで、実は自分自身もシングルマザーで生活に余裕がなく、貧困と紙一重に置かれている立場であることに気付いていきます。

摩子を演じるうえで、自分が初めて台本を読んだときの衝撃や驚き、リアルな感覚を大事にしながら、摩子に反映させていこうと思いました。


――貧困問題の取材対象者の一人に、広田優花さんという医学部の学生が登場します。広田さんは実家が貧しく教育への理解もないため、勉強をしながらパパ活のアルバイトもしています。摩子は広田さんの話を聞いてどんなことを感じたと思いますか?

趣里さん:「まさかこの子が?!」って。ただ、どんな人でもそうかと思いますが、その人が抱えている問題って傍からはわからないですよね。摩子は、広田さんの話を聞いて驚きもしつつ、ほっておけないような気持ちにもなったと思います。ただ、摩子が良かれと思って広田さんにしたことで彼女を傷つけてしまったりと、結局空回りしてしまうんですけど……。

――広田さんは、奨学金に頼りながら勉強に励み、さらにテニス部に入部したが、生活のためのアルバイトや勉強時間に追われ、部活の活動費としての月3万が足りずパパ活をする――という話がありましたが、その部分を記事として載せると大炎上しました。摩子はどんな感情だったと思いますか。

趣里さん:摩子も、パパ活をするくらいならテニス部を辞めればいいのでは?と、はじめは感じていたと思います。摩子自身、シングルマザーとして日々奮闘しながらプライベートは我慢を強いられているでしょうし、テニス部の話を載せることで、貧困のリアリティが薄まることも懸念していました。

ライターの粼田さんにその部分をカットするよう申し出ましたが、粼田さんはある理由でそれを拒否。でも難しいですよね……。事実を掲載することによって、読者から怒りを買う可能性もありますし、取材に応じてくれた広田さんへの影響を考えるとどうなのか、当然迷う部分だと思います。


(C)『東京貧困女子。』(WOWOW)


(撮影:梅谷秀司)

「人ではなく、モノですから」に衝撃

――また、同じく取材対象者の村上葵さんについて。村上さんは元夫がうつで離婚。高校3年生の息子は大学受験を控えています。村上さんは、自分が低学歴で苦しんだため、息子には大学に行ってほしいと強く願い、学費と生活費のために風俗で働いています。村上さんの話を聞いてどう思いましたか?

趣里さん:もう、言葉も出ないですよね。でも、村上さんのお話も誰にでも起こることかもしれないですし……。村上さんから、子どものために生きていくことにした女性の強さのようなものも感じましたが、一方で自分のことを「人ではなく、モノですから」と語っていたのは悲しかったですね。そうした場面に直面したら言葉も出ないですけれど、どうしたらいいんだろう……、すぐには答えが出ないです。

――ドラマが展開するにつれて、摩子の粼田に対する見方も変わっていきましたね。

趣里さん:ドラマの序盤では、粼田さんの言動や態度、原稿に対して怒りをあらわにする場面もありました。でも、粼田さんは摩子が知らない貧困の世界を知っていたり、摩子の家庭の問題に対しても客観的な意見をくれたりと、徐々にお互いを認めながら2人の関係性も変わっていったんだと思います。


ドラマ『東京貧困女子。』(11/17(金)午後11時よりWOWOWにて放送・配信スタート)

まずは知ることから始めていく

――改めて、ドラマの撮影前と撮影後で、摩子を演じてみて趣里さんの気持ちの変化はありましたか?

趣里さん:摩子は、自分が大変な状況にある中で、それでも明るく前向きに頑張っています。日々の取材に奮闘しながら、本を出版するところまで話が進みました。

摩子を演じて、自分が苦しくても前に向かうエネルギーを摩子から感じたし、こうした問題があることも忘れない。まずは知ることから始めていって、少しずつでも状況が変わっていけばいいなと思います。

(松永 怜 : ライター)