2021年に出店を開始した「ワークマンプロ」は職人向け業態。顧客の住み分けを進めている(記者撮影)

ついに「俺たちのワークマン」が帰ってくる――。

快進撃を続けてきた作業服チェーンのワークマンが、踊り場を迎えている。新規出店や店舗の改装によって全体の売上高は成長しているものの、1年以上継続して営業している「既存店」が振るわないのだ。

10月2日に発表された9月度の既存店売上高は、前年同期比で6%減少。第2四半期累計(4〜9月)では同0.7%増と前年並みだが、破竹の勢いで2桁増が続いた頃の姿は見られない。

ワークマンが「ワークマンプラス」を出店し、一般客の拡大に踏み切ったのが2018年。背景には、職人の減少に伴う作業着市場の先細り懸念があった。国内市場に特化してFC展開するワークマンにとって、持続的な成長に向けた一般客の開拓は不可欠だった。

ブチ上げた「ワーク強靭化計画」

一般客向けの開拓が軌道に乗る一方、本業であるプロ向けの取り組みは疎かになっていた。ワークマンの土屋哲雄専務は「作業客で、もう一回やっていけるようにしないといけない」と危機感をあらわにする。

2023年秋冬商戦で掲げるのが「ワーク強靭化計画」だ。ワークマンにとって原点回帰であり、職人向けの商品開発に力を入れている。意識したのは「45歳」だ。

45歳以上のベテラン職人向けには、安価でベーシックかつ機能的な商品を取りそろえる。たとえば通年の人気商品「裏綿」の作業着の夏用商品を、来年から投入する計画だ。「サマー商品を投入すれば、十数万着は売れる」(土屋専務)という自信作となっている。


一方、45歳以下の職人向けは「スタイリッシュ化」へ振り切る。主力に据えるのが、伸縮性の高いデニム生地を使用した作業着のシリーズ。機能性とデザイン性を両立させた人気商品のプレミアムラインを今年の秋冬から投入している(右下写真)。


2023年秋冬の新製品。プロ向け商材もファッション性を訴求して差別化を図る(提供:ワークマン)

ワークマンが得意としてきた機能性に加え、近年の一般客向け商品開発で培ったカジュアル衣料のデザインを取り入れることで、職人客だけでなく、バイク用ライダースジャケットとしての利用も期待しているという。

「ワーク強靭化計画」は、商品開発にとどまらない。営業戦略の重要指標の1つである「プロ商材の棚割り導入率」を引き上げる方針だ。

ワークマンはプロ向け商品に関し、各店舗で販売を推奨する「標準の品ぞろえ」をマニュアル化している。販売推奨台帳のうち、何%の商品が導入されているかを数値化したものが「プロ商材の棚割り導入率」となる。

「2%」の差で何が変わる?

現状の標準値は80%だが、これを82%へ上げていく。わずか2%の差でも、職人客の満足度が変わってくるという。

ロングテール商品が多い作業用品と比べると、一般客向けのカジュアル用品は商品回転率が高くなる。坪効率の高い「よく売れる」一般向け商品に重点を置きすぎると、おのずとプロ向けは手薄になってしまう。本社主導でプロ向け商品の導入率を高めることで、需要を喚起する狙いがある。


ワークマンが原点回帰に力を入れるのは、職人客の新たな“受け皿”が急浮上したことも影響している。ホームセンター業界を中心に広がっている職人向け「プロショップ」の存在感が高まっている。

近年は、ホームセンター業界3位のコーナン商事が、プロ業態「コーナンPRO」の出店を増やしている。早朝から夜まで営業し、職人客は現場の行き帰りに立ち寄って、資材や工具などを購入する。作業衣料も扱っており、ワークマンに立ち寄らずともこと足りる。

作業衣料はワークマンの独壇場ながらも「ワークマンの店舗から1〜2キロ圏内にコーナンPROができると手強い」(土屋専務)と意識せざるをえなくなっている。コーナンPROは120店(5月末時点)を全国展開し、店舗網を積極的に広げている。

競合から固定客を引き戻せるか

今、多くのワークマン店舗では、職人客と一般客が混在するようになっている。ネックとなるのが駐車場だ。滞在時間が長い一般客で駐車場が埋まることで、職人客が入店できない問題はかねて指摘されていた。

「職人客離れ」を防ぐために、店舗近隣に作業服を売らない「ワークマン女子」を出店することで女性客を吸収する算段だったが追いついていないのが現状だ。今後はワークマン女子の店舗を増やして顧客の分離を進めながら、ワーク向け商品を強化することで挽回を期す。

土屋専務は「(ワークマンの挽回には)“働く人”がポイントになる」と力を込める。作業着の専門店として、価格、機能そしてデザインの「三位一体」で再び訴求する。職人客は決まった店に通い続ける傾向が強く、他店から客を奪回するのは容易なことではないが、他店で扱う「安価な定番品」とは一線を画す商品開発で差別化する戦略だ。

そして休日になると一般客が、ガーデニングやDIY用途などでワークマンの作業着を買い求めに来店する。平日の職人客も、週末は一般客としてカジュアル着を買い求める。こうした黄金サイクルに回帰できるかが、「俺たちのワークマン」の次なる飛躍にかかっている。

(山粼 理子 : 東洋経済 記者)