新球場と千歳線(筆者撮影)

2023年9月13日、JR北海道は、プロ野球・日本ハムファイターズの新本拠地「エスコンフィールド北海道」の隣接地に整備する新駅の見直し計画を発表した。新しい計画では、当初案の予定地から北広島駅方面に200m位置をずらし駅の構造を簡略化。総工費を「最大で125億円」とした今年2月の想定よりも工費を約3割圧縮した85〜90億円とした。

建設費全額を北広島市が負担

新駅には、原則として快速列車や特急列車を停車させずに普通列車のみを停車させる計画で、ホームは待避線上に建設。列車の折り返しは新駅への引上げ線の建設をやめ、北広島駅の待避線を活用して列車の折り返しを行う方式に変更するという。

これを受け北広島市はJR北海道の計画に同意する方向で最終調整に入ったというが、市議会では「それでも工費が高い」と新駅整備の必要性について賛否が分かれているという。事業費が100億円に迫るものは首都圏の新駅整備くらいで、それ以外の地方都市圏は高くても50億円以内に収まっていることは、2023年6月13日付記事(日ハム新球場付近に建設「新駅計画」見直しの背景)でも触れたとおりで、見直し後の85〜90億円の建設費についても高額であることには変わりない。新駅は請願駅であることから建設費の全額が北広島市の負担となる。

当初、JR北海道が2019年12月に発表した北海道ボールパーク新駅の概要は、新球場に隣接したJR千歳線の曲線区間に上下線共用の島式ホーム1面を設置し、改札口のある駅舎との間を1つの跨線橋で接続。ホームと接した線路の外側には、特急列車や快速列車、貨物列車を通過させるための通過線を敷設。北広島・新千歳空港方面には札幌方面からの臨時列車の折り返しを行うための引き上げ線を敷設し、駅の全長は500mという大掛かりなものだった。

総工費は80〜90億円で工期は7年とされたが、その後、JR北海道は北広島市に対して、人件費や資材価格の高騰を理由に当初のおよそ4割増しとなる「最大で125億円」を要求。北広島市は「その工費での合意は難しい」としてJR北海道に見直しを求めることとなった。

地元経済誌からは、「工費の大部分が通過線や引上げ線にかかる軌道工事費」となっており、それに伴う架線や信号工事も含めて建設費が膨れ上がっていることが指摘されていた。こうした特殊な工事は、基本的にはJR北海道のグループ会社の受注が前提となる。

JR北海道が主張する過密ダイヤは本当か

JR北海道は、新駅の通過線と引上げ線の必要性について千歳線の過密ダイヤを理由に挙げていた。

2019年4月に発表された「JR北海道グループ長期経営ビジョン 未来2031」では、千歳線の状況について8時台と16時台、17時台についてこれ以上の旅客列車の増発は困難な状況にあると説明。具体的には、ボールパーク新駅予定地を含む札幌―南千歳間には、快速エアポートのほか、普通列車、特急列車、貨物列車と4つの異なる種別の列車が運行されていること。平和―新札幌間に存在する札幌貨物ターミナル駅から千歳線への合流部について、貨物列車が入線する場合に札幌方面の下り線と平面交差することからダイヤ設定上の制約があることがその理由だ。

最新の2023年3月改正のダイヤでは、一番本数の多い平日8時台に片道11本(うち特別快速1本、快速4本、特急2本、普通3本、貨物1本)が設定されており、列車間隔の平均は5.4分だった。

しかし、JR北海道の札幌―南千歳間よりも過密かつ複雑なダイヤで列車の運行を行っている路線は多い。例えば、名古屋市の名鉄名古屋駅では、札幌駅全体の約1.5倍の列車本数があるにもかかわらず、これを2本の線路と3面のホームのみでさばいている。一番、本数の多い平日8時台には豊橋方面に片道28本(うち特急ミュースカイ2本、特急7本、快速急行1本、急行10本、準急3本、普通5本)が設定されており、列車間隔の平均は2.1分だ。

このうち特急ミュースカイを始めとした中部国際空港行の空港連絡列車は6本で、名鉄は空港アクセスを担っている点でも千歳線と似た状況にある。名鉄名古屋駅からの行先は多岐にわたり、豊橋方面だけでも途中で名古屋本線から常滑線や河和線、豊川線などに分岐しさまざまな方面に直通する。岐阜方面についても名古屋本線と犬山線の分岐部では平面交差が存在するなど、名鉄では限られた鉄道施設を活用してJR千歳線よりもはるかに過密で複雑な運行を行っていることから、JR北海道の「千歳線が過密ダイヤだ」という主張には疑問符が付く。

見直し後の計画でも通過線は残されることになったが、結果としてこれが工費と工期を膨らませていることには変わりはない。

複数案を比較すべきだった? 

富山市交通政策監で富山大学特別研究教授の中川大氏は、ボールパーク新駅の折り返し線について「実際にダイヤを作ってみるとわかると思うが、札幌側から来た列車を新駅で折り返すのは非効率で引上げ線の効果はそれほど大きくないと思われる」と指摘していた。

例えば、阪神タイガースの本拠地最寄りの阪神電鉄甲子園駅では、試合終了後に大阪・梅田方面に向かう臨時列車は、甲子園駅の折り返し線だけでは待機させられる列車の本数に限りがあることから、あらかじめ約2.6km西の西宮駅や10km以上離れた石屋川車庫に待機させておいた列車が試合終了に合わせて続々と甲子園駅に送り込まれてくる。 

これについては、JR北海道の見直し案ではボールパーク新駅での引上げ線をやめ、北広島駅構内の引上げ線を活用して列車の折り返しを行う案に修正されたことについては理にかなっていると言える。

中川氏は「JR案しか選択肢がないわけではなく、ほかの案も検討されてもよかったのではないか」と続けた。「跨線橋を不要とし利用者の利便性確保と事業費抑制の両立を図るためには、すでに線路をくぐる歩道のある場所にホームのみを設置する案のほかに、JR案の駅舎建設を予定している更地となっているエリアに平面の引込線を複数作るという発想もありえたので、いずれにせよ複数の案を比較することが必要だったのではないか」と話す。

近年のJR北海道の新駅整備については、企業や自治体が費用の全額を負担する請願駅方式が前提で、2022年3月に開業した札沼線(学園都市線)のロイズタウン駅では平屋の駅舎と6両分ホーム1面(135m)に約9.3億円の事業費が、宗谷本線の名寄高校駅では待合室と2両分ホーム1面(50m)に約6000万円が投じられた。

特に、製菓メーカーのロイズコンフェクトが全額を負担したロイズタウン駅については割高感が否めない。富山県の新駅や名寄高校駅のデータを参考にホーム10mあたり1000万円の建設費を基準にするとロイズタウン駅のホームは135mで建設費は約1.4億円ですむことになる。また、国鉄分割民営化を翌年に控えた1986年からJR北海道発足後の1995年にかけて札幌近郊の発寒中央や新川など13駅の大半が自費で新設されたが、当時をよく知る関係者は新駅建設費については「1駅で1億円もかかっていなかった」と証言する。筆者はJR北海道に対してもこれらの新駅建設費について質問をしてみたが、「請願駅以外の新駅については、建設費の対象範囲は曖昧で駅により異なるため回答できない」とのことであった。

鉄道素人集団に成り下がった?

本来であれば、エスコンフィールド北海道の開業は、JR北海道にとっても大きなビジネスチャンスになるはずで、地域との連携のもと速やかに新駅を建設し利便性の向上を図ることで鉄道利用者の拡大を図ることが鉄道事業者の務めである。

しかし、あるJR北海道関係者は「鉄道計画に詳しい幹部の大半はすでにJR北海道を去っている」と証言する。こうしたことから、JR北海道にはすでに鉄道経営を行う力はなく、鉄道素人集団に陥っていることが予測される。

札幌市の人口は約195万人で小樽市や千歳市なども含めた札幌都市圏の人口は250万人に迫る。2022年度の札幌都市圏の輸送密度は、空港アクセスを担う白石―苫小牧間の3万8410人が最も多く、ほかの路線も大半が3万人を超えている。これだけ利用者の多い札幌都市圏にもかかわらず年間の赤字額は約71億円であった。満足な鉄道経営はおろか新駅計画すらままならないJR北海道は不思議としか言いようがない。

(櫛田 泉 : 経済ジャーナリスト)