ジャニーズ事務所による2回目の会見。前進した内容も多かったものの、どこかモヤモヤが残った理由とはーー(撮影:尾形文繁)

2日午後、ジャニーズ事務所が創業者・ジャニー喜多川氏の性加害問題に関する2度目の記者会見を開き、その内容が再び物議を醸しています。

9月7日に行われた1度目の会見から大きく変わったのは、主に「社名をスマイルアップに変更」「所属タレントをマネジメントするエージェント会社を新たに設立」することの2点。

さらに「社名やグループ名のほか、ジャニー喜多川氏の痕跡を一切なくす」「9月30日までに被害の申し出は478人あり、補償を求める人は325人いて、11月から補償開始予定」「スマイルアップは補償終了後に廃業」「新会社に藤島ジュリー景子前社長は出資しない」「新会社の名称はファンクラブで公募」「CCO(チーフコンプライアンスオフィサー)に山田将之弁護士を招聘」などの内容が注目を集めました。

これらの発表に、被害者、テレビ局、企業らは、すぐさま反応。一定の評価を示す声があれば、疑問を呈する声もあるなど見解が分かれ、ネット上には「どう捉えたらいいのかわからない」という戸惑いが見られます。

「失敗」と言われた1度目の会見から約1カ月を経て行われた今回の会見には、成否を分けるどんなポイントがあり、今後にどうつながっていくのか。クライシス・コミュニケーション(危機管理広報)の相談に乗り、コンテンツを編集・執筆してきた著者が掘り下げていきます。

冒頭あいさつで見えた1カ月の成果

会見冒頭、東山紀之社長が「まずは私からこの場をお借りして、喜多川氏によって被害に遭われた方々、今も苦しんでいらっしゃる方々に改めて謝罪をさせていただきます。本当に今まで、つらい思いをさせて申し訳なかったと感じています。すいませんでした」と頭を下げました。

続いて井ノ原快彦さんが「すいません。はじまる前に1つお願いさせていただいてもよろしいでしょうか?」と断りを入れつつ、「現在ですね、SNSなどで被害に遭われた方々に対する誹謗や中傷が起こっております。本当にやめていただきたいなと思います」「被害に遭われた方は、本当につらい思いをして1人でずっと抱え込んでいたんだと思います。それがようやく声をあげられた。その勇気をやっぱり僕は無駄にしたくないです。そしてその勇気があったからこそ、この会社が大きく変わろうと、そういうふうな動きになったんだと思います」とコメント。

9月7日ではあいまいだった「誰を最優先しなければいけないのか」を明確にし、徹底的に被害者と向き合う姿勢を示したのです。2人が見せた冒頭のあいさつは、「『力を合わせてやっていくんだ』という内外に向けた意思表示をする」という意味で意義深く、この約1カ月で会話を重ねて意識や方向性が一本化された様子がうかがえました。

ここから東山社長は社名変更や被害補償などを語っていくわけですが、気になったのは、ほぼ下を向いて原稿を読むような姿勢だったこと。また、「コンテンツ企業」「エンターテインメント関係」「タレントマネジメント」「アップデート」「私たちのビジョン」「藤島氏よりレターを」などのカタカナ語を多用するなど、「用意された原稿を読んでいるだけで感情がこもっていない」という感がありました。俳優だからなのか、「“自分の言葉で気持ちを込めて”よりも、“台本どおりしっかり”話そう」としてしまうのでしょうか。


前回より話す姿勢に変化が見られた東山社長(撮影:尾形文繫)

しかし、質疑応答に入ってからの東山社長からは、「自分の言葉で気持ちを込めて話そう」という姿勢が見られました。前回の受け答えや考えの甘さを反省したのか、それとも、十分に想定問答のシミュレーションをしておいたのか。

表情、言葉選び、トーン、テンポなど、いずれも気負いや不安は感じられない自然体で、「相談して決めたことや自分が感じたことをありのまま話すだけ」という迷いのない様子が伝わってきたのです。

1回目と違い、フォローしあっていた東山&井ノ原

2度目の会見で象徴的だったのは、東山社長と井ノ原さんが終始フォローし合うように代わる代わるコメントしていたこと。

どちらかが話し終えると、すぐにもう一方が言葉を補足し、さらにそれを受けてもう一歩踏み込んだ話につなげていく。言葉に詰まりかけたり、言い足りないところがあったり、誤解を招きかねないところがあると、すぐに言葉を加えてフォローし合う。


質問への受け答えでフォローし合っていた東山社長と井ノ原さん(撮影:尾形文繫)

このようなコンビとしての受け答えは、危機管理広報においてリスクを避けられる理想的な対処法の1つ。「できるだけ弁護士に頼らず自分たちで答えていこう」という姿勢も含め、前向きな印象を与えました。この1カ月弱で相当話し合いを重ね、共通認識ができたからこそ可能な姿であり、だからこそ迷いなく話しているように見えたのでしょう。

ところが司会者が会見を締めたあとに、決して小さくない今後の課題が浮かび上がりました。それはマイクを通さずに浴びせられた質問に対する東山社長の「(メディア対応などを行っていた元副社長の)白波瀬さん、やはり説明責任があると思いますので。やはりウチの事務所に携わってくれた人たちに協力を仰ぎたいなと思っていますので、今後また検討していきたいと考えています」という最後のコメント。

「加害者のジャニー喜多川氏と隠蔽した姉・メリー喜多川氏がすでにいない」のは事実でも、「全員が噂話レベルでしか知らなかった」で押し通そうとするのはどうなのか。もし藤島ジュリー景子前社長、東山社長、井ノ原さんが「噂話レベル」で済ませるのなら、ほかに知っている人が会見に出て真実を話さなければ、被害者はもちろん企業や人々は納得できないのではないでしょうか。被害補償や新会社の透明性は期待できる一方で、加害の実態が解明されなければ、「本当に再発防止できるのか」という疑問が残ります。

あらためて、2度目の会見は何のために行われたのか。それを考えていくと、「失敗」と言われた1度目より良かったのは確かですが、いくつか「成功」とは言いがたいところがあります。

2度目の会見はなぜ開かれたのか

9月7日の会見では、社名を変えない方針のほか、被害補償と再発防止策に具体性がなかったことなどが批判を集めました。とりわけ痛恨だったのは、その会見を受けて、多くの企業が「契約更新を行わない」「今後は起用しない」などの厳しい方針を発表したこと。

それを受けたジャニーズ事務所は13日に急きょ文書を発表したものの、依然として被害補償と再発防止策の具体性は十分ではなく、さらに「今後1年間、広告出演並びに番組出演等で頂く出演料は全てタレント本人に支払い、芸能プロダクションとしての報酬は頂きません」などと金銭を引き合いに出し、火に油を注いでしまいました。

そのほかでも、新たな被害者がメディア出演したほか、所属タレントの番組収録が延期されるなどの報道が続出。そんな一連の悪い流れを止めるために2度目の会見が行われたのでしょうが、その狙いが達成できたのかと言えば疑問符が付きます。

企業やテレビ局などが強く求めているのは、被害者の救済と補償を誠実かつ早く終えること。それがほぼ終わるくらいのタイミングでなければ、両者がこれまでのように所属タレントを起用することは難しいでしょう。「11月開始予定」という補償は本当に実現可能で、いつごろまでかかるのか。補償を求める被害者が現時点までで300人以上いて、それぞれに話し合う内容が違う以上、どれだけ時間がかかるのかという不安を感じさせられます。そのメドが話されなかった以上、企業からすれば「早期の契約継続や新規起用は難しい」と言わざるをえないでしょう。

また結局、「新会社のトップを旧体制の重要人物だった東山社長が務めることで、企業から失った支持を再び得られるのか」も現段階では疑問。実際、東山社長は1度目の会見で「ジャニーズ」という社名にこだわるなどの失敗を犯し、「いちタレントで経営の素人」という不安を抱かせてしまいました。

そのほかでも、「ファンクラブで公募する」という新会社名決定のプロセスやスケジュールなどもはっきりしていません。そもそも「それをファンが望んでいたわけではない」「批判を逃れるようにファン任せにする」こと、そのほかでも「資本や組織の体制がよくわからない」「まだ稼げないジャニーズJr.たちをエージェント契約の会社でどのように雇用していくのか」なども含め、悪い流れを変えるための戦略としてはまだ十分ではない様子がうかがえます。

もしあなたが「2度目の会見で『もっとスッキリするだろう』と思っていたのに、モヤモヤが残っているのはなぜなのか」と感じているとしたら、これらの理由があるからでしょう。

「ハラスメント型」を使う記者たち

2度目の会見は、「9月7日の1度目よりは良かったものの、悪い流れを変えるには至らなかった」という印象が残る微妙なものになりました。

しかし、その微妙さをまったく別の次元からやわらげるようにアシストしていたのが、記者たちの言動。1度目の会見でも目に余る言動が多々見られましたが、2度目は記者同士が会見会場でやり合うほどの醜いレベルまで、さらに下がってしまったのです。

質疑応答の時間帯は、序盤から感情にまかせてまくしたてたり、「1社1問」というルール無視で話し続けて司会者に「全部で1つです」と逆ギレしたり、マイクを通さず大声を発し続けて進行を滞らせたり、「茶番だ」とヤジを発したり。なかには、「井ノ原さんは副社長としてジャニーさんの性加害を容認しているようにも映ります」と根拠のない持論をぶつける人や、記者なのにファン代表として思いを語る人もいて、記者以前に社会人としてのマナーに欠ける姿は見ている人々に不快感を与えました。


記者会見を見ていた人からは、記者たちの質問内容や姿勢に疑問の声も多数上がりました(撮影:尾形文繁)

ネット上には「『端的に』と言われているのに話が長い」「記者の質問能力が低すぎる」などと記者のレベルを問う声のほか、「ルールをガン無視で暴走」「記者とかライターとか大したことない」などの不満が飛び交ったほか、司会者を応援する声が続出。いまだに「強い口調で相手を怒らせよう」というハラスメント型の手法を用いる記者に驚かされた人も多かったようです。

このようなハラスメント型の手法は昭和時代からあるものであり、「自分も“会見の出演者”の1人であり、悪者のようにも見えてしまう」という意識が欠けているのでしょう。会見場にいた知人記者3人に話を聞いたところ、「記者とは言えないレベルの人がけっこういた」「ひとくくりにされたくない」などと言っていました。

ネット上に「記者の負け」というニュアンスの声があったように、記者側が悪者に見えた以上、その取材手法を疑われても仕方がないのかもしれません。ただ、その一方で「1社1問という形式では話を掘り下げられない」のも事実。たとえば、「質問をサラッとひと言で返されて終了してしまい、数人後に似た質問が1から繰り返される」という残念なケースが少なくありません。だからこそ東山社長は今後、短いスパンで小・中規模の会見を開くなど、継続的に自らの言葉で発信していくべきでしょう。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)