50年以上前から、東大入試では「ある能力」を問う問題が繰り返し出題されているといいます(画像:ニングル / PIXTA)

覚えられない、続けられない、頑張ってもなぜか成績が上がらない――勉強が苦手で、「自分は頭が悪い」と思い込んでいる人も、実は「勉強以前の一工夫」を知らないだけかもしれない。

そう話すのは、中高生に勉強法の指導をしている「チームドラゴン桜」代表の西岡壱誠さんです。

「僕も昔はこれらの工夫を知らなくて、いくら勉強しても成績が上がらない『勉強オンチ』でした。でも、『勉強以前』にある工夫をすることで、『自分に合った努力のしかた』を見つけられて、勉強が楽しくなったんです。効果は絶大で、偏差値35だった僕が東大模試で全国4位になり、東大に逆転合格できました」

西岡さんをはじめとする「逆転合格した東大生」たちがやっていた「勉強以前の一工夫」をまとめた書籍『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』が、発売すぐに3万部を突破するなど、いま話題になっています。ここでは「勉強以前」に必要な「ある能力」を紹介します。

東大入試頻出「ことわざ」の問題

1970年、東大ではこんな問題が出題されました。

「三日坊主」の意味を簡潔に英語で説明せよ


とんでもなくシンプルな問題ですね。東大ではこのような、「ことわざ」の意味を説明させる問題は多く出題されています。

「雨降って地固まる」の意味を説明する問題が出題されたこともありますし、「『臆せば失うぞ』と『挑戦する前に、振り返れ』はどちらがあなたにとっていいアドバイスか」を答える問題も出ています。「『人は見たいものを、見たいように見る』という言葉について思うことを述べよ」という問題も出題されていて、ことわざや慣用句・名言を説明する問題は、ある意味、頻出だと言って差し支えないと思います。

さて、ではなんで、こんな問題が出るのでしょうか? それは、東大がこの問題を通して、「ある能力」を問おうとしているからではないかと思います。

実はこの問題って、解けない人は英語以前の問題で解けません。日本語で「三日坊主」の意味を簡潔に説明できないから、当然英語でも×になってしまう人が後を絶たないのです。実際、僕がこの問題を出した高校生のうち、ちゃんと説明できたのは1割程度でした。

では、みなさんだったら、三日坊主を日本語でどのように説明しますか?

まずは、「よくある間違い」を挙げさせていただこうと思います。

「続けようと思ったことを、3日間で諦めてしまう人のこと」

これ、1つ明確に間違っているポイントがあるのですが、みなさんは間違いを指摘できますか?

「え? 三日坊主の説明として、これって適切なんじゃないの?」と思った人もいるかと思うのですが、この答えは、言葉どおりに解釈しすぎていると言えます。


例えば、「俺って三日坊主だからさ〜」と人に言うとき、みなさんは先ほどの説明の意味で使っているでしょうか?

先ほどの説明のままで解釈すると、物事を「3日」でやめてしまうということですよね。2日でも4日でもなく、「3日」と書いているのですから、3日きっかりでなければなりません。

でも、「俺って三日坊主だからさ〜」と言うとき、「3日」という言葉にまったくこだわりはありませんよね。1日で終わっても三日坊主ですし、1週間で終わっても三日坊主と言える場合もあるでしょう。

だってみなさん、「三日坊主」って、もっと言葉通りに解釈するなら「三日+坊主」ですから、本当は「三日間で諦めてしまう男の子のこと」でなければなりませんよね。

「具体」から「抽象」を理解する

この「三日」とか「坊主」とかは、具体例でしかありません。「三日坊主」は、3日でも坊主でなくてもいいのです。というか、もしこの言葉が「三日+坊主」という意味なら、「三日がthree daysで、坊主はboyだから、three days boy」で正解になってしまいます。そんなわけはないですよね。

この問題は、あくまでも「意味」を聞いているのであって、意味以外は答えなくていいのです。それなのに、「三日坊主」の意味を質問されて「3日」を答えに入れてしまう人が多いのが、この問題なのです。

このような「具体的な例から抽象的なものを理解する」というのは、日常生活の中でも、実践している人としていない人がいます。

子どもが「ポケモンが好きで、スマブラが好きで、マリオカートが好きなんだ!」と言ったら、「じゃあ君はテレビゲームが好きなんだね」と理解できる人もいるでしょう。

「Aくんは、人にやさしくて、人のことをいつも気にかけてくれて、話しやすい人物だ」と聞いたときに、みなさんは「ということは、Aくんはいい人なんだね」と解釈して話す場合もあるでしょう。

この2つの例は簡単ですが、例えば仕事や自分の勉強のタイミングで、しっかり自分の言葉で噛み砕いて抽象化している人は少ないかもしれません。でも、この抽象化を求められるのが、この問題だったわけです。

さて、問題に戻ります。「三日坊主」は、要するに「飽きっぽい」ことを指すと思います。簡単に諦めてしまって、物事を継続的に続けるのが苦手な状態を指して、「三日坊主」と表現することでしょう。

日数について触れる必要はなくて、もし強いて入れるなら「短期間で」というくらいでいいと思います。「3日」じゃなくていいわけです。

東大生に実際にこの問題の答えを求めると、シンプルにこんな回答をしていました。

「give up easily(諦めやすい)」

「the person with no perseverance(忍耐力がない人)」

三日坊主の意味を抽出して、「忍耐力のない」とか「諦めやすい」と解釈した回答をしているわけです。これ、「簡単すぎる」と思うかもしれませんが、「簡潔に」と問題文に書いているので、これでも正解になる可能性が高いでしょう。少なくとも、「3日で飽きる」と書いている人よりも評価されるはずです。

抽象化の能力は「一を聞いて十を知る」に通じる

さて、この問題を通して東大が受験生に聞きたかったのは、「具体的な例から抽象的な部分を抽出する能力の有無」だと思います。

相手の話を聞いて、きちんと抽象化して理解できるかどうか。

これを問う問題だったのです。

この能力は、「一を聞いて十を知る能力」と言っていいものだと思います。何か具体的な話を聞いて、そこから抽象的に膨らませて、自分の糧にする。そういう能力だと言っていいでしょう。

ちなみに、冒頭で「東大はことわざを題材にすることが多い」という話をしましたが、その理由として1つ考えられるのが、「ことわざは抽象化を求めるものだから」です。

「猿も木から落ちる」って、猿が木から落ちることを語りたいわけではないですよね。「猿のような木登り上手の動物であっても、木から滑り落ちることがある」ということを述べています。「犬も歩けば棒に当たる」は、犬が歩いていて棒に当たったことを指しているわけではなく、「じっとしていればいいのに、余計な行動をして、災難にあってしまうことがあるから、余計なことはしないほうがいい」という意味ですよね。

このように、ことわざは物事を抽象化して理解するのに最適な教材だと言えるのです。

いかがでしょうか? この記事も、三日坊主を「3日」と考えてはいけないという具体例から、勉強以前に「具体→抽象」の能力が必要だという抽象的な教訓を紹介させていただきました。ぜひ参考にしてみてもらえればと思います。

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)