メーカーに注目が集まる

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ある時代に就職人気ランキングの上位にあった企業が、次の時代にランク外に転落することは珍しくない。高度成長期には繊維や造船、家電といったメーカーが人気上位を占めていたが、その座を総合商社や金融に奪われて久しい。

そんな中、就職活動で興味のある業界に「メーカー」が2年連続1位になったという調査結果が発表になった。意外な結果だが、現在の若者たちが働き盛りになる数十年後に、順位の入れ替えが起こる可能性はあるのだろうか。

現在は総合商社や金融が人気上位に並んでいるが

この調査は、大学生向け学習管理SNS「Penmark」を利用する現役大学生を対象とした、2023年秋の「Z世代5万人の学生生活に関わる実態調査」。就職活動で興味のある業界は、「メーカー」が2年連続で1位になったという。

学年別に見ると、1年生の時点では「IT・通信」がトップだが、2年生になると「メーカー」が追いつき、3年生になると追い越している。

気になる回答者は「Penmark 公式LINEアカウント」利用中の大学生5万1256人。運営会社の媒体資料によると、利用者の2割は「国公立大学」の学生、同じく2割が早慶から日東駒専までの「有名私立大学」の学生が占める。

残る6割は「その他の私立大学の学生」。就職先に高望みしない学生たちの堅実志向が、業種選びに反映されているのかもしれない。

ここまで高いメーカー人気は、他の調査結果では見当たらない。キャリタス就活の「2024年卒の就活生が選ぶ人気企業総合ランキング」では、損保ジャパン、三菱UFJ銀行など金融業がトップ5を占め、メーカーはトヨタ自動車がようやく14位に入っている。

同じく2024年卒の就活生を対象とした文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所の「ブンナビ学生アンケート」では、1位が伊藤忠商事、2位が日本生命保険、3位が大和証券グループで、総合商社や金融が強い。

「メーカー」の範疇では、6位に明治グループ(食品・医薬)、7位に大日本印刷(印刷)、17位にバンダイ(玩具)、20位に味の素(食品)が食い込むが、機械や電気、化学などの典型的なメーカーの姿は上位には見えない。

生成AIで「日本の製造部門が最大の貢献者に」

報酬面でも、現状のメーカーは魅力的とはいえない。「令和4年賃金構造基本統計調査」(2023年3月公開)によると、30〜34歳の男性の平均賃金が最も高かったのは「金融業、保険業」で387.2万円だった。

次いで「情報通信業」の353.1万円、「学術研究、専門・技術サービス業」の350.8万円、「電気・ガス・熱供給・水道業」の347.0万円が続く。総合商社は「卸売業、小売業」に含まれているはずだが、小売と合算されていることもあり295.6万円と低い。

「製造業」はそれをさらに下回る273.3万円で、「運輸業、郵便業」の275.5万円や「宿泊業、飲食サービス業」の280.7万円よりも低い。「金融業、保険業」と比べると100万円以上も少ない賃金である。

そんなメーカーの人気が将来、商社や金融を上回ることがあるのだろうか。眼の前にある未来として考えられるのはAI、人工知能だ。

米Access Partnershipの2023年6月のレポートは、「生成AI」が日本で生み出す可能性のある生産能力は、2022年の日本のGDP(国内総生産)の4分の1に相当する148.7兆円(1.1兆米ドル)規模になると試算。日本におけるAIの可能性について、次のように述べている。

「日本の製造部門は、生成AIによる経済全体の利益への最大の貢献者となることも考えられます。その主な理由は、製造部門が日本の労働者の大部分を構成し、高い労働生産性の要因となっているためです」

AI時代には人間の仕事はコンピュータに奪われるとイメージしがちだが、このレポートでは「生成 AIは、(人間の)仕事を完全に奪うものではなく、仕事における焦点を変えるものとなるはず」と指摘する。

AIによって自動化される業務だけでなく、人間がAIを使って仕事の生産性を上げる使い方も増えるということだろう。人手不足が深刻化する中で、AIが製造業をまったく新しい業態に変えてしまうとき、就職人気ランキングの順位に変動が起こるのかもしれない。