国連で演説する岸田首相。日本での人気はイマイチだが、意外にも外国人投資家の評価は高い(写真:ブルームバーグ)

アメリカの連邦議会は9月30日、10月1日から11月17日までの45日間の予算執行を可能にする「つなぎ予算」案を土壇場で可決。政府機関の閉鎖を回避した。

法案は下院が賛成335票、反対91票、上院が賛成88票、反対9票だった。ただし、連邦政府の閉鎖回避を優先させるために、ウクライナへの追加援助はこのつなぎ予算案に盛り込まれていない。この件については、今後の問題点となる。

想定どおり、9月末は理想的な買い場に

さて筆者は10月以降の上昇を期待して、9月までの調整局面を「押し目買い一貫」で通し、最近では「10月よりも前に買い終われ」と主張してきた。実際に9月の後半2週間の日経平均株価は1675円の下げとなり、方針のとおり理想的な買い場となった。

ただ、この間は、原油先物価格の急騰、全米自動車労組のストライキ拡大、そして政府機関の閉鎖危機など、濃厚な相場展開だったこともあり、強気の投資家でも気迷い気味だったはずだ。今後のこともあるので、一連の事態について、あらためて基本を確認しておきたい。

まず、順序が逆転するが、アメリカ政府機関の閉鎖危機の話から始めよう。これは今まで何度も経験したことだ。しかも、ウクライナ戦争の最中にアメリカが長期間の機能不全になることは許されない。もちろん、ストライキなどは今でこそ珍しいが、昔はよくあり、相場材料としてはごく一般的なものだった。

突然で恐縮だが、筆者にはマーケット分析の師匠が2人いる。1人は筆者が1970年4月から2014年6月まで44年間在籍した立花証券の創業者、石井独眼流こと石井久氏(1923〜2016年)。もう1人は、その石井久氏を紹介してくれた小説家の清水一行氏(1931〜2010年)だ。

石井久氏は“相場の神様”として証券界に名をはせている方であり、言わずもがなだが、株の真理をイチから教わり、今でも多くの知恵を拝借している。

また、清水一行氏は、大学1年のときに『小説 兜町(しま)』を読んで感激し、自宅(当時は作者名に住所もついていた)に押しかけてから、亡くなるまでお世話になった。営業成績に困ったときに注文をいただいたり、うるさい筋とトラブったときには話をつけてくれたり、娘の名づけ親になってくれたり、銀座の飲み方を教わったり……。なぜ、こんな若造に目をかけてくれたのか、本当に感謝に堪えない。

「ストを買うなら突入時だ」

その清水一行氏は生前「問題は発生したときが買い場だ。そこで勇気を出して買える力があるかどうかが相場で財を成す分かれ道」と言っていた。そして、当時よく起きていた企業のストライキを例に出し、「ストを買うなら突入時」と教えてくれた。

もちろん、これは突発的ネガティブ材料に対しての考え方である。ポジティブな材料、またはある程度のリスクとして事前に取り沙汰されていた場合などは「噂で買(売)って実現で売る(買う)」という格言もあり、1つ1つの判断は簡単ではない。だから相場は面白いのだ。

実際、今回のアメリカのケースでは、政府機関閉鎖の可能性は五分五分だったかもしれず、もちろんネガティブ材料だった。もし「閉鎖!」となって売られたら、そこは買い場と考えるのが「ストを買うなら突入時」の考え方だ。ひとまず45日間の余裕ができたわけだが、45日後にそのときがまたやってくる。今後の相場展開の中で、しっかり考え方を固めておくところでもある。

しかも、アメリカに比べて日本のファンダメンタルズ(基礎的条件)は良好だ。周りを見渡しても中国は「景気低迷」、欧州は「スタグフレーション(景気停滞と物価上昇が同時に起きること)」であることを考えると、日本は世界の投資資金を集める魅力を十分持っている。

しかし、残念ながら日本人の習性として、変化は外圧によって起きる例が多い。とくに国民は、日本の政治家に対する尊敬の念が薄い。今のところ、政権が唱える5つの政策(物価対策、賃上げ実現、国内投資の促進、人口対策、防災対策)に対する評価も極めて低いままだ。

「国策に売りなし」は依然有効

そこで、筆者が紹介したいのが、「政策に資金を乗せろ」(国策に売りなし)だ。実は、アメリカに本拠を置く大手運用会社ブラックロックなど、世界の名だたるファンドは国内勢よりもはるかに高い評価をこの政策に与えている。

世界は物価上昇を抑えるために、ハードランディングの危険を冒してまで利上げ・引き締め政策をとっている。だが、日本は前向きに政策を実行する環境にある。もちろん、今後どれだけの成果が出るかはわからない。だが、まずこの政策に資金を乗せるのが先人から学んだ知恵だ。

さて、主な今週の予定を見てみよう。前出のように10月の立ち合いは2日から始まる。ここで出てくる相場格言は「2日新甫は荒れる」だ。商品相場発祥とされる格言で、月の取引の最初の日が1日ではない月は荒れるというものだが、アメリカの議会は「閉鎖回避」となったことで、むしろ買いが入るかどうか注目される。

一方、2日は寄り付き前に日銀短観(9月調査)も発表となる。大企業DIの製造業がプラス6、非製造業はプラス24と予想されている。

また、アメリカの指標は注意したい。2日の9月ISM製造業景況感指数は8月の47.6を上回るかどうか。3日は8月JOLTS求人件数、4日の9月ADP雇用レポートや9月ISM非製造業景況指数も市場に影響しそうだ。週の最後は6日の9月雇用統計だ。政府機関が閉鎖となっていれば、データが出なかった。だが無事に出てくることになって、やれやれだ。

とにかく、直前の急落で買った投資家には十分な余裕ができたことだろう。10月相場に期待しよう。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)