美団の即時零售サービス「美団閃購」は、ネット出前のインフラを活用して様々な商品を宅配する(写真は同社ウェブサイトより)

中国で「即時零售(オンデマンド・リテール)」と呼ばれる新たなネット小売り業態が急成長している。スマートフォンのアプリを通じて生鮮食品や日用雑貨を注文すると、早ければ数十分という短時間で自宅まで届けてもらえるサービスだ。

「市場規模は2023年中に5000億元(約10兆1187億円)を突破するだろう」。中国のネット出前最大手で、オンライン旅行予約など様々な生活関連サービスを手がける美団(メイトゥアン)の高級副総裁(上級副社長に相当)の王莆中氏は、9月14日に北京で開催した即時零售のイベントでそんな予想を示した。

投資先行で消費者の心つかむ

即時零售の市場規模に関しては、調査方法の違いにより複数の試算が公表されている。例えば、対象範囲を相対的に広くとった中国商務省研究院の調査レポートによれば、即時零售の市場規模は2022年に5042億8600万元(約10兆2054億円)に達し、年率50%超のペースで拡大している。

「ここ数年の目覚ましい成長は(莫大な)資本投入が後押しした面もある」。そう指摘するのは、チェーンストアの業界団体である中国連鎖経営協会の会長を務める裴亮氏だ。

裴氏の見方によれば、即時零售の急成長は消費者の利便性を高めたことが最大の要因だが、それに加えて、巨額の先行投資(を原資にした廉価販売)により消費者に「即時零售は安い」というイメージを植え付けた効果も大きいという。

中国ではネット通販やネット出前が消費者に広く普及する過程で、宅配サービスの強力なインフラが形成された。その基盤を活用し、ネットサービス大手は(あらゆる商品を顧客の玄関先まで届ける)「万物デリバリー」の実現を目指して取扱品目を拡大。かつてはスーパーマーケットの牙城だった生鮮食品の市場にも浸透しつつある。


美団は即時零售サービスのさらなる成長を目指す。写真は9月14日に開催したイベントの模様(同社ウェブサイトより)

例えば美団の即時零售サービスである「美団閃購」は、すでに4600超の大型チェーンストア、37万店の地域の小売商、(食品や日用品などの)350社の大手メーカーと提携関係を構築。生鮮食品から日用雑貨まで幅広い商品を24時間体制で受注・宅配している。

「わが社が運営する倉庫兼配送拠点はすでに5000カ所に達した。美団閃購の受注件数は1日当たり平均150万件を突破し、各拠点では毎日300件前後の注文に対応している」。美団の副総裁で美団閃購の事業責任者を務める肖昆称氏はそう話し、事業のさらなる拡大に意欲を示す。

従来型スーパーマーケットは苦況に

ネットサービス企業が攻勢を強めるなか、従来型のスーパーマーケットは二者択一の苦しい選択を迫られている。店舗近隣の固定客を基盤にしたビジネスモデルを維持するか、それとも赤字覚悟(の先行投資)で自らネットサービスに打って出るかだ。


本記事は「財新」の提供記事です

伝統的なビジネスモデルに固執すれば、事業が縮小均衡に陥るリスクがある。とはいえ、サービスのデジタル化には多額の投資が不可欠であり、(スーパーマーケット事業の利益率では)それに見合う利幅を確保できないというジレンマに直面している。

(財新記者:孫嫣然)
※原文の配信は9月15日

(財新 Biz&Tech)