ジャニーズ会見「メディアの質問」大問題はここだ
10月2日に都内で行われたジャニーズ事務所の会見(撮影:尾形文繁)
一部上場企業の社長や企業幹部、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどのプライベートコーチング」に携わり、これまでに1000人の話し方を変えてきた岡本純子氏。たった2時間のコーチングで、「棒読み・棒立ち」のエグゼクティブを、会場を「総立ち」にさせるほどの堂々とした話し手に変える「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれている。
その岡本氏が、全メソッドを公開し、累計20万部のベストセラーとなっている『世界最高の話し方』『世界最高の雑談力』に続き、待望の新刊『世界最高の伝え方── 人間関係のモヤモヤ、ストレスがいっきに消える!「伝説の家庭教師」が教える「7つの言い換え」の魔法』がついに発売され、発売たちまち大増刷するなど話題を呼んでいる。
コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏がジャニーズ会見「メディアの質問」の問題点について解説する。
メディア側の質問ぶりが…カオスな状況が展開
ジャニーズ事務所としての2回目の会見が開かれ、東山紀之社長や関連会社社長の井ノ原快彦氏などが登壇し、社名変更や新会社設立などを発表しました。
踏み込んだ内容について、冷静に対応した2人に対し、目立ってしまったのが、粘着質なクレーマーのようなメディア側の質問ぶりです。
長々と持論を述べたり、道理の通らない話を展開する、指名されないのに、何度も質問をぶつけるなどのカオスな状況が展開されました。
彼らの質問がいかに理不尽だったのかを掘り下げるとともに、話が長くなる人の特徴について解説していきましょう。
今回の会見では約20人のメディアから質問が出ました。
短く質問する人がほとんどでしたが、なかには、とうとうと質問を続ける人も。
たとえば、あるジャーナリストの質問はこんな感じです。
徹底的な事実調査、社長と社員が多数の児童の性虐待をしたと調査報告書に言われているが、それをしないまま、再出発できると思われる理由について、伺いたいのですが、調査報告書でも、再三にわたって、機会があったと。
文春との裁判の後、ジャニー、メリーの両氏がお亡くなりになった後、BBCの取材を受けた後ですね。前回の記者会見でもですね、何度も質問がありました。調査しないのかということ。
それに対して弁護士さんが、被害者申告があれば、調査するとおっしゃっていましたが、それは非常に無責任ではないのでしょうか。
これだけ犯罪的な行為が起きていた場所であるのに、それについて、自らですね、もう一度、第三者委員会を立ち上げて、きちんと徹底的に調査をして、膿を出すと、それでこそ、再出発ができるんじゃないでしょうか。
そういうこともなくですね、臭いものにふたをしたまま、再出発ができると、お考えになる理由についてお聞かせください。
繰り返しが多く、やけに長くなっていますが、要は、最初と最後で繰り返している「徹底的な事実調査をせずに再出発できると思う理由は」の一言で済んだ質問です。
糾弾が主で、事実より意見が先に立ってしまっている
ちなみに、ジャニーズ事務所としては、すでに、第三者委員会を立てて調査を行い、報告書を発表しているため、この質問をしたとしても、「すでに調査し、結果を発表している」と答えられたら、それ以上何の回答も得られないでしょう。
もし、聞きたいのなら、「第三者委員会の調査報告の問題点や不備」を挙げ、「さらなる調査は必要とは思わないのか」と尋ねたほうが、よりロジカルです。
この質問は明らかに、「無責任ではないか」という糾弾が主で、事実より意見が先に立ってしまっているように見えます。
さらに、別のジャーナリストは次のように質問をしました。
東山さんにお伺いしたい。よく聞いてしっかりお答えいただきたいと思います。
まず、2003年の東京高裁の判決、ジャニー喜多川さんの犯罪について、事実だと判断した。2004年の最高裁で確定。その時、東山さんは38歳。そのぐらいの成人男性であれば、自分の会社のトップが児童福祉法の大犯罪を犯したことを知らないはずがないし、確定したとなれば、大変な騒ぎになると思う。
その時、東山さんはそれを、うわさでは知っていたけど、よく知らなかったというこの前の会見の話ですけれど、その答えというのは社会的には通用しない答えです。
もう一つはこの前、TBSの番組でキスマイのメンバーだった、飯田恭平さんの証言では、2003、2004年前後にジャニー喜多川さんの犯罪はあったと、それから、もう一つはカウアン・オカモトさんの証言では、2016年ごろまで、ジャニーズの合宿所にいたジャニーズJr.100人から200人がほぼ全員被害にあったという証言をされています。
ということは、東山さんは責任ある立場にありながら、ジャニー喜多川さんの犯罪について防止対策を全然取らなかった。
このことはジュリー景子さんですか、にも伺いたかったのですが、東山さん、今度新社の社長ということですので、ぜひですね、その認識をお考えをですね。お聞きしたい。
それがですね。児童福祉法の観点からは共犯か幇助犯に当たるという解釈もあるので、その辺はしっかりお答えいただきたい。
(「質問は一つに限って」という司会の申し入れに)全部一つです。東山さんのセクハラということも疑われているので、そういう方が新会社の社長ということでいいのか、お伺いしたいと思います。
質問がやたらと長く、 ある種の「公開説教」
これも、やたらと長いわけですが、まとめれば「東山さんは喜多川さんの犯罪に防止対策を取らなかったし、自らのセクハラも疑われているが、そんな人が社長でいいのか」で済む話。
共犯か幇助犯などという自説は素人目にも無理筋な話に聞こえてしまいました。
冒頭の「よく聞いてしっかり答えて」という投げかけからもうかがえるように、ある種の「公開説教」のようにも感じました。
こうした理不尽な質問に対しても、二人は感情的にならず、無難に答え続けました。
「井ノ原さんは副社長として、ジャニーさんの性加害を容認しているように映る」と批判する別の記者に対して、井ノ原さんは、「え、そうですか? 質問させてもらってもいいですか。〇〇さんがそう思われるのは……」と答えていましたが、これはまさに「神対応」。
こうした不祥事の際に意地悪な質問をしてくるメディアに対しては、「いや違う!」などと気色ばむのではなく、「〇〇ということでしょうか」「〇〇というご意見はあるようですが」といったようにいったん「クッション言葉」で受け止める、というのがプロのやり方です。
まさに教科書通りの対応だったといえるでしょう。
「1人1問」というルールにもかかわらず、1回で、2つ、3つの質問を投げる記者も多い中で、登壇者は、役割分担をしながら、丁寧にさばいていました。
2時間という時間の制約を課されたのは、メディアとしても不本意なところはあったのでしょう。
会見後半は、さらに混迷を深め…
会見は、後半さらに混迷を深めていきました。
「こっちにも回せよ」と怒号を飛ばす記者、おぞましい性加害のディテールに触れる質問をする記者など、もはや治外法権状態。
さらに、指名されないのに、何度もしつこく大声で質問をする記者もいて、井ノ原氏が耐え切れず、
「こういう会見の場は生放送の場で伝わっており、ルールを大人の姿を会見では見せていきたいと思っていますので、どうか、どうか、落ち着いてお願いします」
と呼びかけ、記者からは拍手がわき起こっていました。
私も10年間新聞記者をしていたのですが、すべての記者がこんな感じでは決してありません。
むしろ、こうした長々と質問する記者には何度も遭遇し、会見を長引かせることに、苦々しい思いをしてきました。
だからこそ、拍手した記者の気持ちがよくわかります。
心理学の研究などによれば、話が長い人には下記の特徴があるそうです。
★不安を感じている
そもそも、不安を感じており、どうにかして人を感心させたい、外部から評価されたいという思いから、話しすぎる。
★自己愛的な性格の持ち主
しゃべりすぎは、ある程度のナルシシズムを示している可能性がある。ナルシシストタイプの人は、自尊心が傷つきやすいので、自信たっぷりに振る舞うことで埋め合わせをしようとする。注目されることを切望し、常に自分に焦点を戻すことで会話をコントロールする。
★孤独感がある
口数が多い人は、社交の機会が少ない可能性がある。
これは、あくまでも一般論でしかありませんが、個人の性格や特質はさておき、もう一度、記者としての役割に立ち返る必要があるでしょう。
「記者会見=会見者を理不尽に責め立てる」ではない
記者会見におけるメディアの役割は、質問をすることによって、事態を解明に導いたり、「新たな視点や視座」を提供することであって、持論をとうとうと披瀝したり、会見者を理不尽に責め立てることではないはずです。
ただでさえ、「マスゴミ」などと十把一絡げにまとめられてしまう時代だからこそ、メディアとしても「話し方」や「伝え方」「倫理観に立脚した立ち居振る舞い」について、しっかりと考え直すべきなのではないでしょうか。
(岡本 純子 : コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師)