京浜急行電鉄の「2100形」は1998年にデビューした2ドア・クロスシート車両だ(記者撮影)

有料特急のような片側2ドア車で座席が進行方向を向いたクロスシート――。京浜急行電鉄のフラッグシップ車両「2100形」は、大手私鉄のなかでも独自路線をいく。

窓を背にしたロングシートが一般的な通勤車両に比べ混雑時の乗り降りに時間がかかる、窓側に座ると通路に出るのに隣の乗客に気を使う、などと短距離の利用には不向きかもしれない。が、日常の移動の中でちょっとリッチな旅行気分が味わえる2ドア・クロスシート車両は、わざわざ選んで乗りたくなる特別感がある。現在、大手私鉄で乗車券のみで乗れるのは、優等列車では京阪電気鉄道の「8000系」くらいしかない。

クロスシートの本領発揮

混雑率が高めの首都圏の通勤電車に向いていないのは確かだが、朝晩のラッシュ時間帯には有料座席指定列車として本領を発揮する。上大岡―品川間をノンストップで走り、横浜にも停車しない上り「モーニング・ウィング号」や下り「イブニング・ウィング号」として活躍する。

それ以外は乗車券だけで利用できる。通常の営業列車では相互直通運転をする都営浅草線に乗り入れることはない。そのため2100形は京急線の北端の泉岳寺を発着駅とする列車に使用されることが多い。上り列車には「品川方面泉岳寺」と行き先が表示される。

平日の日中は泉岳寺―京急久里浜間、土休日は泉岳寺―三崎口間で運用する。ドア間の座席は常に進行方向を向いた転換クロスシート。乗客が自分で回転させることはできない仕様で、終着駅の京急久里浜や三崎口では座席が一斉に方向を変える様子を車外から眺めることができる。


転換クロスシートがずらりと並ぶ2100形の車内(記者撮影)

2100形は1998年にデビューした。「京急創立100周年の記念と21世紀をかけて2100形と命名した」(同社)という。1982年に登場した「2000形」の後継車両の位置付けだ。

2000形は2ドア・クロスシートで1992年のウィング号の運行当初の車両。シートは固定式でドア間は車両中央を向いた「集団見合い形」だった。のちに3ドア車に改造され、ドア間はロングシートに変更された。

また2100形のデビュー当時は、現在活躍中の3ドア車「600形」(1994年登場)も全座席がクロスシートだった。座席を2人席と1人席に転換できる「ツイングルシート」がユニークだったが、こちらもリニューアルでドア間の座席はロングシートになっている。

2100形の顔である、向かって左側に貫通扉、前面窓の上の両端に前照灯、前面窓下に急行灯・尾灯という配置は600形が元祖。いまも新造されている1000形もそのスタイルを踏襲している。


左は1994年登場の3ドア車「600形」(記者撮影)

ドア間以外の座席にも特徴

2100形の座席はドア間に進行方向を向いて並ぶ転換クロスシート、車端部は固定座席で向かい合わせの4人掛けボックスシートの配置。あまり知られていないが、空港連絡を考慮し、ボックスシートの一部は座面を跳ね上げて大型の荷物を置くことができるようになっている。

先頭車の運転席の後ろは展望座席だ。先頭で前面展望が楽しめる人気の席だが、こちらも固定式のため、最後尾になった場合は車掌と向かい合わせになる。この展望座席以外のドア横の座席は混雑時以外に使用できる補助いすが付いている。


車端部は向かい合わせのボックスシート。大型の荷物が置けるように座面が跳ね上がる座席も(記者撮影)


乗務員室の後ろは展望席(記者撮影)

デビューから10年ほどは、ドイツ・シーメンス社製のVVVF制御装置を採用しており、発車時に音階を奏でる「ドレミファインバータ」で知られた。2008年以降のリニューアルで東洋電機製造製に置き換えられ、歌うのをやめた。

また、とくに車両に詳しい京急の広報担当者は「デビューから前面の車号の入れ方に変化があり、最初の2本は2100のスリット自体が車号になっていた。その後、左側急行灯・尾灯のケース上にシール貼りした。スカートも濃いグレーだった」「2000年に落成した4次車から正面下部の急行灯・尾灯ケースを入れ替えて、車両内側だった急行灯を外側に変更した。他の車両も順次変更し現行仕様になった」という外観のマニアックな変更点を挙げる。


2100形2109編成のデビュー当時。スリットに車号の「2109」、京急創立100周年のステッカーも(写真:京急電鉄)


2100形2125編成のデビュー当時。現在と逆の位置の急行灯・尾灯、その上に車号が見える(写真:京急電鉄)

2100形の「青い電車」

2100形は8両編成10本が在籍する。そのなかで“異色”なのが、「KEIKYU BLUE SKY TRAIN(ブルースカイトレイン)」。「赤い電車」のイメージが強い京急車両のなかで、青色塗装がひときわ目立っている。2016年2月には台湾鉄路管理局との友好鉄道協定提携1周年を記念したラッピングが話題になった。

スカートなどに台鉄の客車列車(普快車)をイメージしたラッピングを施し、前面に記念ヘッドマークを取り付けた。運行期間は約1カ月の予定だったが、好評だったことから同年6月まで延長することになったという。


台鉄ラッピングのブルースカイトレイン(写真:京急電鉄)

2100形がデビュー当初から担当するウィング号は乗客のニーズに応じて進化してきた。

下りは品川駅の3番線から発車する。長らく「京急ウィング号」の名称で帰宅時の着席需要を取り込む座席定員制列車のイメージが強かったが、2015年に平日朝の通勤時間帯の上り列車モーニング・ウィング号の運行を開始した。


前面の「ウィング号」の種別表示(記者撮影)

2017年に座席指定制に変更。2019年には土休日の日中時間帯に運行する一部の快特の2号車に指定席「ウィング・シート」を新設、三浦半島のレジャー需要に対応した。2021年にはモーニング・ウィング3号が金沢文庫で3ドアの「1000形1890番台」(4両編成)を連結し、品川駅まで12両編成で運転するようになった。

運転士も乗客も楽しい?

京急の運転士経験者、運転課の木村暁生さんは2100形について「クセが少ない高加速、高減速で運転する楽しさがあった。展望席にお子さんが乗っていると、『いいところを見せよう』と張り切った」と語る。ドレミファインバータに関しては「最初はびっくりしたが、お客さまの反応も面白かった。ファンも多かったので歌わなくなったときは寂しく感じた」という。


京急2100形の運転席(記者撮影)

デビューから25年が過ぎた2100形は通勤とレジャーの両面で活躍中。京急のフラッグシップ車両としての存在感を示している。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)