アメリカ発の動画配信サービスが今年12月1日に加わる。トム・クルーズ作品などを売りにする「パラマウントプラス」がついに日本に上陸する(画像:パラマウント)

アメリカ発の動画配信サービスがまた1つ、今年12月1日に加わります。これまでNetflixをはじめ、Amazonプライム・ビデオ、ディズニープラスらが日本上陸を果たし、世界最大手の動画配信サービスが日本でほぼ勢ぞろいするなか、遅れてやってくるのがパラマウントプラスです。「トップガン」や「ミッション:インポッシブル」など超ヒットコンテンツを引っ提げて、参入します。しのぎを削る日本の動画配信市場に及ぼす影響について解説していきます。

トム・クルーズ作品を売りにする

パラマウントプラスが12月1日から日本でサービス開始されることが発表された9月20日、都内で行われた記者会見では「世界的に急成長を遂げているプレミアム動画配信サービスが韓国に続き、アジアで2番目の国として満を持して、日本でサービスを開始」と、説明がありました。

確かに、パラマウントプラスは本国のアメリカから展開国を増やし、会員数が増加中です。その数は現在、45カ国に上り、会員数は6100万人を超えます。2022年末までにアメリカだけで3500万人強に達し、ライバルのHBO Maxを上回ったとも言われています。会員数が2億人を超えるNetflixやディズニープラスの規模には届かないものの、動画配信市場においてキープレイヤーの1つです。

山のロゴマークに見覚えがある人は多いのかもしれません。運営するパラマウント・グローバルは、5大メジャー映画スタジオのパラマウント・ピクチャーズやアメリカ地上波ネットワークのCBS、音楽ケーブルテレビチャンネルのMTVなどを傘下に置く、いわゆるアメリカ最大手のメディア・コングロマリットです。

超老舗コングロマリットらしく、パラマウントプラスにあるコンテンツは手を替え品を替え、擦り続けても人気が衰えないものが目立ち、バリエーションも豊富です。たとえば、トム・クルーズ主演の「トップガン」や「ミッション:インポッシブル」シリーズに、ヒット犯罪捜査ドラマの「CSI」もあれば、SFシリーズ「スター・トレック」も並びます。言うなれば、所有するIP(知的財産)をこれでもかと詰め込んだ動画配信サービスというわけです。

なお、パラマウントプラスは当初、CBS All Accessという名で2014年に始まり、2021年に今のサービス名に改名されています。そもそも社名そのものもバイアコムとCBSが2019年に再統合した後、2022年2月に現在のパラマウント・グローバルに変わった経緯があり、“パラマウント”のブランド名を推す超老舗コングロマリットによる動画配信サービスという見方もできます。

JCOMとWOWOWと組む座組

このパラマウントプラスの日本市場参入に本来、競合他社は脅威を感じてもおかしくはないでしょう。消費者からは選択肢が増えることにうれしいやら、悩ましいやらという反応が返ってきそうですが、実際の参入方法をみると、影響力はそれほど大きいものではありません。なぜなら、Netflixやディズニープラスのように独立したサービスとして提供されず、パラマウントプラスが直接的に日本市場で勝負するわけではないからです。

WOWOWが提供中のVODサービス「WOWOWオンデマンド」と、JCOMが10月4日から開始した新たなオプションとしてのVODサービス「J:COM STREAM」の枠組みの中で展開されます。つまり、パラマウントプラスを目玉に、WOWOWとJCOMのそれぞれのサービスが拡充するというものです。

加入者数が250万人を切り始めたWOWOWにとって力を入れ始めている動画配信事業戦略の一環にあり、また約563万世帯にケーブルテレビを含めた家庭内インフラを提供するJCOMにとっても、配信サービスを打ち出していくための切り札としているのは明らかです。


JCOMが10月4日に開始したVODサービス「J:COM STREAM」と、WOWOWの「WOWOWオンデマンド」でパラマウントプラスが提供されることが9月20日に発表された。写真は会見に出席したJCOM岩木陽一社長(左)とパラマウント・グローバルのアジア責任者キャサリン・パーク(写真:JCOM)

では、なぜこのような座組となったのかというと、パラマウントプラスの日本上陸を発表した会見を主催したJCOM岩木陽一社長は「パラマウント・グローバルとの長年のパートナーシップ関係が実を結んだ」と話し、パラマウント・グローバルのアジア責任者であるキャサリン・パークも同様のコメントを残しています。

当然ながら、双方の利害が一致したというわけでしょう。内情としては、パラマウントプラスはもともと既存の日本のメディアと提携したバンドル形態で提供することを計画し、その相手が最終的にJCOMとWOWOWだったというプロセスが想定されます。

というのも、パラマウントプラスと同様のグローバル展開の競合他社は、すでに日本でシェアを広げている状態です。イギリスの調査会社アンペア・アナリシスによると、日本の動画配信市場で外資系サービスが占める割合は6割以上にもなります。2015年から日本に参入したNetflixとAmazonプライム・ビデオだけで市場の約半分のシェアを獲得しているのです。後発組のパラマウントプラスにとって独自にサービス展開する選択はリスクが大きく、残る市場シェア4割の中からU-NEXTなど日本の事業者とどう組むのかがカギとなっていたはずです。

日本でもオリジナル作品を検討

パラマウントプラスはすでにサービスインしている韓国でも地元メディアとパートナーシップを組んだ展開です。最大手メディア企業のCJ ENMらが出資する大手動画配信サービスTVING内で2022年6月から提供開始し、韓国産オリジナルドラマの製作にも投資し始めています。パートナーのCJ ENMらが製作したシン・ハギュン主演「Yonder」がその第1弾として、2023年4月11日から世界独占配信されたところです。


運営するパラマウント・グローバルの傘下にある5大メジャー映画スタジオのパラマウント・ピクチャーズやアメリカ地上波ネットワークのCBSの作品など強力コンテンツがラインナップされる(筆者撮影)

日本で展開されるパラマウントプラスでもこうしたオリジナル作品がラインナップされていきますが、ゼロから開発したオリジナル新作の数が競合他社に比べて圧倒的に少ないことがパラマウントプラスの弱点として無視できません。本国のアメリカでもシルヴェスター・スタローン主演のクライムドラマ「タルサ・キング」などオリジナル新作が追加されていますが、まだ代表作と言えるものがないのが実情です。

オリジナル数が同じく少ないApple TV+と比べても、ジェニファー・アニストンとリース・ウィザースプーンが主演するApple TV+オリジナル「ザ・モーニングショー」のようにエンターテインメント界最高峰のエミー賞を受賞し続ける作品がまだありません。

世界的な経済不況の影響で、一部のプレーヤーはコンテンツ出資計画に慎重になっている向きがありますが、オリジナル番組は依然として、加入者や視聴時間を増加させる重要な要素です。現にNetflixは各国のオリジナル作品や独占番組の量を増やし続け、パラマウントプラスも2025年に150作の国際オリジナルコンテンツを制作する予定であることを表明しています。

トム・クルーズの作品や往年のヒット作品をもってしても、国産コンテンツに勝るものはありません。パラマウント・グローバルのアジア責任者キャサリン・パークに日本でのローカルオリジナル製作の可能性について尋ねると、断言はしなかったものの、「韓国の事例もあるので、興味は当然あります」と、前向きな回答でした。ドラマ制作機能を持つパートナーのWOWOWを筆頭に、日本でのオリジナル新作の取り組みは今後、十分に考えられるでしょう。

いずれにしろ、遅れてやってきたパラマウントプラスの日本上陸は、WOWOWとJCOMがパラマウントプラスの価値を利用し、加入者にメリットを感じてもらえるのかが勝負どころとなるのは間違いないです。


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(長谷川 朋子 : コラムニスト)