雑談をする機会にあふれている世の中、「雑談が苦手」と思うとストレスを感じることが多くなります。雑談に「不安」を感じる人が、今すぐ簡単に雑談ができる方法を紹介します(写真:yosan/PIXTA)

「雑談は苦手」という人は、けっこういるのではないでしょうか。

仕事でも、プライベートでも、世の中は雑談をする機会にあふれています。
でも、不安になる必要はありません。「『雑談=相手と話をすること』だけではない。無理して話さなくてもいい雑談もある」。そう語るのは、元博報堂の名コピーライター、かつコミュニケーションコンサルタント・ひきたよしあき氏。

本稿では、ひきた氏の著書『雑談が上手い人が話す前にやっていること』より、今すぐ簡単に雑談ができる方法を一部抜粋・再構成してお届けします。

みんな、自分の話を聞いてほしい

雑談に臨むとき、たいていの場合は「ちゃんと発言しなくちゃ」「うまくコメントしなきゃ」と思いがちです。

でも、考えてみてください。

Aさん・Bさん・Cさん・Dさんがいたとします。

もしも4人ともが話好きで、それぞれ思い思いにしゃべり出したとしたら……想像するだけでカオスです(ときどきそういう場に出くわします)。

「話す人」がいれば、それを受けとめる「聞く人」も必要。聞く人がいないと雑談は成り立ちません。

雑談には、「話す」という役割の人と、「聞く」という役割の人とがいます。

つまり、「聞く」も雑談のうちなのです。

だから、話すのが苦手な人は、積極的に「聞く人」になればいい。

そう考えると、「うまく話せない」という、しんどい気持ちから解放されるんじゃないでしょうか。

さらに、雑談には「聞く」以外の役割もあります。それが、「観覧者」という役割です。

3人組の漫才やコントを思い出してください。

2人組ではなく、なぜ3人組なのでしょうか。2人のほうが、ボケとツッコミがリズムよく進みそうなのに、なぜもう1人いるのでしょう。

実は、残りの1人は「観覧者」の役割をしています。

2人のやりとりを見て、同意したり、少し離れた立場からツッコんだり。

「話す人」「その話を聞く人」のほかに、「そのやりとりを楽しむ人」という観覧者がいてこそ、さらに話が盛り上がっていくのです。

雑談に必要な、「楽しむ」役割

雑談は、会議やプレゼンと違い、話をするときに、なんらかのリアクションがあったほうが、人は話しやすく感じます。

話すことがしんどい人は、「聞く役割」「観覧者として楽しむ役割」になればいいのです。

しゃべらなくてもいい。うなずいたり、笑ったり、みんなの会話を一緒になって楽しんでいる。

そんな聞き手や観覧者がいることで、気持ちよく話せる人がいる。

これも、雑談には必要な、立派な役割です。

そもそも、自分の話を聞いてほしい人はたくさんいます。

世の中は、自分の話をしたい人であふれている。

多くの人の心の中には、「聞いて、聞いて!」という思いがあるのです。

聞いてくれる人がいると、普段恥ずかしがっているような人も雄弁になります。

多くの人は、話す人より、聞いてくれる人を求めているのです。

だから、がんばって話をしようと努めるのではなく、少し考え方を変えてください。饒舌にしゃべれるようにはならなくていいのです。

「ちゃんと、あなたの話を聞いてるよ」という姿勢を見せるように心がける。

まずは、この一点さえできれば、それでOKです!

自分からうまく話せないことに、落ち込む必要はありません。

むしろ、「聞くプロ」「観覧者のプロ」を目指すくらいの気持ちで、まずは雑談に参加してみましょう。

コンビニで「ありがとう」と言うと雑談力がつく

家族や友だちなど、親しい人とは話せるのに、それ以外の人(会社や学校の人など)とは話すのが苦手。そんな相談を受けます。

自分と相手との共通点がわからない、心の距離がある、そんな相手を前にすると、何を話してよいのかわからず、沈黙してしまう。こういうことは、めずらしいことではありません。

「内弁慶の外地蔵」ということわざがあります。

「家の中では源義経の家来・弁慶のように威張っているが、『そと』ではお地蔵さんのようにおとなしい」という意味です。

雑談が苦手な人は、この「外地蔵」の傾向が強く、「そと」での会話が苦手ということになります。

なぜ、「そと」での会話が苦手になるのでしょうか。「そと」との会話が苦手と思っている人に、その理由を聞くと、こんな答えが返ってきました。

「相手との共通の話題がわからないから何を話していいのか……」

では、共通の話題があれば、雑談が苦手ではなくなるのでしょうか。

実は、この「雑談が苦手だと思っている原因」に誤解があります。

「共通の話題がわからない」と回答した人に、さらに深く聞いていくと、本人も気づいていないような苦手の要因が出てきました。

「実は、自分に自信がない」

「知らない人に心を開くのが苦手で、警戒心が強い」

「会話が上手くいかず、失敗したら恥ずかしい」

よく聞いてみると、上手く話せない原因は、相手との共通点が見いだせないことだと思っていたけれど、実は一番の理由は自分の心の中にあったということなのです。

雑談が苦手な原因は、ここに大きなポイントがあります。

であれば、「自信がついて、心の壁を低くして、恥ずかしさがなくなるようなコツを教えてください!」となりますよね。

秘訣は、実にシンプルです。

知らない人、利害関係のない人にもあいさつをしてみる。

これだけです。

たとえば、コンビニやスーパーのレジの店員さんから商品を受け取ったら、必ず「ありがとう」と言う。

外で食事をしたときは、帰り際に「おいしかった。ありがとうございました」と言うクセをつける。

脳を「雑談ができるモード」に変換する習慣

「なんだ、あいさつ程度のことか」とバカにしてはいけません。

知らない人、利害関係のない人にあいさつをしているうちに、他者に対する心の壁はどんどん低くなっていきます。

これは、脳のしくみに即した、科学的にも実証されている、効果的な「脳のだまし方」です。

「ありがとう」と他人に声をかけ続けていると、あなたの脳はこうなります。

他人に対しては、そう振る舞うものなのだ > 相手との関係が深いかどうか

脳は、怠け者です。なので、もともと「人に話しかけるのは面倒だ」と考えやすくできています。

そこで、そのクセを変えるために、利害関係のない人に声をかけるクセをつけてあげるのです。

たとえば、「ありがとう」と声をかけると、相手からも「どういたしまして」「こちらこそありがとうございます」などの反応が返ってくるかもしれません。

こういう相手の反応があることで、脳は喜びを感じるようになり、それが「小さな達成感」につながります。

これを続けていくと、「人に話しかければ達成感が得られる」と脳が学習するのです。ここまでくれば、心の壁が低くなっていきます。

「自分に自信がない」「知らない人に心を開くのが苦手」「失敗が怖い」「恥ずかしい」という心理的な障壁が、あいさつを続けることで、「あ、そんなに気にすることはないんだ」「もっと軽く考えればいいんだ」ということに気がつき、脳を「雑談ができるモード」に変換できるのです。

あいさつの習慣はどんどん広げていってください。駅員さん、ビルの守衛さん、掃除をしてくれる人、会社の人と、どんどん広げていく。

「おはようございます」「ご苦労さまです」「ありがとう」程度の言葉で十分。あいさつされて不快になる人は、まずいません。

「……塔のような、帆船のような、大爆発のような」

名コピーライター開高健は、積乱雲をこう表現しました。

この言葉をはじめて見たとき、「ただ、心に浮かんだことを羅列するだけでいいのか!」という発見がありました。

1つの雲を表すのに、いくつもの思いついた言葉を書き連ねていくことで、より具体的な雲のイメージが頭に浮かんできます。

油絵具で描くように、さまざまな言葉を塗り重ねて、「積乱雲」を描いている。そんなイメージでしょうか。

雑談でも、この方法は大変有効なテクニックで、簡単にできる方法でもあります。

開高さんのこの手法は、「あれか、これか」ではなく「あれも、これも」。

言いたいことを取捨選択するのではなく、いいと思ったものは全部入れて「言葉のブイヤベース」をつくる。

このやり方を知っていると、なんだか気持ちがラクになりませんか。

「言葉のブイヤベース」毎日できる練習法

「何か上手いことを言わなければ」というマインドは、プレッシャーとストレスになります。上手く整理して話すのは、意外に高いハードルがあります。

でも、そんなことはいったん忘れて、頭に浮かんだ言葉を、もっと自由に解き放っていいわけです。

言葉のブイヤベースのつくり方が上達するように、毎日できる練習法がありますので、紹介します。

方法
身近にある、時計、ノート、コーヒーカップなど、なんでもよいです。
モノを観察してスケッチをするように、頭に浮かんだ言葉を書き出す。

たとえば、コーヒーカップ。

 ● 丸い
 ● 飲み口が薄い
 ● 手触りがなめらか
 ● コーヒーが美味しそうに見える
 ● 冷めにくい

なんでもOKです。

会話では、こんな感じで使います。

「このコーヒーカップ、丸くて、手触りがなめらか。飲み口が薄い。このカップで飲めばおいしく飲めそう」


「自分が放った言葉を相手がどう思うか」を心配するのではなく、まずは言葉数を増やしてみる。これで、話すことへの抵抗感が薄れていくはずです。

いかがでしょう。

どれも、今すぐはじめられる雑談力アップの方法です。

ペラペラと饒舌にしゃべることだけが雑談ではありません。

あなたは、あなたにできそうなことをやりつつ、ちょっとずつ、雑談の技術を身につければよいのです。

(ひきた よしあき : コミュニケーション コンサルタント、大阪芸術大学放送学科客員教授)