「俺はクレイジー」「やりゃできる」49歳・伊東輝悦はなぜ現役を続けているのか? しんどくても走れば「若いやつらは何か感じると思う」
2023年のJリーグも終盤戦に突入。44歳の小野伸二(札幌)と南雄太(大宮)が現役引退を発表するなど、プロキャリアに区切りをつけるベテランが何人か出始めている。
今季の40代JリーガーはJ1・3人、J2・7人、J3・4人の合計14人だけ。その中の2人がユニホームを脱ぐ決断をしたのは寂しい限りだ。しかしながら、彼らより年上の選手でも現役続行に強いこだわりを持つ者もいる。
その1人が49歳の伊東輝悦(沼津)。現役最年長の50歳・村木伸二(FC大阪)に次ぐ2番目の年長者は目下、日々のトレーニングで精力的に汗を流す。ラスト6試合となったJ3の出場を虎視眈々と目ざしているという。
「今季はほとんど怪我もないし、ずっとトレーニングには参加してますよ。若い選手と一緒に練習するのはメッチャしんどい(苦笑)。僕はもともと練習が大っ嫌いだから、トレーニングはホントにしんどいけど、それでもまだサッカーをやる楽しさのほうが上回っているのかなと。
3部リーグではあるけど、そういうなかでも若いやつらと競争しながら、刺激のあるなかでプレーするのはすごく楽しい。だから続けていられるのかなと思いますね」と、やや白髪が目立つようになった伊東は爽やかな笑顔をのぞかせた。
とはいえ、49歳の選手が20代のフレッシュな面々とまったく同じメニューを消化というのは、フィジカル面の負担があまりにも重い。心身両面の疲労は想像を絶するものがあるだろう。
多くのベテランが「若い頃のように身体が動かなくなった」と考え、ピッチを去っていく。もちろん伊東も同じようなギャップを感じた時期があったと言うが、徐々に折り合いをつけていったようだ。
「僕の場合、特別なケアとかは全然してないですね。個人トレーナーとかをつける金銭的な余裕もないし(苦笑)。人間の身体って意外に強いから、やりゃできる。みんなやらないだけなんです。
昔と唯一、変わったのは、2年くらい前からプロテインを練習後に飲み始めたことかな。試してみようかなと、ふと思ってね。良くなったかどうかは分かんないけど、まあまあ続けてますよ。
自分のプレーの感覚は正直言って、若い頃に比べたら全然だよね。『もっと動けたのに』とは感じるけど、そんな比較したってしょうがない。20代後半くらいから『今の自分にできることをやればいい』って考えに徐々に変わっていったし、そう思ったらメンタル的に楽になったから。
それに、サッカーは陸上競技みたいにヨーイドンで走って競うわけじゃなくて、頭を使って上手くやればいい。体力とかスピードで劣ってきてるのは確かだけど、サッカーへの理解だったり、違う分野なら若い時より伸びる可能性はある。そう前向きに考えて、少しでも向上できるように毎日取り組んでますよ」と、伊東は自分なりに前進を続けているという。
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そんな伊東にピッチに立ってほしいと願う声は少なくない。今季も3月12日の第2節・カターレ富山戦と、9月24日のガイナーレ鳥取戦の2試合でベンチ入り。熱心なファンも期待を膨らませたが、惜しくも出番は訪れなかった。
2017年にアスルクラロ沼津入りしてから今年で7シーズン目だが、ここまでピッチに立ったのはわずか5試合。そこはプロとして不完全燃焼感も覚えて当然だろう。
「試合のメンバーに入れたらいいし、出れたらもっといい。それは当然、そう思ってるんですけど、ヘンな話、『どうしても出たい』っていう感覚ではないんです。『チームにとっては若い選手が出たほうがプラスだ』という気持ちと『自分が出たい』という感情が半々といったところなのかな。
普通に考えて、49のおじさんが毎試合ピッチに立って元気にやってるっていうのもどうかと思うしね。まあ俺は普通じゃないし、クレイジーだから(苦笑)。
ただ、49の俺がしんどいながらも練習で走っていれば、若いやつらは何か感じると思う。『メッチャきつそうにしてるけど、あの人、なんだかんだ言ってやってるしな』と感じて、嫌でも頑張るんじゃないかな。そういう刺激を与えられたら、自分としては嬉しいから。それが自分の1つのモチベーションなんでしょうね」と、伊東は嬉しそうに笑っていた。
彼が言うように、大ベテランが懸命に走る姿というのは、言葉を越えた影響力を周囲にもたらす。2020年まで沼津で選手登録していた中山雅史監督も、同じような存在だったと言っていい。
だからこそ、指揮官は今も伊東を信頼し、戦力として期待しているはず。かつて96年アトランタ五輪で共闘した同期の鈴木秀人コーチも同様だろう。
伊東自身は「秀人はたぶん、やりづらいかもしれないけどね」と笑ったが、長年ともに切磋琢磨し、お互いを知り尽くしている仲間と「指導者と選手」という関係で高みを目ざせるというのは、なかなかないこと。伊東は恵まれた環境で、プロ31年目のキャリアを過ごしているのである。
沼津が10月22日の松本山雅FC戦を3−1で勝ち切り、ラスト6戦で2位・鹿児島ユナイテッドと6ポイント差まで詰めよっているのも、縁の下でチームを支える大ベテランがいてこそだ。
伊東にはもちろんピッチに立ってほしいが、沼津のJ2昇格を現実にすべく、黒子の働きを大いに期待したい。
※第1回終了(全3回)
取材・文●元川悦子(フリーライター)
今季の40代JリーガーはJ1・3人、J2・7人、J3・4人の合計14人だけ。その中の2人がユニホームを脱ぐ決断をしたのは寂しい限りだ。しかしながら、彼らより年上の選手でも現役続行に強いこだわりを持つ者もいる。
「今季はほとんど怪我もないし、ずっとトレーニングには参加してますよ。若い選手と一緒に練習するのはメッチャしんどい(苦笑)。僕はもともと練習が大っ嫌いだから、トレーニングはホントにしんどいけど、それでもまだサッカーをやる楽しさのほうが上回っているのかなと。
3部リーグではあるけど、そういうなかでも若いやつらと競争しながら、刺激のあるなかでプレーするのはすごく楽しい。だから続けていられるのかなと思いますね」と、やや白髪が目立つようになった伊東は爽やかな笑顔をのぞかせた。
とはいえ、49歳の選手が20代のフレッシュな面々とまったく同じメニューを消化というのは、フィジカル面の負担があまりにも重い。心身両面の疲労は想像を絶するものがあるだろう。
多くのベテランが「若い頃のように身体が動かなくなった」と考え、ピッチを去っていく。もちろん伊東も同じようなギャップを感じた時期があったと言うが、徐々に折り合いをつけていったようだ。
「僕の場合、特別なケアとかは全然してないですね。個人トレーナーとかをつける金銭的な余裕もないし(苦笑)。人間の身体って意外に強いから、やりゃできる。みんなやらないだけなんです。
昔と唯一、変わったのは、2年くらい前からプロテインを練習後に飲み始めたことかな。試してみようかなと、ふと思ってね。良くなったかどうかは分かんないけど、まあまあ続けてますよ。
自分のプレーの感覚は正直言って、若い頃に比べたら全然だよね。『もっと動けたのに』とは感じるけど、そんな比較したってしょうがない。20代後半くらいから『今の自分にできることをやればいい』って考えに徐々に変わっていったし、そう思ったらメンタル的に楽になったから。
それに、サッカーは陸上競技みたいにヨーイドンで走って競うわけじゃなくて、頭を使って上手くやればいい。体力とかスピードで劣ってきてるのは確かだけど、サッカーへの理解だったり、違う分野なら若い時より伸びる可能性はある。そう前向きに考えて、少しでも向上できるように毎日取り組んでますよ」と、伊東は自分なりに前進を続けているという。
【PHOTO】編集部が厳選! ゲームを彩るJクラブのチアリーダーを一挙紹介!
そんな伊東にピッチに立ってほしいと願う声は少なくない。今季も3月12日の第2節・カターレ富山戦と、9月24日のガイナーレ鳥取戦の2試合でベンチ入り。熱心なファンも期待を膨らませたが、惜しくも出番は訪れなかった。
2017年にアスルクラロ沼津入りしてから今年で7シーズン目だが、ここまでピッチに立ったのはわずか5試合。そこはプロとして不完全燃焼感も覚えて当然だろう。
「試合のメンバーに入れたらいいし、出れたらもっといい。それは当然、そう思ってるんですけど、ヘンな話、『どうしても出たい』っていう感覚ではないんです。『チームにとっては若い選手が出たほうがプラスだ』という気持ちと『自分が出たい』という感情が半々といったところなのかな。
普通に考えて、49のおじさんが毎試合ピッチに立って元気にやってるっていうのもどうかと思うしね。まあ俺は普通じゃないし、クレイジーだから(苦笑)。
ただ、49の俺がしんどいながらも練習で走っていれば、若いやつらは何か感じると思う。『メッチャきつそうにしてるけど、あの人、なんだかんだ言ってやってるしな』と感じて、嫌でも頑張るんじゃないかな。そういう刺激を与えられたら、自分としては嬉しいから。それが自分の1つのモチベーションなんでしょうね」と、伊東は嬉しそうに笑っていた。
彼が言うように、大ベテランが懸命に走る姿というのは、言葉を越えた影響力を周囲にもたらす。2020年まで沼津で選手登録していた中山雅史監督も、同じような存在だったと言っていい。
だからこそ、指揮官は今も伊東を信頼し、戦力として期待しているはず。かつて96年アトランタ五輪で共闘した同期の鈴木秀人コーチも同様だろう。
伊東自身は「秀人はたぶん、やりづらいかもしれないけどね」と笑ったが、長年ともに切磋琢磨し、お互いを知り尽くしている仲間と「指導者と選手」という関係で高みを目ざせるというのは、なかなかないこと。伊東は恵まれた環境で、プロ31年目のキャリアを過ごしているのである。
沼津が10月22日の松本山雅FC戦を3−1で勝ち切り、ラスト6戦で2位・鹿児島ユナイテッドと6ポイント差まで詰めよっているのも、縁の下でチームを支える大ベテランがいてこそだ。
伊東にはもちろんピッチに立ってほしいが、沼津のJ2昇格を現実にすべく、黒子の働きを大いに期待したい。
※第1回終了(全3回)
取材・文●元川悦子(フリーライター)