2024年の年頭からNISAが大きく生まれ変わります。そもそもどんな制度なのか、どこがどう変わったのか紹介します(写真:TY/PIXTA)

来年2024年の年頭から、従来あった投資非課税制度・NISAが大きく生まれ変わります。これまでよりもグッとお得で、使いやすくなったとして、各メディアでも大きく取り上げられている新しいNISA。そもそもどんな制度なのか、また、どこがどう変わったのか、個人投資家としてSNSで7.3万人のフォロワーを抱える桶井道(おけいどん)氏が上梓した新刊、『お得な使い方を全然わかっていない投資初心者ですが、NISAって結局どうすればいいのか教えてください!』から、一部抜粋してご紹介します。

「日本版(少額)投資非課税制度」の略がNISA

そもそも、NISAとはどんな制度なのでしょうか?

投資非課税制度は多くの先進国にあり、日本のNISAは、とくにイギリスのISAを参考にしてつくられたと言われています。

ISAは Individual Savings Account の略で、直訳すれば「個人の貯蓄のための口座」です。

その日本版となるので、Nipponを頭に加えて Nippon Individual Savings Account、イコール「NISA」というわけです。

NISAは従来、日本語では「少額投資非課税制度」と呼ばれてきました。
しかし、2024年からの制度変更で利用限度額が1800万円とかなり大きくなったため、もはや「少額」とは言えません。今後は、「投資非課税制度」などと呼ばれるようになるのではないでしょうか。


(イラスト:(c)中山成子、本書より引用)

Savingsを「貯蓄」ではなく、「投資」と言い換えて和訳しているところがミソです。

というのも、NISAは「資産運用や財産形成と言えば預貯金命!」という考えからなかなか脱け出せない日本国民に向けて、「預貯金以外の金融商品にも積極的に投資して、お金を増やしましょう!」と呼びかけることを狙いの1つとして、つくられた制度だと思われるからです。

どうして、国はそんなに投資をさせたがっているのか?

投資」とは、なんらかの投資対象に資金を投じて資産運用をすること。
実は、多くの人が投資だとは思っていない「預貯金」も、銀行にお金を貸して、銀行がそのお金を企業などに融資し、その融資が返済される際の利息の一部を「リターン」として預貯金者が受け取る投資の一種です。

ただ、預貯金は国民経済のなかで大事な役割を担っているために「元本保証」されています。

つまり、銀行に預けた金額が勝手に減ってしまうことはありません(1銀行あたり元本1000万円とその利息まで)。

一方で、預貯金以外のほとんどの投資対象には、元本保証がありません
運用の状況次第で、最初に投資した金額を大きく上回る金額を手にできることもあるけれど、逆に下回ってしまうこともある、ということです。

日本人はその堅実な国民性のせいか、元本保証がない投資対象を嫌う傾向が強いと言われています。

そのため、「資産運用で許されるのは定期の預貯金だけ!」「株式を買うなんてもってのほか!」という人の割合が、長らく多数を占めてきました。

しかし国全体の大きな視点で見れば、たとえば株式への投資は、その国の経済を活性化させるには不可欠なものです。

株価が上がれば企業価値が上がります。

企業価値が上がれば、事業がしやすくなり、社員の給与や賞与が上がります。そして経済が活性化されます。

また、新規上場企業に豊富な資金が提供されることで、企業は新しい商品やサービスを開発でき、業績が成長します。こちらも経済にプラスです。
こうして、国民の生活は豊かになります。

逆に国民の多くが株式への投資を避けるような状況では、経済の活力が低下し、国民もだんだん貧しくなってしまうでしょう。

そうした事態を避けるためには、ある程度は株式市場への国民の投資が必要なため、国は経済活動の活性化のために、国民の預貯金以外への投資をうながしているのでしょう。

そして、その恩恵は国民へと波及します。

加えて、日本社会の急激な少子高齢化に伴う年金不安も、国が預貯金以外への投資を勧める大きな理由の1つになっているようです。

現在、日本はすでに国民のおよそ3分の1が65歳以上という「超・高齢社会」になっています。少子化も急激に進んでおり、新たに生まれる子どもの数は2022年には80万人を切りました。

このような状況下で、現役世代が高齢者を支える仕組みになっている現在の年金制度が本当に持続可能なのか、疑問視する声が大きくなってきました。

年金がで足りない分は自分でなんとかする

不安に応えるためのさまざまな制度改正が行われ、国は当面は年金制度は持続可能であるとしています。

しかし、それは必ずしも、「老後の生活に十分な金額が年金で支給されますから、安心してください」という意味ではありません。

ある程度は年金も出ますが、年金だけでは老後の生活費に足りない部分は、国民各自が自分でなんとかすることを前提にして、持続可能だと言っているにすぎないのです。

2019年に行われた金融庁の審議会では、今後、老後の30年間に年金だけでは不足する生活費を、1世帯(夫婦)あたりおよそ2000万円と見積もる報告がされ、「2000万円問題」として社会問題にもなりました。

そして、そうした不足する老後資金への対策を長期的に進めるには、元本保証があるためにリターンも少ない預貯金では全然足りないのです。

国としては、多少のリスクはあっても、より効率的に資産を増やせる預貯金以外への投資を優遇することで、将来、老後の生活費の不足で困ってしまう国民を減らしたいときっと考えています。

そのためのツールの1つとして、NISAをフル活用してほしいと考えているのでしょう。

2024年からの拡充後のNISAの利用限度額が、かなり大きな「1人あたり1800万円」と設定されたことも、上述の「2000万円問題」の金額に近づけることが強く意識された結果だと、私は考えています。


(イラスト:(c)中山成子、本書より引用)

NISA最大のメリットは「利益に課税されないこと」

このような狙いがあり、預貯金以外への投資を勧める制度としてNISAがつくられたと思われます。

しかし、預貯金命! の国民をそれ以外への投資に積極的にさせるには、何かインパクトのある「アメ(飴)」が必要です。

そこで、NISAに設定されたシンプルにして最大のメリットが「非課税」です。NISAを使った投資で利益が出たときには、通常、その利益にかかるはずの税金がタダになるのです!

これは、資産運用の世界においては桁外れに大きなメリットと言っていいでしょう。

金融商品への投資で得た利益を「金融所得」と言い、通常、そこには所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%(2037年まで)=合計20.315%が課税されています


(図:本書より引用)

リスクを取って投資をして、たとえば10万円の利益を得たとしても、普通はその10万円がそのまま手に入るわけではないのです。

そこから税金として2万315円が引かれ、手取り額として受け取れるのは残りの7万9685円というのが通常の投資です。

この税金は配当金や利子などにも同様にかかってきますから、定期預金のわずかな利子にも、同じように20.315%の税金が発生しています。

また、利益の額が大きくなれば、かかる税金の額も大きくなります。

利益1000万円ならば、203万1500円もが税金として取られるわけで、法律で決まっていることとはいえ、投資をする人にとって、この税金はまさに「目の上のたんこぶ」のような存在です。

ところが、その金融所得への課税が、NISAの利用時にはまるごとタダになるのです!

たとえば株式の売買で10万円の利益を得たとしたら、そのまま10万円を手取りで受け取れます。

株式からの配当金や、投資信託の分配金についても、1万円支払われたなら1万円がそのまま入金されます。

すべての投資家が夢見る「非課税での投資」が、簡単に実現できるのがNISAというわけです。

投資で得たお金に約20%も課税されるのは痛いですよね。でも、NISAを利用してつくった資金には課税しませんから、安心して投資して、お金を増やして老後に備えてくださいね(年金ばっかりあてにしないでね!)」という、国からのメッセージだと受け取ればいいでしょう。

老後資金の足しにしてもらう


(イラスト:(c)中山成子、本書より引用)

まとめると、非課税を「アメ」に、預貯金ばかりする日本国民のお金を投資(企業)にも回し、日本経済を活性化させる。

それと同時に、非課税で運用した資金を不足する老後資金の足しにしてもらうための制度が、NISAというわけです。


(桶井 道 : 個人投資家(投資歴20数年)、物書き)